第96話『脳年齢三十一歳』

「そうか…。『蜜気魔薄組』か…」


「ええ。おやじ。特に問題はないでしょう」


 携帯で『肉球会』組長・神内と話す若頭住友。


「あそこの上は確か『血湯血湯会』の三次団体の…」


「そうです。『身二舞鵜須組』ですね。武闘派ですが特に問題ないでしょう」


「そうやな。ただし。くれぐれも街の素人さん、堅気の皆さんにご迷惑をおかけしないように。それだけは徹底してくれ」


「はい。ではこれからいったん事務所の方へ顔を出しますんで」


 そして神内が携帯を切るのを確認してからスマホをポケットにしまう住友。



「裕木よ」


「はい」


 先ほど住友からの電話をとった神内は『肉球会』若頭補佐である裕木とシマウチを歩いていた。当然『歩きスマホ』は厳禁と組員に教育していたので神内も電話はしっかりと立ち止まって、通行人の邪魔にならないように気を遣っていた。


「住友から連絡があった。早速兄弟と会ったみたいやな」


「狭山のおじきと会えたんですね。さすがかしらです。迅速ですね。それで」


「ああ。今回の…、なんや、あれ、あの、健司の後輩の…。半グレか」


「『模索模索』ですか」


「ああ、それや。それであそこのバックは『蜜気魔薄組』やそうや」


「てことは…、『身二舞鵜須組』が出てくるでしょう」


「さあ。どこまで上にいっとるかはまだ分からんが問題あるか?」


「いえ。問題ないと思います。ただ、やはり街の皆さんにご迷惑をおかけしないようにが一番大事かと。すいませんが先ほどのかしらとの携帯での話を聞いておりました。おやじの言う通り、シマウチの堅気さんを第一に考えないとですね。そうなると向こうは多少の無茶はやってくる可能性も大いにありますので。そこが一番の課題になってくると思います」


「あ、神内のおじさん!こんにちは!」


「おお、坊主たち。こんにちは。ちゃんと宿題やっとるか」


「うん!言われなくてもやってるよ。神内のおじさんこそちゃんと『約束』を守ってる?」


 下校途中の小学生たちとの『約束』。最近、少し『物忘れ』がひどい神内に『脳をトレーニングするゲーム』があって。それを毎日やるようにと小学生たちが教えてくれ、それを毎日やると神内は約束していた。


「ああ。ちゃんとやっとるよ。毎日。今日は『脳年齢三十一歳』って出たよ」


「すげえじゃん!ちゃんと毎日やってね!」


「ああ。『約束』やからな。おい、裕木」


「はい。おい、さっきおじちゃんも神内のおじちゃんから『飴』もろたんよ。でもたくさんもらい過ぎてな。おじさん『虫歯』になってしまうから。みんなも食べるん手伝ってくれるかな?」


 そう言ってポケットから飴玉を取り出す裕木。


「仕方ないなあ。でもありがとう!あ、俺『ソーダ味』な!」


「待てよ!俺も『ソーダ味』がええ!」


「まあまあ、『ソーダ味』も確かポケットにいくつかあったから。みんなでわけてな。ケンカせんと仲良うな」


 そう言って『ソーダ味』の飴玉をたくさん取り出す裕木。


「ありがとう!おじさんもちゃんと『歯磨き』しなよ!じゃあね!」


「おう。ちゃんと『歯磨き』するよ。『約束』や。気を付けて帰りや」


「うん!」


 そう言って『飴玉』で盛り上がりながら帰っていく小学生たちを見届ける。


「いいですねえ。『模索模索』のガキどもも昔はみんなああだったんでしょうね」


「どうやろうなあ。今は『虐待』やら『いじめ』やらあれぐらいの子供が酷い目に遭うことも普通にあると聞いとる。そういうのを少しでもなくすのがわしらの『役』や。クズのわしらの『役』や」


「はい」


 そんな会話をしている『肉球会』組長・神内と若頭補佐である裕木。そしてそれを物陰から狙う一人の男が。間宮は『肉球会』トップの神内を狙っていた。

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