第247話セーラー服と四捨五入
「す、すごい…。これが『藻府藻府』どうしのケンカ…。バス停て…。あれを持ちあげる?片手で?あれを曲げる?」
これまたすごい動画が撮れちゃったよー、と思いながらも冴羽と天草のガチタイマン勝負を見ながら興奮する飯塚。
「いや。あのバカ野郎の負けですよ。飯塚さん」
江古田が呆れた表情でタバコを咥えながら飯塚へ近付き、言い放つ。
「え?江古田君。そうなの?でも冴羽君もいい勝負してるみたいだけど…」
お互いの髪の毛を掴むのは止め、改めて向かい合う冴羽と天草。それを不満げに江古田が言う。
「あ、『エコ』でいいですよ。チームの連中もみんなそう呼んでますんで」
「じゃあ、エコ君から見て。勝負はすでについていると?」
タバコの煙を吐きながら江古田が答える。
「そうです。俺らは愚連隊であり走り屋です。ケンカに手段は選ばんです。先代の京山先輩からぶん殴られ、ヤキを頂いてそれを体で覚えたんです。教えて貰ったんです。今、この場は『二対一』なんです。飯塚さんが応援に来てくれましたから『三対一』なんです。天草だろうが囲んでタコにすればそれで勝てるケンカなんです。それをあのバカは『タイマン』だとか『手を出すな』とか。その時点で京山さんの教えを分かってないんですよ」
「え?じゃあ…、冴羽君が敗けたら…」
「まあ、あの金八ゴリラも連戦なら勝負にならんでしょう。今のうちにいい『動画』を撮っておいてください。疲れた金八ゴリラは俺一人でやれるでしょう。ただ、『藻府藻府』は『キチガイ』をやれないと務まらんのです。ま、冴羽と天草の違いは一つだけですね。シャブに狂った間宮を知らねえんですよ。冴羽は。天草はそれを実際に見てるし知ってる。その差ですね」
「それは確か…、健司が『肉球会』に単身で乗り込んだ…」
「ええ。『シャブだけはやるな』。キチガイたちが守り通した唯一のルールです」
金八先生と言うより『あんちゃん』に似てる天草はその見た目とは裏腹に怪力とスピードを併せ持つ。そして冴羽もさすが十代目『藻府藻府』。サシで天草と互角に渡り合う。
「セーラー服とししゃごにゅう!」
冴羽はケンカの最中に訳の分からないことを叫ぶ。そしてケンカはスポーツではない。数分もあればケリがつく。天草が繰り出した渾身の裏拳を顎にまともに食らった冴羽がふらつく。今、冴羽は脳が激しく揺れている感覚に陥っている。そこを逃さず天草が右足蹴りを三発。たて続けに冴羽の側頭部へ叩き込む。
「舐めっだらねえぞおおおおおお!おるああああああ!」
叫びながら根性で倒れるのを堪える冴羽。
「やっぱよええ奴にはその看板が似合ってるわ」
『藻府藻府』の特攻服を着た冴羽はフラフラになりながら根性を見せるが飯塚から見てもタオルを投げ込むのが賢明であるのが分かる。天草はそんな冴羽を柔道で言うところの『大内刈り』で地面へと思い切り体重を乗せ、叩きつける。
「んだらあああああああ!」
負けを認めない冴羽が怒声を発し、まだまだやれるとアピールする。そんな冴羽へ引導を渡すよう、天草が冴羽の背後へ回りチョークスリーパーで首をがっちり締める。飯塚が「これは決まった」と思った瞬間。江古田が素早く飛び出す。
スパーン!
両腕でがっちりと冴羽の首をロックしていた天草の顔面目掛けてのエンジニアでの蹴り。
「あ?タイマンじゃねえのか?エコよお」
冴羽へのチョークスリーパーを外し、江古田のエンジニアを受け止める天草。
「ああ。お前の勝ちだわ。次は俺が相手になってやんよ。それとも少し『休憩』が必要か?」
「休憩?何もしてねえのに休みなんかいらねえよ。おら」
「鼻血出しながら言っても説得力ねえよ」
「うるせえ!」
同じ頃、新藤対軍紀のタイマン勝負が。そして。コージと二ちゃんと合流した田所はゲーセンで三原を、谷島宗助と水谷勝と合流した宮部とたなりんはパチ屋で江戸川を襲撃。
「せやからあー。この人形とったるさかい、とったら姉ちゃんら、わしと一緒にカラオケ行こおで」
クレーンゲーム前でナンパ中の三原を見た田所がコージと二ちゃんへ言う。
「これ、『リーゼントでナンパしてみた!』動画を撮りたいんですが。ちょっと泳がせてみてもいいっすかねえ」
「はあ…」
田所は『組チューバー』優先で動いていた。
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