第33話 蛮族侵攻②
「隊長・・・弾の無駄遣いです。迂回して奴らを追いましょう。」
少しあどけなさは残っているものの、一切瞳を揺らす事なくそう進言するエルピに
「・・・ああ・・そうだな。」
と、隊を率いる男は顔を顰めながらも静かに頷いた。
「行きましょう。好き勝手に街を爆破されて悔しいのは僕も同じです。」
男にそう告げ、アリシアが作り上げた氷の壁を悔しそうに睨みつけ下唇を強く噛んだエルピは、殺傷力の高い前装式のライフル銃を肩に担いで走り出した。
この1年でエルピは大きく成長していた。銃の腕は勿論だが、精神的な成長は著しかった。
その要因はドゥーエだった。
友人であるドゥーエが蛮族に囚われたと聞いた時、彼は泣き崩れた・・・・かと言って無事に帰って来たドゥーエと病院で顔を合わせたもわんわんと泣き崩れていた。
そんなエルピの成長を促したのは、その後もひたすらに強くなろうと努力するドゥーエの姿だった。
自分がもしドゥーエのように仲間が殺され捕虜になっていたら・・・・・・きっと『もう二度と戦場に出たくない。』と思ってしまうだろう・・・・エルピは自分がそう思う事を容易に想像できた。
ドゥーエと自分を比べる事で、エルピは自分の情けなさやひ弱さを自分で自分に突き付けた。
『他と比べなくていいよ。エルピはエルピらしく生きればいい。』
幼い頃、母親に優しくそう言われて育ったエルピだったが、ドゥーエと自分を比べた事で『変わりたい。』という気持ちが芽生えた。
ドゥーエのように剣は振るえずとも、魔法を使えなくとも、彼のようにどんなに辛く痛い思いをしても、誰かが苦しんでいるのならすぐそこに駆けつけるような・・・そんな男になりたいと思った。
しかし、剣は振るえずともエルピは賢い男だった。
他人と比較したとしても、比較した対象と同じ様になる必要はないと分かっていた。
そして自分が所属するこの小・重火器部隊は自分の特性にあっている事も分かっていたし、自分の弱点に目を背けることなく冷静に見つめる事が出来る人物だった。
「僕は、僕のやり方で強くなってみせる。」
その時誓った強い視線そのままに、エルピはミューレル達を仕留めるために街道を駆け抜けていった。
****
一方その頃、氷と土の壁のおかげで容易に十字路を突破する事が出来たにも関わらず、誰もいない街路を走るバガンはつまらなそうな顔をしていた。
「何だよ、その顔は?」
「いや、誰か来ねーかな?って思ってさ。銃野郎とかじゃなくてさ・・。」
「戦闘狂が・・。」
「っせーよ!」
剣を振るいたくてうずうずしているバガンを揶揄った赤髪の火の魔法士だったが、警鐘が鳴り終わり、静まり返った街路を見渡して眉を顰めた。
「でも、これだけ騎士が出て来ないとなると・・・ちゃんと引き付けれてんのか不安になるな・・・・いや・・罠か??」
あれだけ爆破したにも関わらず、静か過ぎる周囲に異様な不安を覚えた赤髪だったが、そこはただただ油断していた騎士達がルーズなだけだった。騎士達も防衛の訓練を怠っていたわけではないが、実戦と訓練は全くの別物であり、さらに初めての内部侵入を許した事に動揺した騎士達の動きは想像以上に鈍くさかった。
さらに、ドゥーエの提案で第二級警鐘・・・『屋内退避命令』が出た時間帯は深夜だ。ほとんどの者が自宅にいるこの時間帯に、逃げ惑ったり叫び声を上げる一般都民が街路にいるはずが無かった。むしろ深夜のため爆発音や鳴り響く『第二級警鐘』の鐘の音で目を覚ました者が大半だった。
それ故に見かけた一般都民と言えば、最初に出くわしたカップルと公園でイチャついていた数組・・・それと疲れた顔をしたスーツの男・・・くらいなものだった。
また、戦う力を持っていない彼らが走っているミューレル達を目にしたとしても、窓から震えて見ている位が関の山だ。
そのため、アリエナの中央区まで入り込んだものの悠々と教会に向かって走っていたミューレル達だったが、ここに来てようやく数百m先で待ち構えている20~30人程の騎士たちが目に入った。
「来たぞ!!!構えろ!!!!!!!!!!!!」
一人の騎士がそう声を上げると、横一列に並んだ騎士達が一斉に剣を抜き槍を構えた。
「やっとお出ましだ!!!!!!」
「うれしそうに・・・。」
「足を止めるな!!!蹴散らすぞ!!!!」
「「「「おおおおおおおおおお!!!!」」」
「うらぁああああああああああああああああああああ!!!」
ニヤニヤと嬉しそうな顔をしていたバガンが叫び、走る速度を上げるとそのバガンに剣の切っ先を向けた騎士の男が声を上げた。
「怯むな!!!突っ込めぇええええええええええええ!!!!!!!!!!!!」
「「「「「「おおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!」」」」」」
「そうこなくちゃよ♪♪」
恐れる事無く突撃してくる騎士達に笑顔でそう口にしたバガンは勢いよく飛び掛かった。
「は??」
「馬鹿なのか?」
しかし騎士達は自分たちが剣を掲げ、槍も構えているというのにあえて飛び上がるという行為を選んだバガンに一瞬呆気に取られるも嘲笑した・・・・・が、
「馬鹿!!!!!注視するな!!!!」
高く跳び上がったバガンに誰もが視線を取られていた。
「遅いし。」
突撃した騎士達の後方で隊長と思われる騎士が怒声を上げるも既にミュンが突き出したその両手から水が溢れ出していた。
『
隊長の怒声に視線を戻した騎士達を水の壁が襲いかかった。
「うあああああああああああ!!!」
「ぎゃああああああああああ!!」
「くそ!!!」
数名の騎士が水の壁に押し流されると、さらに後方にいる騎士をも巻き込んだ。
「立て直せ!!!」
「あ!!」
しかし、盾を構え何とか持ちこたえた騎士達も少なくない・・・・が、着地したバガンが剣を振り下ろした。
「ぐああああああああああ!!!」
「くそ!!!ぎゃ!!!」
一人斬られたが、バガンの背を取った騎士がその背を突き刺そうと迫ったが走り込んで来たタンザの一振りで叩き潰された。
「数が・・!」
「ぎゃあああああああ!!」
「な・・何をやってい・・・!?!?!?」
後退してくる部下たちを掻き分けて前に出た隊長の騎士だったが、雪崩のように押し寄せて来る蛮族たちに抗う事は出来なかった。
戸惑う隊長の男をギョロッ!!とした目で捉えると、口をニタリと歪めたタンザが自慢の手斧を振り下ろした。
「うあああああああああああああああああ!!!」
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