第23話組チューバー『仁義』
「神内さんや皆さんのお考えはよく分かりました。それでは僕と田所さんとでチャンネルの作成を致します。ただ、チャンネル名は皆さんで決めてください。これはチャンネルの顔になります。僕ごときが安易につけられませんので」
「いえ、先ほども言いましたように飯塚さんにお任せ致します。飯塚さんが決められることに異を唱えるものはおりませんし、安易なことをされるような方でないことはもう十分に私も理解しております」
そこまで信頼してもらえるなんて…。飯塚の心がさらに本音を言わせる。
「無礼を承知で言わせてください」
飯塚が腹を括って言った。
「はい」
「チャンネル名は先ほども言いましたようにこの先もその動画などの顔になります。ブランドになります。それは神内さんに決めていただきたいと思います。いえ、神内さん。どうか名前をください。僕からのお願いです」
少し困った表情をし、腕を組み、右手を顎に添え、考え込む神内。沈黙がその場を支配する。飯塚は唇をかみしめながらこの空気に耐える。でもそうしなければ。神内さんに名付けて欲しい、名前を付けて欲しい、その気持ちの方が強い。飯塚も男である。そして神内が口を開く。
「飯塚さん。『仁義』という言葉はご存じだと思います。私どもは初対面の相手に挨拶をするという意味合いで『仁義』を切るといいます。『お控えください』との口上から始まるのを映画などで見られたりしたことがあるかもしれませんかね。視聴者様にご挨拶をするという意味を込めまして『仁義』というのはどうでしょうか。こんな『反社』のくずがとの思いもあります。ただ、飯塚さん。田所も堅気です。『反社チューバ―』ではありません。どうでしょうか?」
「ありがとうございます。そしてとても素晴らしい名前だと思います。『仁義』チャンネルですね。そして『反社チューバ―』ですか。世間は皆さんを『反社』と呼ぶのでしょうが僕はそう思いません。それでも社会が皆さんを『反社』と呼ぶなら何をもって社会というのでしょう?皆さんの考え方は認められるべきだと思ってます。『組チューバー』です」
飯塚の言葉に思わず笑みを浮かべてしまう神内。
「『組チューバー』ですか。それもいいですね。ただ、私どもを買いかぶりすぎです。くずですよ。『パラドックス』みたいなものでしょうか。借り物の言葉ですが。私は今になって本を読むようになりました。『パラドックス』とは逆説といいますか。答えがないようなものといいますか。自分をくずと言い聞かせてますが心のどこかでそれを否定する気持ちがあるのも本音です。己を監視する毎日です。そんな気持ちをこの街の皆さんが理解してくれていると甘えた考えがあるから救われる思いになるのも本音です。『仁義』チャンネルでお願いします」
一斉に拍手する昔気質で屈強な組員たち。
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