第40話 狂信者の壁②

「ぐあああ!」


公園の樹々の間から飛び出して来た騎士を斬り捨てたバガンが、教会の正面に立つと剣を掲げて声を上げた。


「おっしゃ!このまま突っ込むぞ!」


「「おおお!!」」


アリエナ城の本壁ほどではないものの、教会の周囲は塀で囲まれていた。


その教会への出入口は計6箇所あるが、その中で一番広く大きい正門の前にバガン達は立っていた。信仰の深い者から見れば荘厳であり、そうで無い者から見れば仰々しい装飾が施された教会の中腹には、大きく開いた羽根の彫刻がありその上部に両手を広げたイヴァの像があった。


その像を忌々し気に見上げていたミューレルだったが、塀の向こうに気配を感じるとバガン達に叫んだ。


「下がれぇえええええええええええええええええええええええええ!!!!!」


「あ?」


バガンが叫んだミューレルに顔を向けた瞬間、塀の上から銃口を向けた小銃制圧達が姿を現した。


「打てぇえええええええええええええええええええ!!!!」


ダン!!!


ダダダダダダダダダダダァーーーーーーーーーン!!!



「壁を張れぇえええええええええええ!!!」


「うぐっ!?」


「ぐあああああああ!!」


「くそぉおお!!またかよ!!!!」


「いてぇえええええ!!」


ミューレルの声にいち早く反応した者達は、背後にある公園の樹々やベンチなどの後ろに身を隠し、少し遅れた者達はアリシアの『氷境界ice boundary』やロックを始めとする土魔法を扱う者が作り上げた壁に身を隠し難を逃れた。


しかし、数名の蛮族は逃げきれず頭や胸を打ち抜かれ、街路に倒れていた。


「くそっ!!!!」


「おい・・・。」


悔しそうにロックの作った壁をバガンが殴ると、ロックはイラッとしてバガンを睨んだ。


「あ・・わりぃ・・。」


「やはりそう簡単にはいきませんか・・・。」


少しバガンから離れた位置でアリシアの『氷境界ice boundary』に身を隠していたミューレルがため息を吐いた。


「どうすんだよ!!!!!!」


はぁ・・と息を吐いているミューレルにバガンが叫ぶが、それと同時に砲撃隊の隊長も声を上がていた。


「ってぇえええええええええええええええええええええ!!!!!!!!!!!!」


ダン!!!ダンッ!!!ダ!ダン!!!!


ダ!ダ!ダ!ダダダダダダダダダダダァーーーーーーーーーン!!!


「バンバン、バンバン、うるせぇえんだよ!!!!!」


けたたましい一斉射撃の音に耳を塞いだバガンが怒声を上げた。


「どうしますか?」


同じく耳を塞いでいたタンザがミューレルに問いかけると、『氷境界ice boundary』の後ろで扇子をトン・・・トン・・・と叩いて立っているアリシアに視線を向けた。


「お願いします。」


「お任せください。・・・精霊よ・・力・・・貸して・・・。」


そう言い一礼したアリシアがトン!!と一度指で扇子を弾くと、扇子を広げて舞うように円を描きながら両手を頭上に掲げた。


「次ぃいいいいいいいい・・・・ん?」


ガチャ!!!!


「ハッ!?!?」


隊長の掛け声で第3陣が銃を構えた・・・・が、隊長とエルピは頭上に突如発生した暗雲に気づくと背筋にゾクッとしたものが走った。


「全員退避だ!!!」


「下がれぇええええええええええええええええええ!!!!!」


「??」


「え??」


エルピと隊長が大声を上げるが、目をクワッ!!と開いたアリシアが両手を振り下ろした。


降雹Haze


必死の形相でこの場から離れるよう促すエルピに対して、状況が分かっていない隊員たちが首を傾げていると頭上から小さくても直径1cm、大きいものでは直径5cほどの氷の塊が小銃制圧隊に容赦なく降り注いだ。


「うわぁああああああああ!!!」


「がっ!!!!!」


「退避!!退避だぁあああああああ!!!」


ボーっとしている隊員を逃そうとしている必死に服を引っ張っているエルピに雹が迫っていた。


「エルピ!!馬鹿野郎!!!!!!!」


「ぎゃああああああああああああああ!!!!」


ガツ!ガツガツ!!!!ガツ!!!!と雹が地面を叩く激しい音と供に、隊員達の悲鳴が周囲に響き渡った。


「うううう・・・・。」


「・・・・。」


「いてぇええええええええええ!!!!」


アリシアの魔法は強烈だった。


ある者は顔を上げたため雹に目を潰され意識を失い、またある者は額を割られ地面をのたうち回り、またある者は大きな雹が後頭部に直撃し即死した。


「ぐ・・・うぅ・・・・!!」


「う・・・・・え!?隊長ぉおお!!!!!!」


うつ伏せで倒れたエルピの上に隊長職の男が覆いかぶさっていた。エルピが雹に襲われる瞬間、隊長が身を挺してエルピを守っていたのだった。


「ああ!!!」


エルピは身を捻り、覆いかぶさっていた隊長の肩を掴んで仰向けにするが・・・隊長の頭部から血が大量に流れ意識が朦朧としていた。


「隊長ぉおおおおおおおおおお!!治癒魔法士は・・・治癒魔法士はいないか!?!?」


エルピは叫びながら腰に下げた小型のバックからガーゼや包帯を取り出すが、隊長職の男は目を薄く開くと止血しようとするエルピを手で制止した。


「いい・・エルピ・・逃げろ・・・。」


「隊長!!!」


「次が来るかもしれん・・早く・・・。」


「隊長・・・どうして!?」


「お前を失うわけにはいかんからな・・・・さぁ・・・行け!!!」


「嫌です!!おい!!治癒魔法士は!!!!」


何とか隊長を救おうと、声を上げるエルピの頭上に再び暗雲が立ち込み始めた。


「エルピさん!!!また暗雲が!!!!退避を!!!」


「おい!!やめ「エルピ!!!!退避しろ!!命令だ!!」


今度は別の隊員がエルピを退避させようと服を掴むが、それを払いのけたエルピに隊長が怒声を上げた。


「いけぇええええええええええええええええええええええええ!!!!」




降雹Haze



「隊長ぉおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」


2人の隊員に無理矢理引き摺られていくエルピに視線を向けた隊長は、微笑むと「後は頼んだ。」と呟いた。


倒れている隊長に雹が降り注ぐ・・・・・・。


「うああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」


ガツッ!!ガツガツガツ!!!!ドガガガガガガガガガッガ!!!!!!!!


連れ去られていくエルピの絶叫は、無情に地面を叩きつける雹の音にかき消された。


「よし!!行くぞ!!!」


壁の際から小銃制圧隊が退避していく様子を見ていたバガンが飛び出した。


「うらあああああああああ!!!」


「うおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」


「おおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」


バガンに続きタンザや他の蛮族達も声を上げ、隠れていた樹々や壁から飛び出す・・・


「!?


待ちなさい!!!!!!!!!!!」


が、異変に気付いたミューレルがバガン達を制止した。


「何だよ!!」


「ん???歌???」



「「「「♪♬♪~~~♩♩♬♬♪~~~♪♩♩♫~~」」」」



「讃美歌??」


女性の美しい歌声が教会から聞こえてくると、ギィイイ・・・と音を立て教会の扉が開く。


「まさか・・・正気か??」


ミューレルが顔を顰めた。


教会の入り口から手を繋ぎ合った修道女たちが讃美歌を歌いながら出てくると、教会を守るように立ち並び始めたからだ。



「「「「♪♩♫~~~♫♪♬♪~~~♪♩♫♪~~」」」」


さらに奥から同じく手を繋いだ修道女たちが次々と何重もの壁を作るように立ち並ぶ。


「人の壁だ・・・・。」


「狂っている。」


ミューレル達がその異様な状況に唖然としていると、先頭の中央に立った年老いた修道女が目を剥き、ひとつの瞬きをすることもなく声を張り上げた。



「女神イヴァ様を称える聖なるこの地を穢させはしません!!!!!立ち去りなさい!!!!!!!!!!!!!!」


_____________________________________


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