第253話お静かに
間宮は一人、市立図書館にいた。この街で購入したゲーミング小型パソコンをスマホのデザリングでネットに繋げる。音が周りに漏れないようブルートゥースではなく有線イヤフォンを片耳にはめながらパソコンをいじる。その物静かな雰囲気に地味な見た目は周りに溶け込む。ゲーミング小型パソコンのディスプレイには覗き見防止フィルターをきっちりと貼っている。
(んだよ…。三原の野郎、コージと二ちゃんの二人にやられてんじゃねえか…)
SNSでバズった『かかと落とし』動画を観ながら心の中でそう呟く。そして。
(つーか、これは明らかに過去ツイからみてもツイ主はパンピーだろ。前の宮部と鹿島の動画に続けてたて続けにこんなにバズんのかよ)
そしてパソコンの画面を閉じ、読書に勤しむ。過去に何度も読み返した古い洋書。短編集が好みである。ヘクター・ヒューマンローやウィリアム・シドニー・ポーター、ギ・ド・モーパッサン。そしてアルベール・カミュ。小学一年、七歳の頃に海外の古い洋書に出会った。訳者の意図なのかは分からないが無駄な文字が一つもないその文章、物語、思想に感銘を受けた。これらの洋書に比べると現代の本はクソだと思っている。稚拙な文章に先の読めるどこかで見たようなオリジナリティの欠片もないシナリオ。ただ専門家の書く専門書は今でも好んで読む。個人のブログなども読む。昔の映画に出てくるキチガイがクラッシックを好んで聴くのもあながち分かる気がした。専門的な知識、例えば地球儀を見るのが好きだが『ロシアやカナダの広さ』や『日本の領域(領海・排他的経済水域を合わせた海洋面積)は世界で六番目に広い』などは調べれば得られる正しい知識としてそれらから、そして日常の暴力、人間というものの弱さ・愚かさ・狡さを『生きた経験』から得た。一日の時間が二十四時間と決まっていることを理解し、その時間を有効に使うことが大切なことであり、また、難しいことであると考えるようになった。自分の時間が取れる時、たまに何度も読み返してきた古い洋書を読み返す。頭の中を空っぽにして読めるのがいい。それでも物語は自然と頭に入ってくる。その感覚が好きだった。そんな時間を図書館で過ごしていた。そしてふと頭の中に閃きが。読みかけの古い洋書を閉じ、再びゲーミング小型パソコンを起動させる。そしてユーチューブの動画を検索していく。ブラインドタッチで小さなキーボードをミスることなく正確に打ち込む。右手親指でキーボードマウスを無駄なく操作する。
『飯塚』
出てこない。
『いいづか』
出てこない。
どんどんそれらしき文字を打ち込む。そして『メシづか』の単語で動きが止まる。再生回数三百ちょっとの動画。チャンネル名『メシづかチャンネル』。そしてそのチャンネルの動画を再生する。二本目、三本目、四本目。そして心の中で呟く。
(みーつけた♪)
飯塚が底辺ユーチューバー時代に世に出した動画とチャンネルはそのまま放置状態で残っていた。それを間宮は見つけた。頭の中で可能性が一気に高まる。
(飯塚さん。あんた、『アウトロー系』に鞍替えたんじゃねえの)
そしてマナーモードにしてあるスマホで同じ動画を再生させる。アドレスをコピーし、ラインで一人グループへと送信する。そしてゲーミング小型パソコンを閉じ、読書の続きをする間宮は『組チューバー』の存在へ一気にたどり着いた。
「かしら。さっきから何をイライラされてるんですか?俺らに何でも言ってください」
「うるせえ!人の心配してる余裕があんなら銭稼いでこんかい!」
間宮の後ろに映る蜜気魔薄組組長・伊勢の姿が頭の中で自分を小馬鹿にした笑いを見せる。
(あの三下のソロバンやくざがガキ使って調子に乗りやがって…。『身二舞鵜須組』の若頭やっとるわしに『三日待ってやる』だと…。クソが!)
実際に間宮から手にした四千万円という大金と旨い話に、格下の伊勢に転がされてるようでムカつき、イライラが止まらない小泉。ただ、どうしても心の中で「もしかしたら」との考えが消えない。
(わしがおやじを…)
シャブをシノギにしている現状や金回りが厳しい今の時代が小泉の頭と心を悩ませる。
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