第197話マシマシで

「お、比留間いった。やるねえ。こうじゃねえと。で、お前は誰が勝つと思う。俺はムカつくけど『藻府藻府』のバカどもに一万円かな」


「…」


「おいおい。何シカトしてんだよ」


「忍。あの7・3、誰だ?」


 トンキの駐車場の陰から戦況を見守る忍と軍紀。


「さあ。俺もあの7・3が気になってっけど。新入りか?見ねえ顔が他にもいるしよ」


 新藤のバイクには忍のグループがGPSを取り付けていた。ピンポイントで新藤と『藻府藻府』の動きを手に入れている忍。軍紀もそれを知っている。


「ま、どっちにしろマシマシも比留間も間宮以外の下につくことはねえだろ。盃貰って極道デビューか。それとも不良の看板廃業するか」


「どっかででけえツラしてたらいじめちゃうぜ。俺」


 忍と軍紀が見守る中みつどもえの戦いが始まる。


「比留間ぁぁぁ!この負け犬が吠えてんじゃねええええ!てめえは昨日の時点でリタイヤだろうがああああ!」


「うっせええええええええええええ!俺は負けてねええええええええええええええええ!!」


「あいつら何言ってんだ」


 飯塚とたなりんのガードをしながらその様子を見ていた新藤が呟く。そして。


「飯塚さん、たなりん。あのギブスの乱入野郎は比留間って言うやつで。自分とは因縁がありますんで。あのギブスも昨日、自分が当分使い物にならんようにしたんですが。いよいよの時は自分の代わりにメンバーをつけるんで。撮影だけはよろしくお願いします」


「は、はい…」


 目の前でものすごいリアルな乱闘を目の当たりにしていた飯塚とたなりん。飯塚は多少耐性がついていたが、たなりんは完全にショックを受けていた。返事をするのが精一杯。ちなみに『組チューバー』である飯塚と田所は高画質でリモコン操作できるカメラを特攻服のボタンや腰につけたポーチなどのファスナーの穴などに取り付けて撮影をしていた。もちろん事前に宮部へ伝え許可はとってある。


「最初に負け犬を始末してやんよ」


 そう言いながら日本刀を両手で振りかぶり、突進してきた比留間目掛けて全力で振り下ろすマシマシ。『キチガイ』になれるマシマシは手加減などしない。本気で比留間を殺す気でいく。それをギブスをはめている腕でガードしようとする比留間。


 キーン!


 マシマシが振り下ろした日本刀は比留間の腕を切り落とすことなくギブスに弾かれる。


「馬鹿が。ギブスが簡単に斬れるわけねーだろ」


 そう言いながら宮部の渾身の拳がマシマシの顔面に炸裂する。後ろに二、三歩退きながら顔をゆがませ、それでも堪えるマシマシ。


「なんだそりゃあ宮部ぇ」


 それを見ていた田所にはすぐに分かる。


「あのポン刀野郎。ボクシングでいうところのスウェーってやつか。あの瞬間に頭を後ろへそらしてダメージを逃がしやがった」


 拳を入れた宮部も感覚でそれが分かっていた。その間にも残った『宇佐二夜』精鋭たちを少しずつ減らしていく『藻府藻府』メンバー。


「長谷部!」


「オス!」


「飯塚さんとたなりんを頼む」


「オス!」


 そして新藤が宮部、マシマシ、比留間へと近付く。


「おいこら負け犬とポン刀野郎。うちの大将と二対一ってか?どっちでもいいんで俺とも遊んでくれよ」


 比留間は日本刀で切り付けてきたマシマシではなく昨日自分をボコボコにした、因縁浅からぬ新藤へと殺意を向ける。トンキの駐車場へ乱入してきた時点で冷静ではない比留間。この人数の中、ようやく見つけた本命を前にし、恍惚の表情を見せながら言う。


「みーつけたあ…」


 その間に日本刀を持ったマシマシとステゴロの宮部が対峙する。

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