第165話ツレ

「学よ」


「はい。おやじ」


「敦と裕木があれやが組のシノギの方は大丈夫か」


「ええ。問題ありません。田所のアニキが頑張ってる分、自分らも気合入れて頑張ってますんで。それより補佐の方も回復が早くて何よりですね」


「まあ、あいつは頑丈なんが取り柄やからのお」


「はい。時期が時期なんでガードも兼ねて順番でついてるんですが。今は逆に『わしのことはええから。組の方を』と追い返される始末ですわ」


「たまには健司も顔出しとるんか?」


「ええ。あいつも前は怪我もありましたが、責任を感じてるとこもありまして。補佐の回復に一番喜んでるのも健司とちゃいますかね」


「そおか」


「こないだ行った時は『健司からの差し入れや』と。『進撃の巨人』全巻を一気読みしてましたね」


 『肉球会』のメインのシノギ、収入源は『無料情報館』である。特に今は風営法の関係でデリヘルが多い。既得権で受付を持つ店が無いため、ホームページではデリヘル嬢の顔にはモザイクがかけられている。しかし、『肉球会』が運営している『無料情報館』には広告料金を払っているお店の在籍女性のモザイク無し、顔出し写真が見れるパソコンが置かれている。その名も『無料情報館にゃんにゃん』。スマホでお店を利用する客がお店のホームページでは見れないモザイク無しの女性の顔写真。パネル詐欺もないので「夜のお遊びは『無料情報館にゃんにゃん』で」がこの街では定着している。そこで田所はフリーペーパーも発行するようにし、広告代理店をフロント企業として今は営んでいる。昔はライバル店もなかったが今は『無料情報館』の数も増え、収入が減ってきているのが現状である。組チューバー『仁義』への期待は大きい。




 一方。


「どうしよう!宮部っち!」


「いえ、もうちゃんと話すしかないかと…」


「でも…、たなりんはめっちゃ激怒してたよ…」


「そりゃあまあ…、自分がたなりんの立場でも怒ると思いますよ」


「ファミコン版『水滸伝』ならすでに僕の元を去ってると言ってたし…」


「ああ…、そりゃヤバいですね。こないだは『蒼き狼と白き牝鹿』の『オルド』はどのヴァージョンがいいか熱く語ってましたからね…」


「そんなことを…。それより宮部っちも『同罪』だと…」


「え?マジですか?」


「うん…。なんか『鉄拳制裁も辞さない』って…」


「まあ…、一発や二発は仕方ないですね。たなりんの気持ちを考えると」


 本当に宮部っちは『いいやつ』だなあと思う飯塚。と、同時に、まあたなりんって見た目がまんま『まるおすえお』君だからなあ、一発や二発どころかどれだけぶん殴ってもたなりんの方が拳を痛めるだけだよなあ…、と思う飯塚。


「でも…、こう言っちゃあれだけど。宮部っちも本当の顔はたなりんには見せてないんだね」


「ええ…。まあどっちも自分の顔なんでしょうが。これでよかったのかもしれませんね…」


「え?どうゆうこと?」


「ええ。自分もどうでもいいと思ってましたが。やっぱりたなりんも大事な『ツレ』ですし。うちのメンバーも同じく大事な『ツレ』ですし。まあ、うちのメンバーには自分の趣味のことは隠すつもりですが、たなりんにはいつか話さないといけないことなのかもって思ってたのも事実です」


「宮部っち…。なんかごめん…」


「いや、飯塚さんが謝ることじゃありませんよ。たなりんに隠し事をしてたのは事実ですし。でもたなりんなら分かってくれると信じてますが…」


 『藻府藻府』総長である宮部と電話で話してると昔を思い出す飯塚。宮部っちは健司に似てるなあと思う飯塚。

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