第16話「うたわせてみた!!」

「よろしくお願いします。私はちょっと若い方の感性とはかけ離れていますので、飯塚さんに認めていただけるようなアイデアはご用意出来なかったのですが。それでは示しがつきませんので、なんとか考えてみました」


「いえ、何が受けるかは僕でも分かりませんので。とりあえず考えることややってみることに意味があると思いますので。どうぞお聞かせください」


「はい。私なりに『ユーチューブ』をいろいろと見てみました。そんな中で私が興味を持ったのが『歌ってみた』というものです」


「はい」


 返事をするが、心の中で「うーん。『歌ってみた』は人気ユーチューバーがやればいいんだけど、素人の自己満足で終わるケースが多いというか」と思う飯塚。そこに二ノ宮が重ねてくる。


「『歌ってみた』だけではパンチが弱いと思ったのも事実です」


「そうですね。やはり、普通に『歌ってみた』ではなかなか厳しいとは思います」


「そこで発想を変えまして。『歌わせてみた』というのはどうでしょうか?」


 え?『歌わせる』?そういえばドラマとかで警察が取り調べで吐かせることを『うたわせる』とかいうような…。え?そっち?うたわせる…?どんどん怖いことを想像してしまう飯塚。


「あのお…。カラオケなどを部下に強要するのはパワハラと言いますか…。まあ、時代といいますか。あんまりよろしくないと言いますか。アイデアはすごくいいと思うんですが、同時に批判も起こりそうなので難しいと思います…」


「飯塚さん。私たちにそんな気を使わなくてもいいですよ」


「そうです。それにパワハラですか。私たちは上司に『うたわせろ』と言われることはそんなに珍しくないと言いますか」


「そうですねえ。気にしないですねえ」


 昔気質で屈強な組員たちがそう口にするがその意見を聞くたびにいろんなことを想像してしまう飯塚。「え?『うたわせろ』が日常?」!?いやいや、多分、『歌わせろ』だ。きっとそうだ。マイクを強要する姿を強引に想像する飯塚。


「じゃあ、ちょっと今は保留ということでよろしいでしょうか?検討の余地ありということで」


「ありがとうございます」


 真面目にメモを取る屈強な組員たち。


「おじき。先に自分からいいですか?」


 相談役の井上が首を縦に振るのを確認し、神内が立ち上がる。

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