第94話『いいツモ』だから『とべないハードルも負けない気持ちでクリア』

 半グレ集団『模索模索』のいくつかある事務所のひとつ。ちなみに廃墟ビルの一室もあるし、防音の部屋もある。パソコンなどIT関連の最新設備が揃っている事務所もある。


「あ、間宮さん!お疲れ様です!」


「お疲れ様です!」


「忍は?」


「はい。今、隣の部屋で休んでます」


「連れて来い」


「はい」


 そして顔面を腫らした忍が間宮の前にやってくる。


「すいませんでした…」


「あ、別にいいよ。どっちにやられた?宮部?新藤?」


「宮部の野郎の方です」


「まあ、お前らに『責任』はねえよ。極道が素人に瞬殺されてたら世話ねえよな。それより忍。怪我は大丈夫か」


「ありがとうございます!はい。冷やしておけばすぐに腫れもひきますよ」


「そうか」


 そう言って、いきなり忍の腹に強烈なアッパーを入れる間宮。


「ぐへっ!」


 そう言って汚物を口から吐き出しながら腹を押さえその場にしゃがみ込む忍。


「なんだっけ。『顔はやめとけ。ボディーにしな』ってセリフがあんだろ。いい言葉だよな。顔は冷やさないといけねえし、目立つもんな。いやあ、いいセリフだね」


「うえええ!うええええ!」


 悶絶する忍。


「おい。他の連中に『ヤキ』は入れたの?」


 事務所にいた他のメンバーの一人が答える。


「いえ、まだです」


「昨日は逃げ出したんだって。あとで俺が直々に教育してやるから集めといて」


「はい!」


「おい。忍」


 悶絶しながらも根性で返事をする忍。内臓がやられてるかもしれない状態でも気合で声を絞り出す。


「…は、はい…」


「女の方はお前が仕切ってんだろ。『スペア』をすぐに用意しろ。スカウトの連中にも『今日中に同じレベルで同じ人数』の女を用意しろとな。あれだろ。お前の付き合ってるスカウト連中は『添い寝』専門店と話を聞かせてAVに出さすぐらい頭いいんだろ」


「……はい…、はあ、はあ…」


「メンヘラビッチも多いからねえ。契約書も同意してハンコ押せばあれなんだろ。こっちの世界で契約書なんて何の意味もねえけどな」


「はあ…、はあ…、はい…、分かりました…」


「よーし、それじゃあそう言うことで。逃げた連中は集めて待たせとけ」


「はい!」


 半グレ集団『模索模索』を束ねる間宮も宮部同様『クールにキチガイをやれる』人種であった。




「コーヒーだったな」


 ぶっきらぼうにコーヒーと灰皿を住友の席に運んでくる狭山のおじき。


「いただきます」


「ふん。金はしっかり払ってもらうぞ。お前は店で『いただきます』を毎回言ってるのか」


「ええ。おやじの教えですから」


「ふん。それで今日は何の用だ。今更『コーヒー』を飲みに来たじゃねえだろう」


「はい。おじき。今回、うちにチャチャ入れてきてるのは『血湯血湯会』と聞いております。ただ、あそこも大世帯ですから。うちにチャチャ入れてきてるのは本家の意向ではないと思ってます」


「そりゃあそうだろ。あんなデカいところがお前らみたいなアリンコごとき、相手にもしないだろう」


「ですよね。それで『血湯血湯会』さんの『どの組』がうちにチャチャを入れてきてるか。それをおじきに聞こうと思いまして」


 コーヒーカップにミルクと砂糖を入れ、丁寧にスプーンでそれをかき混ぜる住友。


「ふん。砂糖なしじゃあ飲めないお子様か」


「ええ。甘いものが好きですんで」


「お前、お勤めは何回行っとる?」


「さあ、忘れました」


「あれを経験しとったら『甘いもん』が好きなんも分かるのお」


「ええ。それで本題の方です。狭山のおじきならすでに特定されてるでしょう」


「さあなあ。どうじゃろ。『高い』ぞ」


「ええ。言い値で払います」


「そんなに儲かっとるのか。兄弟のところは」


「いえ。カツカツですね」


「ふん。狸が。まあいい。とりあえず『後払い』にしといたる。今回、お前らにチャチャ入れてきとるのは『血湯血湯会』の『蜜気魔薄組』じゃ」


「『蜜気魔薄組』…。確か…」


「ああ。『血湯血湯会』の看板は掲げとるが枝の枝。金で勢いがある。のし上がってきてるのう」


「『そろばんヤクザ』の集まりですね」


「それより『後払い』の件じゃが」


「はい。おいくらですか?」


「なんか兄弟のところはお前らで『面白そうな』ことをやっとるそうやな。『ユーチューバー』ってやつか?」


「おじきも早耳ですね」


「あれ、わしも『歌ってみた』か?あれに出させろってことじゃ」


「それは本当に『高い』ですね。まあ、おやじの確認はとらず自分の権限でそれは承諾させていただきます」


「よしよし」


「ただ…」


「なんじゃ。今になって条件か?」


「いえ、井上のおじきも同じことを言ってますんで。上手いんですよね。井上のおじきの歌は」


「ふん。わしの方が全然上手いわ。あいつはただ声が高いだけじゃわい」


 うちの相手は『蜜気魔薄組』。それを知った住友が甘いコーヒーを口に運ぶ。



 一方その頃。


「え?あれって『いつも』って言ってるんですか?」


「そうですよ。どう聞いても『いつも』って言ってるじゃないですかあ」


「いえ、おやじの教えでは『いいツモ』だと…。『いいツモ』だから『とべないハードルも負けない気持ちでクリア』出来るんだと…」


「田所のあんさん…。それはいい解釈だと思いますが…」


 同じく甘いコーヒー牛乳を飲みながらわちゃわちゃしている田所と飯塚であった。

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