第36話 予定外

―イヴァリア歴16年5月20日 早朝―


「う!!!!」


顎に衝撃を受けて目を覚ましたエストは、顎の上に乗っている小さい手を握るとそっと自分の顔の脇に降ろした。


「ふぁあああ・・・まさか・・・連泊する事になるとは・・・・予定外だったなぁ。」


そう欠伸をして朝から苦笑いを浮かべたエストだったが、今日も隣で幸せそうな顔をして寝ているミナを見るとそっと頭を撫でて優しく微笑んだ。



―イヴァリア歴16年5月19日―



昨日、ミカの茶目っ気により村人から誤解??を受けたエストだったが、悔しそうな顔をしていたモリスがエストに掴みかかろうとするとカミラの一喝で静かになった。


「やめなさい!!!この村を救ってくれた人に何て事をしようとするんだい!!!!」


「村を???」


「そうだよ。あの4人をやっつけてくれたんだ。モリス!!あんたなんか簡単に捻り潰されるよ!!!」


「ひっ!?」


カミラの脅しに顔を青くしたモリスが後退ると土下座した。


「わぁ!!やめて下さい!捻り潰しませんから!!!」


床に額を付けたモリスに慌てたエストがモリスの体を起こした。


「カミラさん・・・やっつけたって・・・ホントですか??昨日今日アイツらがいないのはいつもの人狩りに出かけているだけじゃなくて???」


モリスの後ろに立っていた丸縁眼鏡を掛けた女性が怪訝気にカミラにそう問いかけた。


「違うよ?」


「やっつけたって・・・まだ生きてる可能性があるって事か??」


続けざまに髭の男性が問いかけるがエストがすぐさま回答した。


「いえ。それはないです。」


「でも・・・。」


「何だ。信じないのかい??」


「いえ!?信じたいです。だけど、この子、まだ成人してないんじゃ??」


「はい。17です。」


「17!?そんな・・・いくら強いと言っても、この子があの4人を倒したとは・・・。」


「エストお兄ちゃんは強いもん!!!!!ミナをあっという間に助けてくれたもん!!」


「え??」


「前に皆さんにお伝えした話の・・・私達親子が帰って来る時、盗賊から救ってくれたのが、このエスト君です。なので私達親子は2回、彼に助けられました。」


「それならオレを倒してみてくれよ!!」


比較的体格の良い男が自分に親指を向け鼻息を荒くして前に出て来た。


「えーー・・・・。」


早く『レインフォール』に向かいたかったエストが面倒くさそうにしていると、それを弱気に感じた体格の良い男が鼻で笑いエストを馬鹿にしてきた。


「ハッ!!やっぱり嘘なんだろ?アイツらに金掴ませて一時的に村から離れてもらったんじゃないのか??」


「話になりませんね・・・もう勝手に言っててください。」


嫌な予感は的中したと思ったエストは、話してても意味が無いと感じ村人たちの間を割って外に出た。


「やっぱりな!!!嘘つきは村から立ち去れ!!」


エストを追って出て来た男が声を荒げると、続いて出て来たミナが泣きながら反論した。


「お兄ちゃんは、嘘つきじゃないもん!!!」


「これ以上、エスト君を馬鹿にするのは許せないです。」


後ろからミナの両肩に手を乗せたミカが男を睨みつける。


「ミナ??ミカさん!?」


そこまで反論するとは思っていなかったエストは驚いて振り返ると、大柄の男の背後に隠れていたモリスが両手を広げて2人を説得しようとしていた。


「ミナちゃん、ミカさん!2人はアイツに騙されてるんだって!!目を覚ましてくれよ!」


モイルがそう言うと、大柄の男も同意して口を開くが絶叫したミナの声にかき消された。


「そうだ!!得体の知れない奴が「違うもぉおおおおおおおおおおおん!!!!!」


「ミナちゃん、冷静になってくれ!?」


「冷静になるのはそっちでしょ?これまで何もしないで家に隠れていた人たちがどうしてアイツらを倒してくれたエスト君を責めるのよ!!!」


「いや、逆らえば家族や村人を殺すって言われちゃ・・・何もなければ俺たちだって・・・あんな得体の知れない奴に!!」


「お兄ちゃんを悪く言わないで!!!うあああああああああああああああんん!!」


次の瞬間、ミナとミカの髪がフワッと浮いた。


ズン!!!!!!


「おごぉおおおお!!!!」


大柄の男がうめき声を上げると腹部をエストの拳がめり込んでいた。そしてくの字に曲がった大柄の男の体も宙に浮く。


「いい加減にしろ。お前らの虚勢のためにミナを泣かせるな。」


「へ?」


「は?」


「え!?!?」


ズドォン・・・と前のめりに倒れた男は泡を吹いて気絶した。


「つぇえ・・・・。」


「見えたか??」


「いや・・一切・・・・。」


何が起こったのか分からなかった村人たちは目が点になっていた。


「うえええええええええええええん!!!」


大声で泣いているミナの声に振り返ったエストは、すぐ様ミナをを抱き上げると、背中をポンポンと叩きながら泣きやむよう優しく宥め始めた。


「ミナ・・俺のために怒ってくれてありがとう。とっても嬉しかったよ。」


「ええええええええええん。」


それでも泣き止まないミナをキュッと抱き締めながらエストは目を瞑っていた。


「・・・疑ってすいませんでした。」


最初に疑念を呈した丸縁眼鏡の女性が頭を下げると、周囲にいた村人たちは続いて土下座をし出した。


「俺の事を疑うのは当たり前だと思います・・・だけど、カミラさんや、ミカさん、ミナの訴えにもう少し耳を傾けても良かったんじゃないですか???」


「う・・・。」


「それは私のせいだ。」


「お・・・長・・・・。」


女性の後方から大柄の男が老けたらこうなるだろう・・・という倒れている男の父親と思われる男性が現れた。


「もうすぐ真かどうか分かると言うのに・・・息子やモリスを止められなかった私のせいだ。そして、トトの口車に乗り村人たちを疑心暗鬼にさせてしまったのも・・・・私のせいだ。すまなかった。」


「・・・・。」


その後俯いて長と呼ばれた男が押し黙ると、村人たちも何も言えず立ち尽くしてしまった。しかし、村の入り口から手を上げながら向かってくる男がしばしの沈黙を破った。


「おーーーーーーい!!!」


「あ!?朝からいないと思ったら。」


身軽そうな男が長の前に到着すると、長が到着した男の肩を掴み揺さぶった。


「どうだった?」


「ちょ・・た、確かに4人とも死んでいました。」


「そ、そうか!!」


「でも、不思議なのは4人とも死後魔物に食われた形跡がありませんでしたね。」


「ああ。4人ともチシダケの毒を持ち歩いていましたから、その匂いで近づかないんだと思いま・・・す・・・・。」


つい口を挟んでしまったエストは、『しまった!?』という顔をしていた。


「なるほど!!!」


エストの言葉に納得した身軽そうな男が大きく頷くと、長が声を高らかに宣言した。


「これでこの若者がこの村の救い主だという事が判明した!!!私やお前たちがこの若者にしたことは恥ずべきことだ!!!」


「・・・・。」


「・・・・・。」


「・・・・・・。」


「え??何があったの??」


全員俯いて言葉を発し無い村人たちに4人の死体を見て来た男がキョトンとしていると、長が前に出て両ひざを地面に付けるとその額も地面に押し付けた。


「本当にありがとう。そして、村の者達が迷惑を掛けた・・・・心より謝罪する。それでも怒りを収めれないときは、この私の命で勘弁してくれませんか・・・。」


「長!!」


「悪いのは僕です・・・僕の命で・・・うぅ。」


今度は泣き崩れたモリスがエストの前で土下座をする。


「いえ、俺も感情的になりすぎましたし、やり過ぎました。俺こそ謝罪します。」


長とモリスに視線を向けたエストは(また土下座かぁ・・・・(-_-;))と思いながらも頭に血が上った事を反省して彼らに頭を下げた。


「すまない・・・ありがとう・・・。」


長が顔を上げてエストの言葉に感謝した。


「いえ。成り行きでしたし。それにもうこのままここを立ち去りますので。」


長老にそう言って立ち去ろうと振り返ると、先程までエストの肩に顔を埋めてヒックヒック言っていたミナが泣きつかれて眠っていた。


「あら??エスト君。」


「すぅ・・・・すぅ・・・・・。」



大男の前に立ちはだかり叫び声を上げたのだから、相当エネルギーを消耗したのだろう・・・そう思いながら寝ているミナの頭を撫でるとを首を傾げながらそんな天使を指差してミカがこう話した。


「あんなに必死にエスト君を擁護したミナが寝ている間に、『この村を立ち去ろう。」なんて事は考えてないわよね??このままエスト君がいなくなって、ミナにまた悲しい思いをさせたり・・・なーんて事は無いわよね????」


「ははは!!!まさかね!!心優しい若者がそんな事をする訳ないだろう。」


ニヤッと笑って、いたずらな笑顔を浮かべているミカの肩に手を置いたカミラが首を左右に振りながらミカの話に便乗した。


「ミ・・・ミカさん・・・・。カミラさんまで・・・・はぁ。」


してやったり!という顔をしているミカに項垂れたエストは、胸元で寝息を立てている天使にまた悲しい思いをさせることが出来なかったのだった→連泊決定。


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村人とのやり取りで一話かかるとは・・・予定外でした(;・∀・)

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