第156話ブルートゥース
それから連日、『肉球会』のもとへ相談があいついだ。
「親分さん…。ガキどもが街で悪さばっかりしてまして…。ちょっと目に余ります。なんとかなりませんか…」
「いきなり寝室のガラスからブロックを投げ込まれました…。幸い私や家内に直撃はしませんでしたが…」
「店の軒先にライターのオイルでしょうか…。多分そういうやつだと思いますがそれをタオルに染みこませて火を点けられました…」
街の堅気の皆様から困った時にいつも頼られていた『肉球会』。今回はちょっと数が多過ぎるし、続き過ぎる。『(『蜜気魔薄組』はやっぱり自分らの手を汚さずきたか…)』と思う神内。
「分かりました。皆さん。その前に警察の方に被害届を出されましたか?」
「警察なんかなんもしてくれません!」
「捜査どころか被害届も受理してくれませんよ!」
「あいつらは人が死んでから初めて動くんですよ!それでは遅いじゃないでしょうか!」
現実を訴える街の堅気の方々。
「しかし…。話を聞く限りかなり悪質であり『建造物損壊罪』や『放火罪』が適用されるのでは?」
「それでも警察は動かないんですよ!店が全焼しなきゃあいつらは!すぐに気付いて消火したからよかったものの…」
「現場に来て調書を取って終わりってとこですか。警察の調書は時間がかかりますからね」
「そうなんです!動かないくせにやたら何時間も調書だけ取って終わりです!商売の邪魔ですよ!営業妨害です!」
「分かりました。うちの方で何とかします。今後も何かありましたらすぐにうちの方へご連絡ください。万が一も十分あり得ますんで。これは私どもの起こした不始末が招いたのが原因です」
そう言って頭を深々と下げて詫びる神内。
「やめてください!親分さん!」
「そうですよ!『肉球会』の皆さんはいつだって私どもを助けてくれてきたじゃないですか」
「頭を上げてください!謝るのはやめてください!」
それでも頭を下げる神内。横で住友も同じく頭を下げる。そして住友が言う。
「この不始末はしっかりと責任を持ってうちで解決いたします。うちの連絡先は皆さんご存じだと思います。今は『反社』と付き合うと皆さんも罰せられる時代です」
「『肉球会』さんが『反社』ならこの国は間違ってる!」
「そうだ!そうだ!」
「いいえ。皆さん。クズはクズです。なので『窓口』を一つ儲けます。何かありましたらそこに電話してください。二十四時間三百六十五日いつでも対応します。駆けつけます」
そう言って田所の電話番号を教える住友。今の田所は『破門』の身であり、『堅気』である。
「じゅうひちのしゃがれたブルートゥースを聞きながらあー♪」
そんな鼻歌を歌いながら作業をしていた田所。『ブルートゥース』って…、『ブルース』でしょ?と思う飯塚。そんな中、田所のスマホが鳴る。画面には京山の表示が。
「俺だ。どうした?」
「アニキ。今大丈夫ですか?」
「おう。飯塚ちゃんと作業中だ。どうした?」
そして『組チューバー』が二十四時間三百六十五日営業の堅気の皆さんの通報窓口になることを聞く。
「おう。全然大丈夫だ。おやじやかしらに任せてくださいとよく伝えといてくれ」
「かしらからは『動画撮影』に関しては飯塚の判断に任せるとのことです」
「分かった。それより健司。足の方はもういいのか?」
「ええ。俺も『肉球会』ですよ。いつまでも松葉杖の世話になっとれんです」
「分かった。じゃあその報告も含めて飯塚ちゃんと話し合っとく。また何かあれば連絡してくれ」
そして電話を切った田所に飯塚が聞く。
「健司の足は治ったんですか」
「ええ。もう百メートル九秒台まで回復したそうっすよ。よかったっすね」
穏やかではない状況が続く中、久しぶりの嬉しい知らせに心から喜ぶ飯塚。そして飯塚の告白が始まる。
「田所のあんさん。実は僕、少し前に間宮とサシで会ったんですよ」
「え?マジっすか?」
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