第53話 the protagonist⑥
わあああああああ!!!
と騒がしくなった内側に、正門の外側に立つ眉尻を不安気に下げたミューレルが隣にいるリュナに話しかけた。
「エスト君・・・一人で大丈夫でしょうか?」
「んー・・大丈夫でしょう♪あの子強いから♪」
「はは・・・ですが、どうやって扉を開けるのでしょう??」
「んーー・・・・蹴破りはしないと思いますけどね・・・。」
「ははは・・・。」
顎の辺りに人差し指を添えたリュナの回答にミューレルが苦笑いを浮かべていると、アルガスが2人の下に息を切らしながら走って来た。
「はぁ・・はぁ・・・おい!!まだかよ。」
エストが本壁を飛び越えた後、応援に駆け付けた騎士たちが押し寄せていた・・・バガン達はそれに抵抗していたのだが、徐々に数を増やす騎士たちに押され始めた蛮族たちは皮肉にも今度は自分たちが正門を守るような形になっていた。
「んー・・・もうちょっとだと思うわ!頑張って♥」
「チッ・・・ったく、しょうがねーな・・・。」
リュナがコテッ!と首を傾げてアルガスに目配せをすると、ヒクヒクと頬を震わせ舌打ちするも頭をポリポリ掻いたアルガスは踵を返し騎士たちに向かっていく。
わぁあああああああああああああああああああああああ!!!!
「来たわね・・・。」
リュナは中の喧騒が扉の側まで来ている事に気づくと、戦うバガン達に視線を向けているミューレルの背を押し始めた。
「ど、どうしたんですか??」
「念のためちょっと門から離れてた方がいいと思いまして。」
「どうしてですか?」
「エストがとっておきを使うかもしれない・・・・。」
「とっておきですか??」
「ええ・・・たぶん扉を開ける時に使うと思うんですよ。」
ミューレルが頭上に「?」を浮かべるもリュナは構わず背を押し続けた。
ズドォオオオオオ!!!!
そんな中、前線では増援で駆けつけた魔法士たちの攻撃をロックが土の擁壁で防ぎ続けていた。
「次・・・。」
数々の魔法を防いでくれていた土の擁壁が崩れていくのを見つめながら、ロックが杖を翳し新しい擁壁を立ち上げようとしたその時、一瞬ロックの姿を目にした魔法士が驚きの声を上げた。
「お前!!!!!ロック??ロックなのか??」
「え??」
「ロックだって??」
その聞き覚えがある声の方向に顔を向けたロックは、見知った魔法士たちにピョッ!と片手を上げた。
「あ!久しぶり!!」
「やっぱりロックだったのか!!!お前!!!生きてんだな!!」
「良かった!!蛮族に捕まったって聞いて心配してたんだぞ!!」
「ホントに~??」
声を掛けて来る元同僚の魔法士たちに向かってロックはジト目を向けた。
「ホントだって!!」
「そんな事よりまずこっちに合流してくれ!!」
「あ!ごめん!断る!!」
「は??お前・・・まさか蛮族に寝返ったのか?」
「寝返る??」
ロックは顔を顰めた魔法士たちに『何の事??』と言いたげに首を傾けた。
「あんたの仲間???」
土の壁を立ち上げない事をいぶかし気に思ったミュンが、ロックのもとにやってくると気さくに会話をしている魔法士たちに視線を向けて問いかけた。
「元いた部隊の同僚たちだよ。」
「ふ~ん・・・。」
隣りに立ったミュンと嬉しそうに会話をするロックに苛立った魔法士たちが罵声を浴びせ始める。
「裏切者!!!」
「お前を捕らえて懲罰にかけてやるからな!!!」
「いや、そんなの生温い!!ここで蛮族ともども殺してやる!!!!」
しかし、ロックは杖を構えた魔法士たちに堂々と宣言をした。
「心外だな!!」
「あ?何がだ!!!」
「別に僕は裏切ってもいないし寝返ってもいない!!!」
「嘘を吐くな!!」
「馬鹿言ってんじゃねぇ!!!!」
「ならなんでそっちにいるんだよ!!!」
「僕は愛に目覚めただけだ!!」
「「「・・・・・・は????・・・・・・・」」」
「ねーーーー♥ぶふぅっ!!」
呆けた魔法士たちを余所にミュンに向かって満面の笑みを見せたロックだったが、「何言ってるし!」と頬を張られ地面に倒れた。
「ちゃんとするし!!」
「はい♥」
見下ろしてくるミュンに叱られたロックは、地面に横たわりながら杖を掲げた。
『
「「「・・・・・。」」」
****
正門前に駆けつけたマリウスは目を疑った。
「ば・・バカな・・・。」
ものの5分程度で30人近くの騎士たちがたった1人少年に倒されていたからだ。
当の本人はカチャ!!と音を鳴らし刀を鞘に収めて
「安心しろ・・・峰打ちだ・・・・。」
とボソボソと恥ずかしそうに口にすると傍にある歯車に足を向けた。
「えーっと・・・これがこうだから・・・こっちに回せが開くのかな??」
そして、開閉の仕組みを確認しながら歯車の大きな取っ手に両手を掛けると、「ん”~~~~!!!」と歯を喰いしばり取っ手を押し始めた。
「ははは!!何をやるのかと思えば!!!」
「6人がかりでやっと回せる代物だぞ!!」
「隙だらけだ!」
マリウスの背後から駆け付けた騎士たちが歯車を回そうとしているエストを目にすると、そう嘲笑して剣を振り上げ襲い掛かる・・・・が、
『スキル
エストは自分を中心に半径20mの範囲で通常の5倍の重力負荷をかけた。
(ちなみに旅から帰っていた際のエストの重力操作スキルはLv.3に上がっていた。それにより同時に重力負荷をかける対象人数の数と重力範囲を自由に設定出来るようになっていた。さらに同時使用も可能となっている。)
ズゥウウウウウウウウウウウウウウウウン!!!!
「ごはっ!?」
「がっ!!!」
「うわぁああ!」
それにより・・・鎧を身に着けていたある騎士はガチャガチャと音を立てながら地面に突っ伏し、ある騎士は掲げ上げた剣の重さに負けて肘を負傷し、またある騎士は自重に耐え切れず悲鳴を上げた。
さらに正門の外側では痺れを切らし扉をドンドン!!と叩いていたバガンが、『
「ぐぅうううううううう!!何だぁああこりゃぁあああ!!!!」
「あ!やっぱり♪」
バガンの様子を目にし、正門から離れていたリュナがミューレルに目配せをした。
「まさか・・・・重力操作・・・・?」
急にドン!!と倒れたバガンに目を大きく開いたミューレルがそう呟くと、リュナは『ご明察』とばかりに目を細めて小さく頷いた。
「な・・・なんと。」
**
そんな中・・・
「くぉおおおおおおおお!これは・・・まさか・・・・。」
5倍の重力に一人だけ耐えていたマリウスが、膝に手を当て踏ん張りながら何とかエストに近づくこうとしていた。
「ん・・。」
しかし、歯車を押していたエストはそんなマリウスに視線を向けると容赦なくマリウスのみに通常の7倍の重力負荷をかけた。
「ぐぅうああああああああああああああああああああ!!!」
流石のマリウスもそれには耐え切れずドシャッ!!!と地面へと押し潰される。
「ん!!んんん!!!!!!!!!!」
マリウスが倒れたことを一瞥したエストは更に歯車に力を籠めると・・・
ギ・・ギ・・ギィィイイイ!!
鈍い音を上げながら歯車が回り始めた。
「馬鹿なぁぁ・・・。」
そして・・・向かって来る騎士たちと戦いながら徐々に開き始めた正門に気づいた蛮族たちが歓声を上げた。
「開きだしたぞ!!!」
「すげぇ!!!」
「「「うおおおおおおおおおおお!!!」」」
「あついやべぇな!!!」
ギギィギィィイイイイイイイイイイイイイイ!!!
一気に押し込み片方の扉を半分以上開けたエストは、これぐらい開けば十分だろうと取っ手から手を離し重力負荷を解除すると刀を抜いて身構えた。
「・・・・あれ??」
が、エストは周囲を見渡し首を傾げた。
てっきり重力負荷から解放された騎士たちが再び向かってくるだろうと思って身構えたのだが、大半の騎士たちは5倍の重力に耐え切れず意識を手放していたのだった。
「なんだ・・・あ!」
「ぎゃあっ!!」
「よっ!!!」
「ぐはっ!」
それでも数名の騎士が立ち上がろうとしていた事に気づいたエストは、それこそ容赦なく峰打ちしていった・・・無論その中にはマリウスの姿もあった。
「!?」
フッ!と重さが消えたマリウスは、ヨロヨロと立ち上がりながら落としていた剣を拾い上げたのだ・・・が、
「・・・ちくしょう・・・。」
すでに前に立ち刀を振り上げているエストを目にし顔を歪めた。
「がっ!!!!」
ドタッ!!と地面に倒れたマリウスが意識を手放すと、正門内に入ってきた(バガンが立ち上がったので重力負荷が終わったと判断出来たから)蛮族たちの中にリュナの姿を見つけたエストはすぐさま駆け寄り声をかけた。
「母さん!俺は外に出るから、中に全員入ったらそこの歯車を回して門を閉めて!」
「分かったわ!アンタはまた跳んで中に入ってくるんでしょ?」
「うん!あ!!閉めるのは反時計回りだから!!!じゃ、また行って来るね!」
「分かった!待ってるわね!」
コクッとリュナに頷いたエストは門の外に出ると、仲間達を先に門内に向かわせ、自らは騎士たちの足止めをするアルガスやタンザの姿が目に入った。数で攻め込む騎士たちに圧されたアルガスが体勢を崩すが前に出たエストは、走って来た勢いそのままに騎士を蹴り飛ばすと刀を大きく振りまわし騎士たちを退けた。
「ここは任せて中に入ってください!」
「あ?ああ!お前か・・・・だが「大丈夫です。」!?」
アルガスの言葉を遮ってフッと微笑んだエストは、ゆっくりと身構える騎士たちに向かって歩みを進めた。
「あ・・おい・・・。」
「何してる!行くぞ!アルガス!!!」
その姿があまりに無防備に見えたアルガスはエストを止めようと手を伸ばすが、タンザに腕を掴まれてそれ以上足を踏み出すことが出来なかった。
「タンザ!!ちょっと待・・・・!?」
そのまま力の強いタンザに引っ張られていたアルガスだったが、何とかその手を振り解いて前を向くと
「下がるな!!かかれぇえええええええええええええ!!」
威勢の良い掛け声と共に騎士たちが一斉に走り出した。
「「「「うおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」」」
エストの正面に立っていた騎士たちは真っ直ぐエストに斬りかかり、その他の者達は脇を抜け門に向かおうとしていたがその場は一瞬で静まり返った。
『スキル
「あ・・・が・・・・。」
「う・・・うぅ・・・・。」
「・・・・。」
騎士たちが静に歩くエストに平伏すかの様に地面に突っ伏しているのだ。
再びアルガスの腕を掴もうとしていたタンザはその光景に唖然として固まり、アルガスは思わず
「まるで
と呟くのだった。
**
「押せ押せ押せ押せぇえええええええええ!!!」
「おおおおおおおおおおお!!!」
「おらあああああああああ!!!」
ギ・・・ギギィギィイイイイイイイイ
仲間たちのほとんどが正門の中に入った事で、バガンを始めとする力自慢の男達が一気に大きな歯車を回し始めた。
「タンザ!!!アルガス!!!早く来なさい!!!!」
「「!?」」
閉まり始めた門の前に立ったミューレルが呆然と突っ立っている2人に叫び声を上げると、その叫びにハッとした2人は振り返って走り出した。
そして・・・
「はぁ・・はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・。」
「はっ・・はっ・・はっ・・・はっ・・・。」
全速力でアルガスとタンザが門を駆け抜けると・・・・
ガォオオオオオオオオオオオオオオン!!!!
重量感のある音が周囲に鳴り響き、再び正門は閉じられた。
「よし・・・。」
その音を耳にしたエストは閉じてた目をパッ!と開いた。
グッ・・グッ・・と少し上がっていたフードの先を摘まんで深く被り直したエストは、重力負荷を解除して倒れている騎士たちに背を向けるとアリエナ城に向かって走り出した。
「ん!!!!」
タンッ!!(←エストが地面を蹴る音)
「あ・・・。」
「嘘・・・だろ・・・・。」
先程のマリウスと同じく通常の5倍の重力下でも意識を手放さなかった数名の騎士が、頭を振りながら体を起こすと信じられない光景が目に飛び込んで来た。
それは再び軽く本壁を跳び越えるエストの姿だった。
****
―イヴァリア歴16年7月20日 3時42分―
静まり返った広場の中央で・・・
「起きろぉ!!アルギア!!!!」
地面に横たわるアルギア・ニドランに1人の男が怒声を浴びせていた。
「おい!!!お前は倒れちゃならねぇんだよ!!起きろぉっ!!!」
「う・・・・。」
必死に体を揺さぶるも目を覚まさないニドランに苛立ち・・・
「くそぉおお!!!」
オセは拳を地面に叩き付けた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます