第36話 過去視の影響 ~蛮族侵攻:sideエスト
―イヴァリア歴16年7月20日 0時40分―
ミューレル達がマーテル河に架かる大きな橋を渡り、中央区への侵攻を始めた頃・・・エストは上空でその様子を確認していた。
「ホントに・・・来た・・・・・。」
その後マーテル河の岸辺を走る2つの影が目に入ったエストは、ドゥーエから聞いた通りミューレル達が『女神の心の原石が工業区にある。』という自分の情報を信じてくれていたのだと胸を撫で下ろした。
いくら数度会話を交わした事があるとは言え、こんな若造の情報を本当に信じてくれるのだろうか・・・・・ドゥーエから『作戦の変更をしてくれた。』と聞いてはいたものの、実際にその行動を目にするまでエストは・・・・どうしても不安だった。
「よし!」
前日・・・正確には前々日にその事をリュナに話して窘められた後、上空で待機しているよう言われたエストはミューレル達の動向を確認して無意識の内に笑顔で小さくガッツポーズをしていた・・・が、徐々にその表情は曇り気まずそうな顔に変化していた。
「俺は・・・原石を壊しに行こう・・・。」
しばらくしてそう小さく呟くと・・・エストは工業区にある建物の屋根の上に移動し始めた2つの影に視線を向けた・・・その瞬間。
ドォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!!!!!!
自分が通っていた学園の体育館が突然大きな爆発を起こした。
「うわっ!びっくりしたー。」
爆風に少し煽られたものの、すぐ体勢を立て直したエストは燃え上がる体育館を目にして若干引いた。
「引き付けるってこういう事???・・・・学園長・・・
そうブツブツ言いながら苦笑いを浮かべたエストだったが、爆発音に驚いた周囲に住む人々が慌てた様子で外に出て来くる姿を目にして思わず声を上げてしまった。
「ああ!!人がいっぱい出てきちゃったよ。」
この日は風がほとんど無く、揺れはするものの真上に炎が上がっているため火が周辺に燃え広がる恐れは少ないが、それでも近寄るのは危険だ・・・・だが、体格のいい男が声をかけると集まって来た人々とバケツリレーを始め出した。
「ちょっと・・・近づき過ぎじゃないか・・。」
勇敢に、燃え上がる炎に向かって水をかけ続けている人々に気が向いてしまっていたエストは・・・・・・
ドゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!
「っ!?」
ミューレル達が走って行った先にある公園でまた大きな爆発が起こるとハッ!!とした。
『目先の出来事に捕らわれるな!』とミューレル達から拳骨をくらったような気持ちになった。
ガァーーーーーーーン!!!ガァン!!!!
ガァーーーーーーーン!!!ガァン!!!!
「第二級警鐘・・・・さすがドゥーエ!!!」
さらに続いてアリエナに鳴り響く重々しい鐘の音を耳にしたエストは、右往左往していた自分とは違くしっかりと自分の仕事をしたドゥーエを称えた。
『
また、バジュウウウウウウウウウウ!!!という鈍い音が下から聞こえたエストは、そこに目を向ける颯爽と現場に駆け付けた水の魔法士達が放水を始めていた。
「消火隊だ・・・・良かった・・・・・。」
魔法士たちが消火活動をしていた人々を避難させている状況に胸を撫で下ろしたエストは、工業区に視線を戻すと二つの影がもう視界には無い事に気づき顔を歪めた。
「アンタは騎士に向いていない・・・か・・・・ホントだ。」
ポツッとリュナに言われた言葉を口にしたエストは、少し眉尻を下げて顔を俯かせていたが
パアアアアアン!!!!
己の頬を強く張って気合を入れ直すとバッ!!と顔を上げ気持ちを切り替えた。
「行くぞぉおおおお!!!!!!」
吠えた少年のその目は少し滲んでいた。
****
―イヴァリア歴16年7月18日 夜―
「ふぅーん・・・それにしてもやっぱりアンタは騎士に向いてないわ。」
「は?」
ドゥーエと最後の打ち合わせをした日の夜・・・・その報告を聞き終えたリュナがいつも通りダイニングテーブルの対面に座っているエストに向かってそう告げた。
「何??突然??」
急に『騎士に向いていない。』と言われ少しムカッとしたエストは眉を顰めた。
「うん。先日イヴァリアで王を殺そうと思ったって聞いた時にもそう思ったんだけどね・・・今のドゥーエ君とのやり取りを聞いて確信したわ。」
「騎士に向いてないって?」
「そう。」
「どうして?」
「アンタは自分の想いに素直な反面、その想いで衝動的に行動してしまう時があるでしょ?まぁ、昔からそういうとこはあったけどねー。集団行動って言われてるのにフラフラと興味を惹かれた方に行って迷子になったり・・・。」
「ぐ・・。」
頬杖をついて話すリュナの言葉が胸に突き刺さった。
「騎士は規律や統率を重んじるからね。アンタきちんと上司から受けた指示をこなせる??自分の理念とは程遠い支持を出される事もあるのよ??出来ないでしょ??アンタは一人旅や冒険者??みたいなのが性に合ってるような気がするわ。」
「う・・・。それがさっきの話とどう関係するのさ・・・。」
リュナの言葉にグサグサと心を貫かれたエストは、テーブルの端を掴み少し涙目になっていた。
「今回はアンタの意見が採用されたから功を奏しただけ。」
「??」
「分からない?もしセレニーさん達の返答が『それでも教会の女神の心を優先する。』って内容だったらどうしてた?」
「そ・・・それは・・・。」
「セレニーさん達に協力しないで一人で原石の破壊に向かったでしょ?」
「う!?!?」
図星を突かれたという顔をするエストにリュナはため息を吐いた。
「はぁ・・・やっぱりね・・・。マサトもそうだったんだよね。やっぱりアンタ似てるわ。」
「え??父さんも??」
「そう・・自分の想いに忠実過ぎて騎士たちの反感を買ってたわ。ま、そういう男だったから惚れたんだけどねー♪♪」
そう言ってニシシ♪と笑ったリュナだったが、エストは父と似ていると言われて嬉しい反面、『騎士たちから反感を買っていた。』という父の過去に何とも言えないという表情を浮かべていた。
「エスト!アンタずっと練っていたセレニーさん達やドゥーエ君の計画を変えさせた責任があるんだよ?」
「え?うん。」
「たくさんの人たちが関わる計画を変更させた張本人のアンタが、その計画に支障をきたすような・・・自分勝手な行動を取ってはならないんだからね!!」
「そんな事分かってるよ!」
疑うような視線を向けて来たリュナに、エストはムキになって声を上げた。
「ホントに??」
「ホントだよ!でもさ・・・こんな俺の言う事を学園長たちがホントに信じてくれたのかな??手紙を見たけど・・・まだ不安なんだ・・。」
「ハッ!!!そんなだからアンタは騎士に向いてないって言ったのよ。」
ミューレルからの手紙をドゥーエから受け取ったとしても、まだ彼らを信用しきれていないエストにリュナは呆れた視線を向けた。
「・・・・。」
リュナの言葉に顔を歪めたエストは俯いてギリッ!!!と拳を強く握った。
「はぁ・・・エスト・・・。一人旅をして・・・さらにアルストの過去を見て来たあなたが、今どういう考えを持っているのか・・・アタシには分からない事かもしれない。」
「・・・・。」
再びため息を吐いたリュナは口調を柔らかく変えて語り掛けるが、エストはピクリとも動かず俯いたままだった。
「でもね・・・あなたがみんなを救いたいって思っているのと同じように、ドゥーエ君もセレニーさん達もあなたと同じように覚悟を持って行動しているのよ??」
「それは・・・俺だって・・・そうだと思っているよ・・・。」
エストは俯いたまま言葉を絞り出した。
「エスト。明日、あなたは最初は・・・上空でセレニーさん達の動向を見ていなさい。セレニーさん達は必ず手紙の通りに行動してくれるから。」
リュナのその言葉にようやく顔を上げたエストは戸惑いながらも口を開いた。
「え・・・・???でも・・・・。」
が、それ以上言葉が続かなかった。
「いいから!ちゃんとその目で見て・・・それからどうするかを・・・・自分はどうあるべきかを考えなさい。」
「・・・・・うん。」
席を立ち、自分の部屋に戻って行く息子の背に目を細めたリュナは
「少し・・・言い過ぎたかな・・・。」
そう呟いてコツン!と自分の頭を叩いた。
エストは人を疑う事がない無垢な心の持ち主・・・とまではいかないものの、ここまで疑り深い性格では無かった。
息子をここまで疑り深くした原因・・・・リュナの頭に思い付くのは神から授かったスキル『
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