第69話『熟が良い』と『熟通い』

 なんとか『えりな』ちゃんを落ち着かせ、冷静に話が出来るよう環境を整えた飯塚。お互いに服を着て、部屋に置かれたソファーに座りながら部屋のポットで入れた温かいお茶を飲みながら『えりな』ちゃんから話を聞きだす飯塚。


「実は…、私には少し年の離れた弟がいまして…」


 弟?と思う飯塚。なんとなく話が見えてきた飯塚。と、同時に会話だけは録音しておこうと思う飯塚。と、同時に『録音』と『ろっくおん』って似てるよな、と思う飯塚。


「弟さんですか」


「はい。まだ高校生です」


「それで」


「弟は真面目な性格なんです。それに勉強も頑張ってました。受験勉強も頑張ってまして」


 へえ、そうなんだ。受験?ということは『学費』稼ぎのためですか?と思う飯塚。


「それで弟さんの『学費』を稼ぐためにこの『グッドフェラーズ』で体を売っている。そうなんですね?」


「いえ、そうではありません」


 あれ?違うの?と思う飯塚。一回お手付きしてしまう飯塚。


「確かに私のうちは裕福と言えるものではありません。両親も共働きです。でも弟はそんな両親に金銭的苦労をかけまいと国立のいい大学を狙って頑張ってました」


 そうなんですか。すいません。僕は高卒ですと少し卑屈になる飯塚。


「へえ。国立だと私立よりも学費は安いですからね。えりなさんの弟さんは立派です」


 早くお手付きを挽回しないとと思う飯塚。それなら『塾』とか通ってるのかなあ、『塾』はお金がかかるもんなあ。『熟』は安いけどね、『熟が良い』と『熟通い』に一時期ハマっていたのを思い出す飯塚。


「弟は部活もせずに毎日放課後は図書館で勉強をしてました」


 え?『図書館』?『塾』ではなく?と思う飯塚。そしてまたもやお手付きしてしまったと思う飯塚。


「へえ。立派ですね。自分に厳しくないと『図書館』で毎日勉強なんて普通は出来ないですよ」


「ええ、そうだと私も思います。でもそこで同じような女の子と出会ったみたいでして」


 何!?と思う飯塚。たった一つの真実見抜く!見た目は子供で遊園地に遊びに行って黒ずくめを目撃して背後からあれだ!麻酔張りで眠りの俺とお前の大五郎で真実はリーヅモ一通!と思う飯塚。と、同時にその弟さんはきっとその女の子をはらませちゃったとか?と推理する飯塚。それならお金いるもんね、相談出来る相手も限られるし、と蝶ネクタイ型変声機をイメージする飯塚。


「弟さんはその女の子とお付き合いすることになった。そうですね?」


「はい。そうみたいです」


 よし!正解だ!今のはスーパー飯塚君人形だからお手付きどころかすべて回収だ!と思う飯塚。


「それでお金が必要になった。えりなさんの弟さんはその彼女さんに入れ込み、違うものまでうっかり入れこみ…」


「それは違います」


 スーパー飯塚君人形をぼっしゅーとされる飯塚。


「それでえりなさん。えりなさんがこんなお店で働くことになった理由を聞かせてもらえませんか」


「はい。実はその子の誕生日にプレゼントを贈ろうと考えたみたいです。そこでクラスメイトから割のいいアルバイトがあると聞かされたみたいでして」


「割のいいアルバイトですか」


「はい。普通に考えれば一時間で一万円とかおかしいですよね。でも弟はそれに引っかかってしまいました。半グレみたいな輩の手伝いのアルバイトでした。銀行のATMから大金を引き出すアルバイトです」


「あー…。『受け子』ですね」


「そうです。弟はそれを知り、そのアルバイトを断りました」


「それは賢明な判断ですね。よく断りましたね」


「そこから悪夢が始まりました」


 そして『えりな』ちゃんから衝撃的な告白を聞かされる飯塚。


「そのアルバイトを断った弟は組織的な集団に呼び出されました。そして『お前はすでに詐欺の片棒を担いだんだ。仕事を断るんなら別にいい。でもお前のことは警察にバラすからな』と言われたそうです」


「え、でも…。弟さんは何もやってないんですよね?」


「はい。でも弟は真面目ですので。自分でいろいろと想像してしまったみたいで最悪を考えたんでしょう。その半グレ集団も言葉巧みに弟をどんどん引き返せないところへ追い詰めていきました。そして私はそれを知りました。姉として、弟を助けたいと単身、その組織に乗り込みました」


「それでえりなさんも『枷』をはめられた。そうですね」


「はい…」


 ようやく事態を把握する飯塚。


「このお店で働いているのもそれがきっかけですね」


「はい…。最初にその組織のリーダーと名乗る男から『自分と一晩付き合えば弟の件はすべて水に流してやる』と言われました」


「そういう輩はそんなに甘くありませんよ」


「はい…。私が馬鹿でした…。その要求に私は応じてしまいました。リーダーと名乗ってましたが後から知りました。その男はチンピラみたいな奴でした。そしてその『行為』をすべて『撮影』されてしまいまして…」


「それで完全に抜けられなくなったわけですね…」


「はい…。この店ではほとんどタダ働きです。そして客からは『どんなこと』を要求されても断るなと強く言われてます。私はこれまで…、これまで…」


 そしてまたも堰を切ったようにボロボロと涙を流し、号泣する『えりな』ちゃん。飯塚は慰めの言葉を知らない。ただただ自分の無力さと知らなかっとはいえ自分もこの人を汚してしまった、傷つけてしまったと自分を責める飯塚。そして思い切り自分の顔面を自分の拳でぶん殴る飯塚。


「な、なにしてるんですか!?やめてください!」


 号泣しながらも飯塚の奇行に驚き、それを止めようとする『えりな』ちゃん。それでも自分を殴り続ける飯塚。


「いえ、これは自分への『罰』です。知らなかったとはいえ、僕はえりなさんを弄んでしまいました。これは許せない自分への罰です」


 ボコッ!ボコッ!ボコッ!


「やめてください!本当にやめてください!私なら平気です!」


 そしてちょうど十発。自分を思い切りぶん殴った飯塚。そして言う。


「えりなさん。あなたの『悪夢』は今日で終わります」


 組チューバー『仁義』。漢・飯塚が『悪を退治』する。

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