第24話 イリーナとの再会②
「よし!次!!」
前の馬車が進むと、門兵の手招きに合わせて御者が馬車を進めると、クレイグは窓を開けて顔を出した。
「いつもご苦労さまです。」
「ああ!ウエステッドさんか。ん??見慣れないのがいるな?新入りかい?」
イリーナの隣に座るエストに気づいた門兵だったが、クレイグを信頼しているのか怪しむ様子は一切見せなった。
「そうなんです。新米の付き人ですよ。なかなか見所があるので経験を積ませるため連れて来だんです。」
クレイグがそう笑顔で応えると、ほぉっ!と目を見張った。
「そうでしたか!?ウエステッドさんに目をつけられるなんて幸運なヤツですな。」
そう言ってチラッとエストに視線を向けた門兵と目が合ったエストは会釈した。
「そう言えば、先日買わせて貰った腕時計、最高だよ!ほら!!」
小洒落たスクエアタイプのねじ式の腕時計を着けた左腕を、クレイグに差し出すとニッと笑った。
「おお!!ありがとうございます!今回は新作の香水を持ってきたのですが、発売されましたら奥様にいかがですか?きっと喜ばれますよ?」
「ははは!敵わないな。また、安くしてくれるなら考えようかな。」
「ええ!是非に。でも、皆さんには内緒ですよ。」
「分かってるよ。」
クレイグが口の前で人差し指を立てると、門兵は目配せをして数度頷いた。
「積み荷、問題ありません!!!」
若い門兵が馬車の後方から声を上げると、「では、また!」とクレイグに小声で話しかけると右手を大きく上げた。
「よし!!!!通せ!!!!」
車輪がガラガラと音を立てながら石畳を動き出すと、クレイグが窓を閉めるなりにイリーナが面白くなさそうな顔をしていた。
「お父様、それは賄賂のような行為ですよ!!私はそういうのは好きじゃありません。」
「ん??相変わらず硬いねー。それじゃ良い商人にはなれないぞ。」
普段、可愛い愛娘に頭が上がらないクレイグなのだが、商売の事となると意見を譲らないところがあった。
むーーーー!!っとそのまま口をへの字にして腕を組んだイリーナだったが、クレイグは口の端を上げてニマッと笑顔を浮かべていた。
エストは初めて見るクレイグの不敵な笑みに驚きを隠さなかった。(こんな顔もするんだ・・・。)と口を半開きにしてボーっとクレイグを見ていたエストだったが、奥行きのある城壁を下をくぐり抜けると鮮やかな街の景色が目に飛び込んで来た。
「これが・・・イヴァリア・・・。」
「ああ。これがイヴァリアだよ。アリエナとは違うだろ?」
「はい。なんと言うか・・・チカチカしてますね。」
通路の両側に立ち並ぶ絢爛豪華の建物が日の光に輝いていた。その反射した光に目をパチパチと瞬きさせながらそう感想を口にした。
「はははは!!チカチカか。面白い表現をするね、エスト君は。」
何度もイヴァリアに足を運んでいたクレイグにとって、エストの新鮮なその表現がツボに入ったらしくクックッと腹を抱えて笑っている。
その様子に口の端を上げて微笑んだエストは、スッと窓の外に目を向けてイヴァリアの街並みを眺めていた。
そんなエストを見て、城門を抜けた途端に「うぉおおおおお!!!イヴァリアだ!!!」とかの大きなリアクションを取るだろうと予想していたイリーナだったが、あまりにも静かに座っているエストに少し驚いていた。
「意外ね。」
「ん?」
「もっとはしゃぐかと思っていたのに。ずいぶん落ち着いたのね。」
「あ、ああ!そう言われればそうだね。」
「プッ!何よそれ。」
自分の事なのに「そう言われれば」と言うエストに吹き出してしまったイリーナだったが、(こういう所は変わっていないのね。)と少し安堵したのだった。
もし、エストが『
「さて、エスト君。我々はこれから商談場所へ向かうが、君はイヴァリアを見て回るかい?」
「はい。ちょっと行きたいところがありまして・・・。」
「そうかい。じゃあ、ここで一旦分かれて、4時間後にまた城門前で待ち合わせにしようか?」
「ありがとうございます。それで大丈夫です!」
「な・・・何が大丈夫なのよ!!」
普通に待ち合わせをする2人にイリーナがムキになって会話に割って入って来た。
「私もここでおりる!」
「え?」
「『え??』じゃないのよ。軽く案内して商談の場所に向かうから!!」
呆けたクレイグにイリーナがさらに噛みついく。
「はぁ・・・分かった、分かった。止めてくれ!!」
ため息を吐いたクレイグが御者にそう声を上げると、頷いた御者が馬車をゆっくりと止めた。
「大丈夫だと思うんだけどなぁ・・・。」
「いいから!!!!!!!」
「あ・・・はい。」
エストがそう呟くも、ギン!!!!と睨みつけるイリーナにエストは両手を上げて堪らず同意するのだった
****
イヴァリアの街を案内してくれたイリーナに連れられて中央公園に来たエストは、流石に『タクミ・イノウエ』の像を目にしたときは感嘆の声を上げた。
「うあああ!!!勇者タクミの像だ!!!!!本の挿絵の通りだ・・・すげぇ。」
そう言ってポカンと口を大きく開けたエストを見て、嬉しそうな顔をしたイリーナは(そうそう!!これがエストよね。)と思っていた。
「そこに座ってて。今とっても美味しい飲み物買ってきて上げるから!!」
「あ!!お金!!!!」
「いいから、いいから!!」
微笑んだイリーナがベンチを指差すと、人が行列を作っている店に向かって駆け出すが、エストが自分が払うと言ってポケットに手を入れるも『いらない』というジェスチャーをしてそのまま走っていった。
取り残されたエストは、そのままイリーナが指差したベンチに腰を下ろした。
空を一度眺めると、ブシュアアアア!!という音と共に舞い上がった噴水に目を向け、その周辺で楽しそうな声を上げ走り回っている子供達を目にすると思わずフッと微笑んだ。
その後ベンチの背もたれに体を預けたエストは、魔物に襲われる事を警戒する必要がないこの時間を堪能していた。
しばらくそのまま何も起こらない時間を楽しんでいたエストの目の前の紙コップが差し出された。
「はい!!」
「あ!!ありがとう。」
戻って来たイリーナが差し出したコップを手にすると、エストの鼻に甘く香ばしい匂いが漂ってきた。
「これは??」
「カリンのお気に入りだよ♥じゃあ、私行くから。」
「うん。ありがとう。待ち合わせの時間にはちゃんと城門にいるから。」
「そうして。じゃあ、楽しんでね。」
「うん。」
手を上げて走り去っていくイリーナを見送りながら、イリーナがくれたカリンの好きな飲み物に口をつけたエストは
「甘っっっっ!!!!!!!!!!」
じんわりと甘さが舌に纏わりついて来るカプチーノのその甘さに驚いた。
「ははは!!確かにカリンが好きそうだ。」
紙コップを見つめて微笑んだエストは、チビチビと口につけながらスキル『
スキル『
『
と
『
が使用可能となりました。
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