第223話「お前、もしかしてまだ自分が殺されないとでも思ってねえか」

 忍は決して弱くない。むしろ元『藻府藻府』だけあり相当強い。だが今の京山はさらに強い。


「半グレごときの小僧がぁ!極道舐め腐りやがって!おうこら」


 人間サンドバックとなる忍。


「おう。ここやったらいくらでも叫んでええぞ。だーれにも聞こえんからなあ」


「か、勘弁してくだ…」


 許しを請う言葉しか口に出来ない忍の髪の毛を掴み、壁へと顔面をガンガン叩きつける京山。血が飛ぶ。歯のかけらが飛ぶ。忍の鼻が曲がる。それでも一切手を抜かない京山。


「クソよええな」


 忍の髪の毛を鷲掴みしたまま、片手でタバコを取り出し咥え、火を点ける京山。そして咥えタバコのまま顔面に膝を何度も入れる京山。忍の顔面はもう人のそれの形をしていない。


「ふいまへんへひた…。はんへんひへ…」


「日本語喋れや」


 そして鷲掴みにした忍の髪の毛を思い切り振り回す。


 ブチブチブチッ!


 髪の毛がごっそりと抜け、ようやく京山の右手から逃れる忍。すかさず忍の首を右手で掴む京山。そしてその手を振り回す。宙に浮き、壁に体ごと叩きつけられる忍。そして容赦のないヤキを通り越した拷問は長時間続く。


 バシャ。


 バケツの水をかけられ失った意識を取り戻す忍。


「誰が寝ていいっつった」


 そして続く京山の拳と蹴り。怒りで疲れさえも感じない京山は唯一の栄養源としてタバコだけを何本も吸い続けながら拷問の手を緩めない。もはや言葉も発せられないグロッキー状態の忍。それでもバケツに汲まれた水をかけられては気を取り戻させられる。時にバケツの水の中へ顔を突っ込まれ窒息しそうになる。力を振り絞って抵抗するがそれを弄ぶかのように京山はわざと殺さないようギリギリで手の力を緩める。


 忍は最初にこう考えていた。


「まさか本当に殺されることはないだろう」と。後輩である自分を。それに裕木を狙ったが死んでないし。そんな甘えた考えがあった。いくらなんでも…。まさか…。車中ではずっとそう考えていた。


 そんな忍の心を読み当てるように京山が言う。


「お前、もしかしてまだ自分が殺されないとでも思ってねえか」


 その一言を聞き絶望感に支配される忍。ボロボロと涙が止まらない。そしてしょんべんとクソを同時に漏らす忍。そんな忍を見ながら京山がリボルバーの拳銃を取り出し弾丸を一度すべて掌に取り出し、中から一発だけを込めながら言う。


「『藻府藻府』んときゃあ『ロシアン缶コーヒールーレット』か。今回は本物でやろうや」


 そして思い切りレンコンをぐるぐる回す。


 『藻府藻府』名物『ロシアン缶コーヒールーレット』というものがある。文字通り、数本の缶コーヒーの口を開け、一缶だけに『痰』を入れておく。そして選んだ缶コーヒーを一気飲みさせる。主に敵対チームのリーダー格に対しておこなう『キチガイの遊び』である。『痰』入りのコーヒーを飲むまで何本でも飲ませる。『痰』のヌルっとしたのど越しを感じたものは一気に気分を悪くしてゲロを吐く。そして冷たいコーヒーなら入れ物はなんでもよかった。黒くて中が分からない。気付くまで普通のコーヒーとなんら変わらない。そしてヌルっとしたのど越しで気付く。前以て『痰』を入れるのを見せられているからたまったもんでない。そして当たりを引いてゲロを吐く姿を見てゲラゲラ笑う遊びである。


「弾は一発。運が良けりゃあ真っ先に楽になれる。口開けろや。それとも鼻の穴デカくすっか」


 そう言って拳銃の先端を忍の口に突っ込む京山。ガタガタと体の震えが止まらない忍。死に直面してようやく恐怖を知る忍。


「死ね」


 容赦なくトリガーを引く京山。

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