第62話『僕の背中は自分が思うより正直かゆい』

「飯塚ちゃん」


「はひ?」


 田所特製ポン酢と柚子胡椒で美味しく湯豆腐を囲んでいた田所と飯塚。アツアツの豆腐を口に頬張りながら返事をする飯塚。


「『男優』やれます?」


 思わずアツアツの豆腐を対面に座る田所へ吹き出しそうになる飯塚。とりあえずアツアツの豆腐を冷たい麦茶で流し込み答える。


「だ、『男優』ですか?えーと、ユーチューバーとしての『演者』ではなく?」


「『えんじゃ』って何すか?おやじの教えのあのカレーが好きなイエローとかのやつっすか?」


 あ…、やっぱ有名なんだ…、と思う飯塚。


「いえ、ユーチューブに出演する人間を『演者』と言うんです」


「へえー。そうなんですね。ちょっとメモを取りますね。『演じる』に『者』でいいですか?ちなみにおやじの教えで『イエローはeエロであり、ゆくゆくはeスポに並び無視出来ない存在になる』もありまして」


 そう言ってメモ帳を取り出し几帳面に書き込む田所。几帳面だ…、と思う飯塚。と同時に『イエローとeエロって!』と思う飯塚。と同時に『男優』ですか!?と思う飯塚。


「あのお…、『男優』って例のあの…、エッチなDVDとかでご活躍されていらっしゃるあの『男優』さんのことでしょうか?」


「そうです」


 え!と思う飯塚。見るのは好きだけど見られるのは嫌だあ!と思う飯塚。


「あのお…。さすがにそれは…」


「でも自分は背中に…」


 そうだよな。田所のあんさんも『肉球会』の組員だったもんなあ。背中に入れ墨とか入ってるんだろうなあ。じゃあ顔にモザイク入れてもダメだよなあ。でも何故『男優』なんだろう。自分がやるしかないのかなあ…、嫌だなあ、と思う飯塚。


「ですよね…」


「ええ。これもおやじの教えですが『僕の背中は自分が思うより正直かゆい』です」


 神内さん…、ジャスラックに怒られますよ…、と思う飯塚。


「ちょっと待ってください。いきなり『男優』と言われましても話が見えません。田所のあんさんの考えを聞かせてくださいよ」


「そうですね。すいません。いきなり過ぎました。まあ、湯豆腐が冷めるとあれですから先にこいつを食っちゃいましょう」


 そして田所の『部屋住みメシ』を満喫し、恒例となった食後のティータイムで改めて話し合う田所と飯塚。牛乳をドバドバ入れたコーヒー牛乳を飲みながらタバコをふかし田所が話す。


「退治すべき『悪』が一つ見つかったんです」


 そして飯塚に一連の話をする田所。


「そうなんですね。なるほどです。それでその『無許可』の違法デリを退治するってことですね」


「そういうことですね」


「でもよく突き止めましたね。こんな短時間で」


「ええ。まあ、あの中坊軍団が詳しく『うたって』くれたみたいですね」


「それで『男優』ですか…。まあ、撮影するわけですから。でも『盗撮』ですよね」


「ええ。退治ですから。ぶっ潰すわけですからね。なんでもありですよ。どうですか?いい動画が撮れると思いませんか」


 『悪徳デリヘルを退治してみた!』か…、と想像する飯塚。面白そうだ!と思う飯塚。


「やりましょう!それじゃあこれから細かく内容を考えましょう!これは撮り方次第で一気にバズりますよ!」


「『バズり』ですか?ちょっと自分もいろいろたくさんの作品を見てきましたが。それはどこで挟んで擦ってもらうんでしょうか?」


 い、いや…、どうやって説明しよう…、確かに『ズリ』はあれであれであれですが…、と思う飯塚。そんなこんなで『悪徳デリヘルを退治してみた!』の企画会議は深夜まで行われた。

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