第31話 第二級警鐘
7月20日深夜・・・非番で自宅にいたドゥーエの瞳に夜空を赤く染め上げる炎が映ると、少し遅れて激しい爆音が鳴り響き、窓がガタガタとその振動で震え出した。
「来た!!!!!」
ミューレルたちの侵攻が始まったのだと確信したドゥーエは、窓から離れベッドに立てかけたあった剣を手に取ると自分の部屋を飛び出した。
****
―同時刻-
「な・・何だ!!!!」
本部にある自室のソファーで顔に書類を載せ横になっていたマリウスは、爆音と振動に驚きソファーから転げ落ちた。
「くっ!」
すぐ立ち上がり窓を開けて外に顔を出すが、爆発箇所は窓と反対方向であったため火災を知らせるカーン!カーン!という鐘の音だけが鳴り響いていた。
クルッ!と踵を返し、騒がしい廊下に出ると騎士たちが慌ただしく駆け回っていた。
「何事だ!!!」
「あ!マリウス隊長!自分もまだ何が起こっているのか分かりません。」
「そうか・・・外に出るぞ!」
「はい!」
近場にいた騎士の腕を掴み、状況を確認しようとしたマリウスだったが、捕まえた騎士も自分と同じく爆発があった事しか把握していなかったため、マリウスは彼を引き連れ階段を降り急いで建物の外に出た。
「何だ?あれは・・・・。」
「あああ!!」
街中と思われる位置から、真っ赤な炎と黒い煙が立ち上がっているのを目にした2人はその状況に呆然としてしまった。
「いったい・・・なにが・・・。」
「た・・・大変だ・・・・。」
「おい!しっかりしろ!!!!人を集めるんだ!!」
「情報!!誰か情報をくれ!!!!」
我に返り、広場に足を向けたマリウスはパニック状態に陥っている騎士たちの中で、「治癒魔法士を集めて下さい!!!!」と必死に叫んでいる魔法士の女性に声を掛けた。
「おい!どうした事故か?都民に怪我人が出たのか?」
騎士団内でも有名どころのマリウスに声を掛けられ、一瞬驚いたようであったが手にした杖を一度ギュッ!と握ると落ち着いた口調でマリウスの問いに答えた。
「いえ。事故ではないそうです!」
「ではいったい何だ?」
「襲撃を受けているようなんです。」
「は??魔族か!?」
「いえ、蛮族だそうです。」
「な!?何だと!?」
「すいません!いち早く治癒士を集めたいので失礼します!」
「あ・・ああ。」
ペコッと軽く会釈をしてマリウスから離れた彼女は、また声を上げながら広場の中を走っていった。
「よし!こちらも人を集めるぞ!!私は現場に向かう!君はドゥーエを呼んでくれ!!」
「あの・・ガラハウ騎士は・・・。」
「何だ!!!」
「本日は非番でして・・・。」
「そんな事は分かっている!!!だから呼べと言ったんだ!!!」
「は・・はい!!!」
そんなモタモタとしたやり取りをしている最中、また大きな爆発音がマリウスたちの耳に届く。
ドゴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!
「くっ!!」
眼前で燃え上がる炎を目にし、ギリッ!!と歯を喰いしばったマリウスは、
パァアアアアアアアアアアン!!!
と強く自身の頬を両手で張ると騎士団地内の出口に向かい駆け出した。
「マリウス隊長ぉおおおおおおお!!!!」
しかし、気合を入れたマリウスを外から戻って来た騎士が呼び止めると、マリウスの名を聞き周囲にいる騎士たちが集まってきた。
「どうした!?」
息を切らしている騎士に問いかけると、騎士は体をガタガタ震わせながら先ほど仕入れた情報を伝えてきた。
「ば・・・・蛮族です・・・蛮族が区内に侵入してきました!!」
「それは先ほど聞いた。それで奴らの・・・。」
戻って来た騎士の男に、蛮族たちの目的または行き先などを問おうとしたマリウスだったが、周囲に集まった騎士たちが好き勝手に声を上げ始めた。
「ば、馬鹿な・・・。」
「なら警鐘はどうしますか?」
「それより上はどうした??将校以上も建物に数名いるだろ?」
「それが・・中々自室から出て来てくれないのです。」
「くそぉおおおおおお!!!何やってんだよ!!!」
「どうすればいいですか?マリウス隊長??」
そんなパニック状態になっている騎士達に向かってマリウスは声を荒げた。
「お前ら落ち着けぇえええええええええええええ!!!!!!!!!!!」
「「「!?!?」」」
「こんな状態では襲撃者たちの思う壺だぞ!!!!」
「す・・すいません・・・。」
「動揺してしまって・・。」
普段温厚なマリウスに怒声を浴びせられた騎士たちがそれに対しても動揺しているが、入り口からドゥーエが走ってくるが目に入ったマリウスは彼らに構わず手を上げてドゥーエを自分の下に呼び寄せた。
「ドゥーエ!!!!!こっちに来てくれ!!!!」
「あ!!!マリウスさん!!!!!」
「良く来てくれた!!襲撃者との接触はなかったか?」
「はい。爆破された箇所の確認出来ましたが。」
「そうか。」
「あの・・・すいません。隊長・・警鐘はどうしますか?」
会話を始めたマリウスたちの間に、小さく手を上げ割り込んできた騎士の一人が申し訳なさそうにマリウスにそう問いかけた。
「警鐘の判断は上がする!」
「それでは遅いんです!」
「第二級警鐘にしてください!!」
「は?」
「ん?何故だ?」
「ここに来る途中、奴らの攻撃を受けた場所はミューレル学園の体育館、商業区にある公園倉庫でした。奴らはわざと人気のない場所を攻撃しているようでした。それに住居や店舗などには一切被害が無いように見えました。」
「一般都民に危害を加えるつもりは無いという事か??」
「おそらく。」
「そうか・・確かにそれなら無理に避難させる必要はないな!!では、第二級警鐘を鳴らせ!!!責任は俺が取る!」
「分かりました!ガラハウ騎士、いい判断ですね!」
「ありがとうございます!」
小さくピッ!と親指を立てた騎士がその場を去ると、ドゥーエは軽装であるマリウスに顔を戻して口を開いた。
「マリウスさん!当たり前ですが奴らは武装しています!急ぎ装備を整え現場に向かいましょう!!!」
「!?そうだな!!よし!お前たちも来い!!!」
「「「はっ!!!」」」
剣を手にしてはいたものの、ドゥーエの指摘で着ている白いシャツに片手を這わせてハッ!としたマリウスは、同じく装備が整っていない騎士達を引き連れ建物内にある装備保管庫へ急ぎ向かっていった。
「ふぅ・・・第一関門突破だな・・・。」
一息つき、俯き呟いたため一寸出遅れたドゥーエだったが、走るマリウスの背中に視線を向けるとキュッ!と口を結んで駆け出した。
****
―イヴァリア歴16年7月18日―
早朝にセスからミューレルの手紙を受け取ったドゥーエは、エストの自室で最終的な打ち合わせをしていた。
「読み終えたか?」
「うん・・・・ドゥーエ・・・やっぱり明日は騎士として動いてくれない?」
「え?何でだよ?一緒に戦うって言っただろ?」
ミューレルの手紙を読み終えたエストが、顔を上げるなりそう提案してきた事にドゥーエは驚き椅子から身を乗り出した。
「でも、この学園長の返答だと中央区に多数で攻めてくるんでしょ?」
「ああ。そう判断したようだな・・・。」
「だと、『第一級警鐘』の避難命令じゃない方がいいんじゃない?」
「!?」
エストの指摘に椅子に腰を下ろし直したドゥーエは、口を覆うように右手を当てると目を閉じ思考を巡ら始めた。
「それに自分と同じく上も第一級って判断するかもって言ってたじゃない?」
「ああ。」
「前の作戦だったらそれでも良かったけど・・・。」
「ああ。絶対『第二級警鐘』・・・屋内退避命令の方がいいな。」
そう口にしながらパチッと目を開けたドゥーエは、エストに視線を向けて大きく頷いた。
「それでドゥーエが上手く『第二級』に誘導出来りするかなぁって思って。」
「ああ!考えがる!やってみる価値はありそうだ!」
「ありがと!!!それとさ、上手く・・・・ん?」
自分の提案を受け入れてくれたドゥーエに気を良くしたエストは、続けて内部攪乱をお願いしようとしたが・・・ドゥーエはエストの発言を止めるように手を差し出した。
「言いたいことは・・・だいたい分かった。だが、約束しろ!!」
すると、また身を乗り出したドゥーエが眉を顰めてキッ!!と睨んできた。
「え??は???どしたの????」
エストはそのドゥーエの表情に訳が分からず半笑いで首を傾げてしまった。
****
―イヴァリア歴16年7月20日 0時54分―
ガァーーーーーーーン!!!ガァン!!!!
ガァーーーーーーーン!!!ガァン!!!!
重々しい鐘の音がアリエナに鳴り響く。
「第二級警鐘・・・・。」
論文を仕上げるため、深夜まで高等学校に居残りしていたクリードは、不安そうに眉尻を下げながら窓から燃え上がる空を見つめていた。
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