第32話 蛮族侵攻
警鐘の種類(イヴァリア・アリエナ共通)
●第三級警鐘:『注意』
魔族・魔物の襲撃、自然災害への心構えを高めるための注意を呼びかける警鐘。実際に避難、退避などの行動を起こすまででは無いものの、次に二級以上の警鐘が鳴る場合があるためそれに備えておく事。
●第二級警鐘:『屋内退避命令』
魔物の国内、都内への襲撃、自然災害の発生を知らせる警鐘であるが、騎士団が屋内に避難していた方が安全であると判断したもの。騎士団による安全が確認されるまで、自宅、職場、学校等、今いる建物、または近くにある建物内に避難し身を守る事を優先する事。
●第一級警鐘:『緊急避難命令』
魔族・魔物の国内、都内への襲撃、大きな事故や自然災害の発生を知らせる警鐘。都民は騎士団の誘導に従い、速やかに指定の避難場所に(騎士団の敷地内やアリエナ城、訓練場等に)緊急避難する事。避難の際に魔族・魔物との接触の恐れがある場合は。近隣のより安全な場所に避難する事。
●特級警鐘:『国外、都外への避難命令』
国内、都内が魔族・魔物との戦場と化した事、巨大災害の発生を知らせる警鐘。すでに国内、都内への甚大な被害が発生している状況。騎士団の誘導に従い国外、都外へ速やかに避難する事。
****
「第二級警鐘・・・・。」
「ええ。屋内退避命令ね・・・解除されるまで外には出れないわね。」
論文の手伝いをしていたエリシアが、外の様子を気にしているクリードに声を掛けた。
「あ!火災が起こっているようだね!何かの事故・・・かな??」
同じくクリードの手伝いをしていたエドリックが、クリードの左隣りで体を伸ばしながら窓から外の様子を眺めた。
「でも・・ただの事故なら警鐘は出ないよね?」
「そうね・・・でも、どちらにせよ私達はここにいるしかないわ。」
そう話ながら右隣りに来たエリシアに顔を向けたクリードは申し訳なさそうに眉尻を下げた。
「ごめんね・・・手伝ってくれたばっかりに・・・自宅に居た方が安心出来たよね。」
「いえ!私は別に・・・・。」
「ふふ♪エリィはクリードと一緒に居た方が安心出来るもんね♪」
クリードの肩越しから顔を覗かせたエドリックが、したり顔でエリシアを揶揄った。
「な!ちょっとエド!!!!!!」
「ははははは!」
「もぉ・・・。」
顔を赤くして怒ったエリシアと、笑いながら逃げ回るエドリックの2人をクリードは優しい眼差しで見つめていた。
****
―イヴァリア歴16年7月20日 1時8分―
「は?何だと!?!?どうしてここに蛮族が!!!!」
「警鐘も出てたでしょう?何も聞いていないんですか?」
「聞いておらん!集落防衛隊は何をやっていたんだ!!!」
「今、そこを責めている場合じゃない!!!」
「やつらはここに向かっているのか?」
「いや、アリエナ城方面に向かっているようです!」
「なぜ??」
「知らねぇよ!!!直接聞けばいいだろ!!」
「・・・!!!」
「・・・!!!」
「はぁ・・・何やってんだか・・・。あ!」
急ぎ装備を整え外に戻ったドゥーエは、変わらず広場で騒いでいるだけの騎士や魔法士たちを目にしてため息を吐いた。あれから3度の爆発があったというのに、未だ集落防衛隊がどうだのこうだのと言っている面々に呆れた視線を向けたドゥーエだった・・・・が、その先にある正門で誰かと話をしているマリウスとその周囲に数名の騎士がいる事に気づき駆けつけた。
「マリウスさん!!」
「お!来たか!」
「ドゥーエ!!久しぶりだな。」
「え!?ハーセン隊長!!ご無沙汰しております。」
マリウスと話をしていたのは、マリウスと同じく隊長職に就いているサイリス・ハーセンという男だった。入隊当時、ドゥーエはサイリスの世話になっていた。深い茶色の髪をオールバックにしたマリウスより少し背の低いその男は、体格が良くアリエナ騎士団の中で1・2を争う大きな剣を背に携えていた。
強面で気の強そうな人物に見えるのだが、クシャっと愛嬌のある笑顔が印象的な男だった。今も頭を下げたドゥーエにその笑顔を見せている。
「内部が混乱しているようだから、もうお前達と一緒に出ようと思ってな。」
「え??」
「心強いだろ?」
「は・・はい!」
「既に数組の騎士隊と砲撃隊が奴らと交戦しているらしい。」
「!?」
「よし!行くぞ!!!!」
少し焦っている様子のマリウスの背を叩いて正門を飛び出したサイリスに続き、ドゥーエたちも交戦している音が鳴り響くアリエナ城方面に向かい走り出した。
****
―イヴァリア歴16年7月20日 0時57分―
時は少し遡り、人気のない場所を狙って爆破を繰り返しながら教会を目指していたミューレルたちの前に、一番最初に立ちはだかったのはアリエナの砲撃隊だった。
「おお!?」
「下がれ!!!!」
「ロック!!!!」
「ん!!!」
先頭を走っていたバガンが目前にある十字路を突っ切ろうとすると、十字路の右手側に銃を構えた砲撃隊隊員の10数名が横一列に並んでいた。
「打てぇえええええええええええええ!!!!!」
ダァーーーーーーーーーーーーン!!!
ダ!ダ!ダ!ダ!ダァーーーーーーーーーン!!!
街中に一斉射撃の銃声音が鳴り響く。
「あ・・・危ねぇ・・・。」
十字路に飛び出したバガンと他数名の前に立ち上がったロックの『土の壁』が、間一髪で砲撃隊の銃撃から彼らを守った。
「次ぃいいいいいいいいいいい!!!」
砲撃隊の隊長と思われる男が手を挙げそう叫ぶと、銃撃した横一列と入れ替わるように同じく10数名の銃を構えた隊員たちが前に出て来た。
「てぇえええええええええええええええええええええええ!!!!!」
男が挙げた手を振り降ろすと同時に、ロックの土の壁に構う事無くまたしても一斉に射撃してきた。
ダ!ダ!ダ!ダ!ダ!ダァーーーーーーーーーン!!!
「クッ!!!」
ロックは顔を歪めた。その一斉射撃により土の壁がボロボロと少し崩れたからだ。
「次ぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!」
「おいおい。」
「あまり長く持たないぞ。」
畳掛けるように声を上げる砲撃隊隊長に苦笑いを浮かべたバガンたちは、次の射撃が放たれる前に慌てて十字路から彼らの死角となる元の街路に戻った。
「お疲れ様です。」
冷や汗をかきながら戻って来たバガンは、声を掛けてきたミューレルの冷静さに若干イラッとした。
「騎士より銃撃隊の方が早いのかよ!」
「彼らはこの街の治安を守る警備隊ですからね。騎士達とは別働なんですよ。いつ何が起きてもすぐ出れるように彼らは常に準備しているんです。」
「そう言う事は早く行ってくれよ!」
「他の者達には伝えましたが、あなたは言う前に走ってっちゃいましたからね。」
「・・・・。」
苛立っているのはお門違いだと言いたげに、ミューレルは強い視線をバガンに向けた。
「・・・で、どうするんで?」
気まずそうに笑顔を浮かべているバガンを余所目に、ミューレルを背負っているタンザがそう問いかけた。
「策はありますよ・・・右はアリシア!!ロック君は左を!!!」
「は!」
『
「ほーい!!」
『
ミューレルに名を呼ばれたアリシアが扇子を振り上げると十字路右手には氷の壁が立ち上がり、ロックが杖を突き出すと、十字路の左手に普段は斜面を安定させる土木作業で使われる土の擁壁が立ち上がった。
「おお!!」
「やるぅ♪」
「そんなに長くは持ちません。一気に駆け抜けますよ!」
「「「おおおおおおおおお!!!」」」
**
「!?」
「くそ!打てぇええええええええええ!!!」
「・・・・。」
立ち上がった厚い氷の壁の向こう側を、蛮族達の影で移動しているのが見て取れた砲撃隊隊長が青筋を立て再度一斉射撃の命令を出すが・・・・射撃隊の少し前に出た一人の男が手を真横に上げて彼らを止めた。
「どうし・・」
ダーーーーーーーーン!!!!
前に出ていた男が、隊長に怒声を上げさせないが如く氷壁に向かって銃を撃った。
「・・・。」
何も起こらなかったかのように立ち塞がっている氷の壁を指差したその男は
「隊長・・・弾の無駄遣いです。迂回して奴らを追いましょう。」
瞼に掛かりそうな綺麗な茶色の髪を靡かせながら、顔だけ背後で呆然としている隊長に向けそう進言した。
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