第276話友情すとれーと

「おい。長谷部からラインが来てんゼ」


「スタンプ二個連発ってよ」


 長谷部からのSOSを受け取る各『藻府藻府』メンバー。ちょっと意味不明な田所と飯塚がそれぞれメンバーに質問する。


「長谷部君からラインスタンプが二つ来てますがこれって何かの合図っすか?」


「これはメンバーにしか分からない合図です。片手で画面を見なくても送れるもんなら何でもいいんです。そういう状況で送ったであろうってのが分かればいいんです。今、長谷場はそういう状況ってことを意味するんです。これは」


「これはメンバー全員に送られてるってことだよね?」


「そうです。飯塚さん」


「てことは…」


「天草、三原のどっちか。もしくは緊急ってことは二人同時…。長谷部はたなりんと二人きりだ。ヤバくねえか」


 三組に分かれた『飯塚、エコ、冴羽班』、『田所、コージ、二ちゃん班』、『宮部、宗助、勝班』で同じような会話が。宮部が速攻でラインを流す。


『長谷部は今、田島公園にたなりんと二人でいる。最悪を想定し全員田島公園に向かえ!』


 宮部からのメッセージを確認し、それぞれが『おす!』とハンドルを切り替えて田島公園を目指す。そこから単車のケツに乗っている飯塚、田所、宗助がラインで言葉を交わす。


『こちら宮部班。田島公園には十分ほどで到着予定』


『こちら飯塚。田島公園には二十分ほど』


『こちら田所。目的地には十五分ほどっす』


「宮部、うちらが一番速くつきそうだぜ」


「他の班はどれぐらいつってる!?」


「飯塚さんところが二十分ほどで田所さんところが十五分ほどだそうだ!」


「じゃあこう送ってくれ!『俺と宗助、勝で最初に田島公園に突っ込む。俺ら三人でもヤバそうなら田所さん、二ちゃん、コージも突っ込むよう!一番遠い飯塚さん、エコ、冴羽は近辺で待機!基本、俺ら三人で何とかする!田所さん、二ちゃん、コージも基本待機!』と!」


「了解!」


「たなりん…、待ってろよ…。ちっ、やっぱり俺のケツに乗っけてりゃあよかったじゃねえか…。長谷部…、待ってろや…、持ちこたえろや…」


 最悪を想定しながら夜の街を駆け抜ける宮部。そして宮部に離されないよう宗助を乗せながら必死で単車を飛ばす勝。宮部の頭の中をいろんな可能性が過るが天草、三原以外考えられない。比留間やマシマシは潰した。そもそもたなりんと一緒だろうと長谷部一人でも何とかなる。世良はもっとあり得ない。世良ならたなりんが一緒なら無茶はしない。間宮が直に動くのは考えられない。軍紀なら…。もっと真正面から来るはず。他にも恨みを持ってそうな奴は山ほどいたが可能性の問題。間宮んところのヤー公か?



「う、うう…、長谷部っち…」


 三原とのタイマン勝負。長谷部も現役『藻府藻府』としていい勝負を展開する。『藻府藻府』のやり方をよく知る者同士のタイマン。しかしそれもすぐに均衡が破れる。


「おるあああ!」


 江戸川の怒声に反応する長谷部。その一瞬の隙を逃さない三原。三原のエンジニアでのトゥキックが長谷部のわき腹を捉える。


「はがあっ!」


 わき腹を抑えしゃがみ込む長谷部。そこへ三原のエンジニアでの連打。


「んだらあ!クソが!舐めてんじゃねえぞ!このクソガキ!」


 それでも致命傷を避けようと必死で三原の蹴りを掴もうとする長谷部。そして三原の足をがっちりと掴む。そんな長谷部を片足で自分の方へ引きずりこみ、そこから打ち下ろされる三原のメリケンサックでのパンチがエンジニアをもろに食らったわき腹を捉える。


「うがああああ!」


「はっはあー!いい声で泣けやああああああああ!」


 メリケンサックの殺傷能力はすでに多くのユーチューバーが実証済みである。一発食らうだけで致命傷となる。二発目、三発目と打ち下ろす『キチガイ』三原。


「がああああああ!」


「ぐわああああ!」


 絶叫する長谷部。そして失神してもおかしくない激痛の中、長谷部は繰り返す。


「…に、逃げろ…、たなりん…」


「ああ?何だあ?」


 長谷部の力が抜け、自由を取り戻した足で再度エンジニアでの蹴りを長谷部のわき腹へ入れる三原。


「うごおおおおおおおおおお!」


 それでも気合で自分へ三原の気を引こうとする長谷部。


「…おい、おりゃあ…まだ、いけんぞ…。みはらあ…」


「あ?よええ癖に根性だけはいっちょまえかあ。さすが十代目。ドM根性だきゃあ認めたるわ。でもよお、お前みたいなザコに時間かけとる暇はねえんでよお。死ねや」


 そう言って三原が大きく足を上げる。そして次の瞬間。


 カコ―ン。


 三原の頭におしるこの缶が直撃する。


 長谷部目掛けて降り下ろすはずだった足を地面に下ろし三原が叫ぶ。


「誰じゃあ!」


「…、そ、そ、それ以上…、長谷部っち…を痛めつけることは…、ゆ、ゆ、ゆ、ゆる、ゆる、許さない、なりよ…」


「…ばっかやろう…、たなりん…。お前…」


 大投手が投げ終わったかのような姿勢でたなりんが勇気を振り絞る。


「はっはあー!三原ぁ!ざまあねえなあ!一人じゃキツイってか!?」


「うるせえ!」


 三原の目がたなりんを捉える。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る