第20話もう一人の覚悟
「敦。お前、自分が何を言うてるか分かってるんか?」
「兄貴!それは俺の役回りですよ!」
「いや、俺が!」
「そうだ!兄貴一人にいい格好はさせませんよ!おやじ!『ユーチューバー』には動画に映る人間とカメラマンの二人は最低必要です。俺も破門にしてください!」
「いえ!俺を!」
壮絶な覚悟を持った言葉を昔気質で屈強な組員の若い衆が揃って、損な役回りを引き受けようと手を挙げる。飯塚でも『破門』が何を意味するかはなんとなく分かる。神内が田所に言う。
「敦よ。お前、『破門』がどういう意味か分かってるんか?うちのシマウチどころか日本全国、どこにも居場所はなくなるぞ。わしの名前が入った『破門状』が全国に回る。足を洗って堅気になるんとは全然意味が違う。それを分かってるんか?」
「はい。今回の絵は『反社』であるうちの組が関わってることは絶対にバレちゃあいけません。形だけの足抜けでは意味がありません。おやじの名前で『破門状』を流してもらえればバレませんでしょう。それをこいつらにはやらせられません。自分の役目です」
真剣な眼差しを神内に送る田所とそれを冷静な目で受け止める神内。そして口を開く。
「やってくれるか。敦。頼むぞ。あと一人か…」
その時、飯塚が勇気を出して言う。その考えは最初から持っていたがだんだん臆病な気持ちが生まれ、切り出せなかった。昔気質で屈強な組員が揃う『肉球会』の熱さに飯塚の男気が揺さぶられた。
「神内さん。もう一人は僕がやります。いえ、僕にやらせてください」
「え、飯塚さんが?」
「それはさすがにそこまで甘えるわけにはいけませんよ」
「そうですよ。飯塚さんは立派な堅気の方です。深く関わっちゃあいけませんよ。危険もありますし」
こんな自分のことをここまで心配してくれるとは…。飯塚の心は、男気はさらに熱くなる。
「お言葉ですがここまで皆さんとお話させていただいて関わっちゃあいけないとの言葉はやめてください。もう僕は皆さんと一緒にこの話を絶対に成功させたいんです。もちろん見返りなどはいりません。それに田所さんがそこまでの覚悟を見せてくれました。僕も男です。僕を田所さんのパートナーにさせてください!」
神内が田所の真剣な眼差しを受け止めた時と同じ目で飯塚を見つめる。ここで目をそらすことは覚悟がないことを意味する。精一杯を振り絞り神内の無言の視線を受け止める飯塚。そして神内が口を開く。
「分かりました。飯塚さん。田所をよろしくお願いします」
飯塚に深々と頭を下げる神内。
「よろしくお願いします!」
昔気質で屈強な組員たちも飯塚に深々と頭を下げる。
「ただし条件があります」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます