第170話ナリ

「なんか揉めてたみたいですが仲直り出来てよかったみたいですねえ」


「いえ、『お父様』。我ら三人は生まれた日、時は違えども死す時は同年同月同日同曜日を願う三兄弟でござりますので」


「『たなりん』君でよかったですよね。『お父様』ではありませんよ。田所ですよ」


「あ、失礼しました!田所さん!飯塚さんとご一緒に。『今後』は宮部っちとこのたなりんのこともよろしくお願いします!ぺこりなり」


え?


「いえ。こちらこそよろしくお願いします。『たなりん』君。ぺこりナイト」


え?


 どうやら『光るもの』をたなりんから感じ取った田所。この展開は予想していなかった飯塚と宮部。


「このたなりんが加われば『撮れ高』最高の動画をバンバン量産するであります!」


「いやあー、いいねえー。『たなりん』君!頼もしい!実に頼もしい!」


 『混ぜるな危険』どころか『イケる口ですねえ!お父さん』状態になってるじゃないかと思う飯塚。


「本当にいいんですか?」


 二人に聞こえないようそっと小声で宮部が飯塚に言う。


「ん?まあ…。ラインには『一緒にいいものを撮っていこう』と書いちゃったし。『現場』班と『編集』班と分かれれば大丈夫かと…」


 飯塚の返事を聞き、宮部が少し考え込み、たなりんに近付く。


「お、『コイパツえくすてんしょん!』でござるか?」


「…たなりん。その前にいいかな」


「ん?どうしたなりか。今更になって『ドッキリのドッキリ』は無しでござるよ。それにしても田所さんとは趣味が合うでござる!とても素晴らしい出会いに感謝ですよ!」


「いえいえ。『たなりん』君。こちらこそ若くして『おやじの教え』に共通するものをたくさん身につけている『たなりん』君に驚きを隠せないですよ」


「田所さん。もう『たなりん』君はやめてくださいです。『たなりん』と呼んでくださいよお」


「そうですか。たなりん」


「はいな!」


 そこで言いにくそうにしていた宮部が覚悟を決めて伝える。


「田所さん。『あの動画』をたなりんに見せてもらえませんか。たなりん。悪い。実は隠してた訳じゃないんだけど」


「どうしたなり?宮部っち」


「いや。『動画』を見た方が説明するより早いし分かりやすいと思うんで。飯塚さんでもいいです。あの『蜜気魔薄組』のフロントを襲った動画をたなりんに見せてもらえますか」


「え…。何を言ってるなりか…。宮部っち。『襲った』って…」


 普段味わったことのない勇気を振り絞る宮部。たなりんと『対等』でいたいと思うからこその告白。


「たなりん。ごめんな。ぼ、いや、俺…、こんな『真面目』なナリしてるけど普段は『族』の頭やってんだ…」


 宮部の告白に場は沈黙する。たなりんと宮部に昔の自分と京山の姿をだぶらせる飯塚。心の中で祈るような気持ちになる。頼む…、たなりん…、ドン引きしないでくれ…、『族』やってようが『いいやつ』は『いいやつ』なんだ!頼む!と願う飯塚。すべてを察して二人を見守る田所がノートパソコンを開き、『蜜気魔薄組』フロント企業襲撃動画を再生する。


 ノートパソコンに映し出される『圧倒的暴力』。『クールにキチガイをやれる』男たちの圧倒的暴力。


「こ、こ、こ…」


 そりゃそうだよなあ…、こんなのいきなり見せられたら絶句するよなあ…、それも普段はこういうのとは無縁の世界で生きてるたなりんなら尚更そうなるよなあ…と思う飯塚。


「こ、こ、こ…」


「…悪い。たなりん。でも俺はこんなでもたなりんのことは本当に大事な『ツレ』だと思ってる。それだけは信じてくれ!」


「こ、こ、こ、こすぷれなりいいいい!これは『猫が如く』のコスプレなりねえ!たなりんに黙ってこのおー!たなりんも一緒にやるでござるよ!」


「いや!たなりん!これは」


 分かってもらおうと口を開く宮部の肩を叩く飯塚。


「もういいじゃん。ちゃんと言いたかったことも伝えられたわけだし」


「そうっすよ。飯塚ちゃん。『ふゅーちゃりんぐきらよしかげ』っすよ」


「醤油にみりん」


「いいや!絶対にお酢ね!」


「YHAEEE!」


 ピシガシグッグッと阿吽の呼吸を見せる田所とたなりん。あ、そう言うことですかと思う飯塚。そしてここからたなりんが異才を発揮する。

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