第7話 約束②
「それに・・・ドゥーエや大好きな人達の心が・・本心が捻じ曲げられるってすごい悔しいし・・・。」
エストが眉間に皺を寄せ忌々し気にそう話すと、ガクッと項垂れたドゥーエは一瞬ブルッ!!と体を大きく震わせた。その後も体を僅かに震わせている。
「ドゥーエ??」
「ぐ・・・エスト・・・その通りだ・・・・俺は初めて『意思の捻じ曲げ』に気づいた時、悔しくて悔しくて・・・怒りで気が狂いそうだった。」
顔を下に向けたまま話し出したドゥーエの真下にポツッ!と涙が落ちた。
「それも俺だけじゃなく、イリーナもクリードもカリンも、俺の兄弟や両親、アリエナやイヴァリア・・・グラティアでもそうだ。誓いを立てた人族全員がだ!!!俺は・・そんな事をするやつを『神』なんて思えない。」
涙を見られたくなかったのだろう・・・そう話し終えると下を向きながらグイッと袖で目元を拭ったドゥーエが顔を上げた。
その顔はギリッ!!と下唇を噛み悔しさに塗れているようだった。
「・・・すまないエスト・・・・この事を話せばお前は一緒に戦うって・・・そう言うだろうと俺はどこかで思っていた。・・・ごめん・・エスト・・・・・・・・俺は卑怯者だ・・・。」
再び首を垂れたドゥーエは、自分を責めるように両拳を強く握った。
「そんな!!謝らなくていいよ!!・・・うーん・・・あのね。ドゥーエの話を聞かなくても、学園長だったセレニーさんが動き出さなくても、いずれは俺も『あれ』を壊そうとしたはずだから。」
「・・・・・・・・・は?????」
ギリギリ!と血が出るほど手を握りしめていたドゥーエだったが、気まずそうにエストが頭を掻きながらそう話すとパッ!と顔を上げ唖然とした。
「いや・・だって俺も旅の中で人族たちが『洗脳』されている事知ったからさ。あとその原因は『あれ』だって思ってたしそれに・・「は!?まてまて!」
両手をわちゃわちゃと動かしながら言い訳するようにエストが話すが、ドゥーエは険しい表情で動いているエストの手を取り制止した。
「エスト!!!お前、どうやって旅の中でその事を知る事が出来たんだ??」
「ん?」
「誤魔化すなよ!?お前誓いを立てなかったんだろ?」
「そうだよ。」
「旅の中で学園長と会ったのか?」
「いや、会ってないよ。」
淡々と答えるエストにドゥーエの首が質問を重ねる度に傾いて行く。
「なら、どうしてその事が分かったんだ?」
「ああ・・・それね。・・・・・・うーーーーんとね・・・・・・。」
「何だよ。」
「・・・。」
「どうした?言えないのか?」
「今、考えてる。」
「何を?」
「ドゥーエに負担なく伝える方法。」
「そ、そうか。め、面倒かけます・・・。」
「はは。何それ。」
ペコっと頭を軽く下げたドゥーエに笑みを浮かべるも、一度頷くとパン!と手を合わせ今度はエストがドゥーエに軽く頭を下げた。
「ごめん、ドゥーエ。やっぱり今は全部言わない方が良いと思うから端折って話すよ。」
「今は?」
「うん。全ては『あれ』を破壊出来たらね。」
「そうか!分かった。それで良い。」
「あと、一つ問題が。」
「なんだよ。問題って?」
「うん・・・ドゥーエが信じてくれるかどうか。」
「お前が俺を信じてくれてるように、俺もお前を信じてるさ。」
「ありがとう。」
ニッ!と笑うドゥーエに微笑んだエストは『意識の捻じ曲げ』が起こらないよう配慮しながら、ドゥーエに伝えれる事を伝え始めた。
エストがドゥーエに打ち明け無かった内容は以下だ。
●女神グエナの存在。
●スキル『
●自分が魔族とのハーフである事とリュナが魔族である事。
●治癒魔法の事
●バスチェナ城に行った事・・等々
次に打ち明けた内容は以下になる。
○人里離れた場所に暮らす祖父に鍛えられた事
○修練中に風の精霊の加護を受けた事
〇スキル『
〇アルストの過去を見て『あれ』が神じゃないと知った事。
○まだ、全ての過去を見たわけでは無い事。
エストの話を聞いている際、出来るだけ配慮したつもりだったが、ドゥーエに『意思の捻じ曲げ』が数回起こった。特に『スキルの話』と『アルストの過去の話』には反応があった。それは『イヴァ』にとって排除対象となるべき事柄になるとは思っていたが、そこを話さない訳にはいかずエストはドゥーエに申し訳なさそうな顔を向けていた。
「そんな顔すんなよ。覚悟の上だったし準備出来ていた分だいぶラクだったさ。」
「そういうものなの?」
「ああ、そういうものだ。」
「そっか。」
そうは言いつつもエストの目にはドゥーエがやせ我慢しているように映っていたが、そこはドゥーエの心遣いなのだとくみ取りあえて何も言わなかった。
「それで・・俺の話は信じてくれたの?」
「ああ。今の『捻じ曲げ』の反応が信じるに値する証拠だ。それにあんだけ『勇者アルスト』と『女神イヴァ』の物語に夢中になってたお前が『あれ』を壊そうと思うなんて、学園時代なら考えられなかった事だからな。」
「あははは!確かにそうだね。」
「建国記念祭に行きたい理由もそれのためか?前にイリーナと一緒に入ってその『録画』ってのが出来たんじゃ無かったのか?」
「うん。ある程度は出来たけど、短い時間じゃ回り切れなくて。(夜に城へ潜り込むなんて言えないよな・・。)」
「ああ。そうか。」
「うん。」
口の両端を上げ頷いたエストは心の中で(ごめん、ドゥーエ。後でちゃんと話すから。)と謝罪していた。
「それで実際どうだったんだ?勇者アルストは。」
「物語とは全く違かったよ。でも、アルストの話も『あれ』を破壊出来たらするよ。たぶん・・今話たらそれこそ大変な事になる気がする。」
「・・・確かに・・・。こうなってくると早く壊したくなるな。」
少し残念そうにしながらも、ドゥーエが茶目っ気たっぷりにそう口にすると一瞬呆気に取られたエストだったがすぐ破顔した。
「あははははははははは!そうだね。早く全部話したいよ。」
「ははは!それにしてもあれだな。『雷』と『風』って俺たちレアだな!」
「そうそう!言おう言おうと思ってたけど、やっぱりドゥーエが『第二の雷帝』だったんだね。」
「はは・・・。その呼び方は何かな・・・。」
「いや、かっこいいじゃん!」
「まぁ・・・な・・・そ、それよりも鍛えられたってどんな事やらされてたんだよ?お前めちゃくちゃ強くなってるだろ?」
若干照れたドゥーエが誤魔化すようにそう話すとエストはキョトンと目を丸くした。
「え?毎日じいちゃんと剣を交えていただけだけど・・・・そうかな?ドゥーエも強くなった感じがするけど・・・。」
「いや、お前ほどじゃないさ。」
そう言うと両手を上に向けたドゥーエは、ため息を吐いて被りを振った。
「な・・なんで?」
「久しぶりにお前と対面したときゾクッ!!とした。どう表現すればいいか分からないけど・・・プレッシャーというべきか??」
「そ、そうなんだ。」
「ちょっと手合わせしないか?」
「今から?ドゥーエ放電で疲れてるだろ?」
「怖いのか?」
ニヤッ!!!と笑みを浮かべエストを睨みつけたドゥーエだったが、エストは肩を落とすとドゥーエが当てて来た『気』をいなすように口を開いた。
「もう・・・そんな挑発には乗らないよ。」
「えーーーー・・・・つまんねーの。」
「後日ならいいよ。今日はもう遅いし。それに俺・・・。」
「この後何かあるのか?」
「腹減った。」
「・・・・・。そうだな。」
両手でお腹を擦っているエストを見るなり、自分の腹が『クゥ・・。』を音を上げた事に気が抜けたドゥーエはエストに視線を戻し頷いた。
「帰るか。」
「うん。」
「この事は秘密な?」
「そりゃ言えないよこんな話。」
「はは!そうだな!」
「エスト・・・改めて言うよ。」
「ん?」
「力を貸してくれ。」
「ああ。約束するよ。」
そう笑んだエストはドゥーエに小指を差し出した。
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