第7話 ビーンズジャム
彼が頑張ると言ったので、わたしも頑張ろうと思った。
余裕がないからといっておざなりに残された朝ごはんを見たのは、何年前のことだったろうか。それから朝ごはんを作らなくなった。
怠慢だ!傲慢だ!高慢ちきの、ぐうたらめ!
野次が飛ぶ中、テキトーでイイ加減の晩ご飯しか作らずあとはぐうたらと惰眠を貪る日々。毎朝のいってらっしゃいも既に無くなってしまった。
言うに言えない好きの言葉も、隙間風ばかりの心では凍ってしまった。
わたしが頑張らないと誰も頑張ってくれないので、と布団の中でのびをしてみる。
君が、振り向いて抱きしめてくれることばかり待っていたように思う。
それで君は頑張ると言って日々、家を出る。
たとえ口の悪い友人が、わたしのためを思ってくれる優しさばかりで彼をなじっても、わたしはようやく君を抱きしめたいと心より強く感じた。
これが愛の正体か、それとも同情か、もしくは慣れゆく生活に縋り付く滑稽な姿だったとしても、わたしは彼の言葉をひとつも疑いたくないなんて、若い娘の言うようなくだらない台詞を心に引っ込めてみる。
手を繋いでも、胸に抱きしめても、君は変わらず、頑なにその身を預けることを知らない。
確か、昔にそうやって、溶かしてくれたのは君だというのに。
どうして、こんな風になってしまったんだろう。
饅頭の、名が泣くぜ。
かつて最愛だった彼は、衰弱し切った愛の果てに未だ、いる。
居ることすら、おぼろげになっていたそんな、朝の一言に、久方ぶりのキスを落とす。
それでも彼は頑なで、わたしも行ってらっしゃいと好きという言葉を仕舞い込んだまま。
おはよう、くらいは言えるように。
おはよう、くらいは帰ってきますように。
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