第95話あれ
半グレ集団『模索模索』はとにかく『金』を集める能力がずば抜けていた。日本最大広域指定暴力団『血湯血湯会』の枝の枝、『蜜気魔薄組』も『金』でのし上がった。だからこそ『模索模索』はパートナーとして選ばれた。今は昔と違ってヤクザも一般人と見分けがつかない。満員電車のサラリーマンと思うような人が本職であるなど普通にある。そして今、『反社』に対し日本はとても厳しく、そして慎重になっている。企業も必ず『反社チェック』をする。『反社』が『誠意を見せろ』と言えば『脅迫』になる。堅気が同じ言葉を使っても『クレーマー』で終わる。名刺を出すだけで手首にワッパをはめられる時代である。そして『使用者責任』。組員があげられるとその組の頂点である組長、会長までもが逮捕される。いわゆる『暴対法』である。半グレはその縛りをうけない。半グレは暴力団ではないと解釈されている。そこが一番大きい。だからこそ『なんでもやれる』。『模索模索』は特殊詐欺にも力を入れている。
「おい。そろそろ『あれ』出しとけ」
「はい。『あれ』ですね」
『あれ』とは一通の封筒である。中には書面が。主に商売人に、または住居にも送る。家賃は振り込みのところが多い。わざわざ毎月回収にくる時代でもない。自動引き落としのところも少ない。書面には毎月送られる家賃の請求書とまったく同じ用紙。ただ、一文だけが付け加えられている。
「弊社都合により振込先が変わりました。次回振り込み時よりこちらの口座へお振込みをお願いします。また行き違いですでに連絡済みでしたらそのままこの請求書は破棄してください」
大家の会社名や電話番号もまったく一緒か、よく分からない管理会社を名乗る場合も。それを受け取ったものは一ミリも疑うことなく振り込む。そして後日、大家からの連絡で初めて気付く。
「家賃が振り込まれてませんよ」
「え?振込先が変わったってお手紙いただきましたんで。そっちに振り込みましたよ」
「え?振込先は変わってませんよ」
そうなったら時すでに遅し。勝手に振り込まれた金を引き出そうがどう使おうが詐欺の手紙をだしたものと振り込まれたものとの因果関係を証明するのは難しい、と言うより不可能である。
また人間は『弱み』を握られるとトコトンしゃぶられる。特に『性』の『弱み』を握られると完全に詰む。SNSで未成年を装い、言葉巧みに裸体の画像や動画をDMで送るように仕向ける。そして会うことになる。あそこをギンギンにおっ勃てて現地に行くと待っているのは正義の味方。
「おいおい。おっさん。この子、未成年なんだけど。俺の妹なんだけど。妹の様子がおかしいんで問い詰めたら『これ』だって。今から警察行くぞ」
「ま、ま、待ってくれ!」
「ざけんなっ!こんなもん一回世に出たら消せねえんだぞ!てめえが世に出してねえ保証があんのか!つーか人の妹に」
中年男に鬼の形相で襲い掛かろうとする係の人間をもう一人の人間が必死で止める。
「待て!手は出すな!お前の気持ちは分かるから!でも手は出すな!お前まで加害者になるぞ!」
「あのお…、お金で解決できるのでしたら…」
「あ!?金で解決だと?ざけんな!てめえ殺す!」
「待て!手は出すな!お前の人生まで狂わされてどうする!」
こういう芝居で中年男は簡単にATMとなる。
そしてこういうリスクのあることはすべて一般の『アルバイト』がやる。『誰にでも出来る簡単なお仕事です』と割のいい時給に学生や主婦は飛びついてくる。いくら事件となっても『模索模索』や間宮には絶対に辿り着かない。なんでもありで罪に問われないのが半グレ集団『模索模索』。そして利害関係が一致し『血湯血湯会』『蜜気魔薄組』が『模索模索』のバックについた。
「間宮さん。これからどちらへ?」
「あ?人殺し」
『クールにキチガイをやれる』間宮が『肉球会』の一人を狙う。
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