第254話RINATAN0721

「世良ぁ…、てめえつええじゃねえか」


「何言ってんの?今頃。つーか、お前が弱すぎんじゃねえの。天草。お前が『間宮君のお友達枠』じゃねえの?」


「くそがあああああああ!」


 起き上がった天草の猛攻をすべて『受け流し』ながら呟く義経。


「えーと、凹んだ『あるらきゅうへいあおい』の箱の分はさっきのでえ。次は…」


 打撃系がダメならと義経の腕を掴みにかかる天草。そして体勢を崩そうと思い切り引っ張る。義経は踏ん張りからの天草が引っ張る方向へのベクトルへ力を入れる。柔道でいうところの崩しである。『てこの原理』を知り尽くした義経だからこそなせる業。


「『あるらきゅうへいあおい』をゲットできなかったたなりんの分!」


 掴まれた腕を掴まれてない腕で掴み返し、少しだけ力を入れる。それだけで天草の掴んだ手は義経の腕を放す。そして腕を曲がらない方へ回され、そのまま誘導されるよう義経にいいようにあしらわれる天草。三度目の宙を舞う。そして後頭部から地面へと落下。ダメージを抑えるのが精一杯の天草が呟く。


「嘘だろ…」


「じゃあ、次は転売ヤーのせいで『あるらきゅうへいあおい』の再販バージョンを高額に売りつけられた奴の分!」


 義経の圧倒的強さを目の当たりにした飯塚、江古田、冴羽の三人は黙ってその光景を見ているだけしかできない。心の中で「いいぞ!あんちゃんをそのままぶっ倒せえ!『撮れ高』は置いといてえ。ここは危機回避第一!」と思う飯塚。「つええ…。これが世良…」と思う江古田と冴羽。


「世良ぁ…。おめえ…、やる相手が違うんじゃねえのか…。間宮がこれを知ったら…」


「あ?間宮君は『模索模索』を割ったの知らねえの。お前。『お友達枠』じゃあそれすらも聞かされてねえんじゃねえの?つーか、お前、弱すぎ」


 一人ひとりが核弾頭クラスの『藻府藻府』メンバーの冴羽を倒し、連戦で江古田を圧倒していた天草を子ども扱いする義経。天草が弱いのではない。世良が強すぎるのはこの場にいるもの全員が分かっていた。


「…俺ら、間宮の下だろ…。こいつらは間宮の敵だぞ…」


「ごちゃごちゃうるせーよ。間宮君、間宮君ってお前は誰だよ。俺は俺の気に入らねえ奴をぶっ飛ばすだけだ。ばーか」


 ゴキッ!


「くっ!」


 天草が苦痛の表情で右腕をぶらりと垂らす。義経が実戦ケンカで関節外しを決め、勝負は決まる。


「今のは『ストリートアライブ』で勝てねえ俺の怒りの分だ。その腕で分かんだろ。お前じゃどう転んでも俺には勝てねえ。『あるらきゅうへいあおい』の箱を蹴ったのは許してやっから消えろ」


「ちっ!クソが!」


 そう言ってその場から立ち去る天草。そこで飯塚が義経へ声をかける。


「世良さん!お疲れ様です!預かってた大事な『あるらきゅうへいあおい』はここです!それより世良さんは『ストリートアライブ』もやってらっしゃるんですね!僕もやってますうううう!」


 世良と何とか仲良しになろうと媚びを売る飯塚。それを後ろから見守る江古田と冴羽。


「え?飯塚さんもやるんすか?『ストリートアライブ』」


「やりますよおおおおおおおおお!でもたなりんがめちゃめちゃ強くてですね」


「え?たなりんもやってんの?」


「たなりんはネット界隈でも有名ですよ。『RINATAN0721』ってプレイヤーをご存じありませんか?」


「あ!あれって…、『りなたん』、『りなたん』、『たなりん』ってことかあ!たなりんすげええええ!うわ!俺、すげえ奴とツレになれたんだあ!」


 うわあー、この世良君はひょっとして宮部っちとも意気投合するんじゃないかと思う飯塚。天草にやられ、間宮とつるんでいる世良と仲良くすることに納得は出来ないがたなりんのツレということで思いを胸に押さえつける冴羽。江古田も冴羽と同じような気持ちを持つ。そして共通してもう一つの思い。


「こいつには勝てる気がしねえ」


 この見た目は間宮同様半グレどころかその辺の少年にしか見えない世良義経が今後の間宮対『組チューバー』の鍵を握ることとなる。

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