第291話掃除

「俺、ちょっとこの後うちの長谷部の様子見てきますんで」


「あ、長谷部君大丈夫?」


「大丈夫っすよ。京山さんの気合に比べれば三原のタコの道具なんか『朝飯前』どころか『寝起き直後』ですよ。飯塚さん」


「あれ?宮部君もおやじの教えを?」


「はい?」


「いや、『朝飯前』どころか『寝起き直後』ってうちのおやじの口癖でして」


「はあ…」


 うーん、朝飯前より寝起き直後の方が早いよねと思う飯塚。と、同時に、ちょっと面白いなあとも思う飯塚。


「まあ、たなりんと間宮のことはこれ以上とやかく言うつもりもありませんし、たなりんに任せますよ。ただ、たなりん」


「何なりか?」


「長谷部はいい奴だったろ」


「うん。長谷部っちはいい奴なりね」


「その長谷部っちは間宮の手下にボコ食らったってことは忘れんなよ」


「うう…、そうなり…。でも…」


「その優柔不断が悪いとは言わねえ。うちのチームはメンバー全員が間宮にゃ一発入れなきゃ気が済まねえ連中ばっかなのも事実。当然この俺も同じ考えだ」


「宮部君。たなりんのことは後でよーく話しておくんで。今は長谷部君のところへ行ってあげてください」


 たなりんの気持ちもなんとなく分かる飯塚。宮部の気持ちもなんとなく分かる飯塚。でも世良兄からのお願いを考えると義経をこっちに染めるにはたなりんと間宮との繋がりが今後活きてくるのではと思う飯塚。答えを出せない飯塚。少しイラついてる宮部を見送る三人。そして一度外に出た宮部が部屋の中へ戻ってくる。


「たなりん。送ってくよ。どうせ明日も学校だろ。ここんとこ朝帰りが続いてるし」


「あ、それがいい。たなりん。この時間だと電車も混んでるし、終電もあと少しだし。足もないし。今夜も朝マックコースだと連チャンになっちゃうし」


「そっすねえ。特に今夜はいろいろありましたし。宮部君。たなりん君を送っていってあげてください」


「宮部っち。怒ってるなりか?」


「怒ってねえよ。それより『義理の妹が爆乳なんだけどグイグイ迫ってくる拳』について教えてくれよ」


「それはなりね。ラノベのタイトルにかけててなりね」


「今はいいよ。単車で走りながら聞くよ」


「あ、そうでござるか」


「それより長谷部っちの運ばれた病院寄ってくから。まあ、会えるかどうかは分かんねえけど。一緒についてる宗助からは外傷はひでえけど命に別状はねえって連絡があったけど。宗助には俺が行くまで長谷部についてるよう言ってるから」


 そして宮部からヘルメットを受け取り、単車のケツに乗るたなりん。そして二人で夜の街を走り出す宮部とたなりん。『義理の妹が爆乳なんだけどグイグイ迫ってくる拳』の話どころか二人とも無言。宮部も、もうたなりんに『俺のこと怖いか』と聞くのは止めようと決めていた。




「そんでわしにどうせえっちゅうんや」


 怒りで顔を真っ赤にしながらも怒りを抑え込みながら小泉が言う。


「そっすねえ。まずはこのカラオケ屋の一階で暴れてる舎弟?ですか。現役のヤーさんが現行犯でパクられりゃあ大問題でしょう。デコも自殺とこういう時は携帯の履歴を遡ってきますでしょ。そういうの鬱陶しいと思うんで、舎弟さんたちにはすぐに撤収するよう連絡した方がいいですよ」


 間宮の言葉を聞き、小泉がスマホで舎弟へ電話をかける。


「おう、わしや。もうええから今すぐ逃げろ。現行犯でパクられたらしまいや」


「ですがこいつら。アニキ。慈道んところの半グレ連中ですわ」


「分かっとるわい!今やらんでもええと言うとる!早う逃げろ!」


「はい」


 ここで慈道もスマホで話す。


「おう。俺だ。デコが来てややこしいなってもしゃーないんで。お前ら相手逃がしたって。お前らもふけろ」


「はい。分かりました。でも」


「でもなんや?」


「相手の一人が血ぃだらだら流して倒れてますけど」


「うん?肩ぁ貸してやれよ。掃除しようにも掃除出来ねえんだからよ」


 ここで間宮が慈道へ声を掛ける。


「いいよいいよ。掃除なら後でルンバでやっとくからよ」


 間宮の言葉を聞き、軽く笑いながら慈道が電話を切る。


「さて。しばらくはここで歌ってた方が安全ですよ。小泉さん。さっき歌いたいって言ってましたよね。好きなだけ歌ってくださいよ。おら、慈道。フロントに電話してタンバリン持ってこさせろよ」


「分かりました」


 そしてボーイさんが部屋へタンバリンを運んでくる。


「ボウイさんのナンバーでぇー!『まりおねっと』!」


 間宮のハイテンションボイスがマイクでさらに大きく部屋中へと響き渡る。

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