第12話 歴史の嘘②
―王国歴が始まる3年前-
「頼む・・頼む・・頼む・・頼む・・。」
フレドは想いを口にこぼしながら小高い山から駆け下りていた。
山麓に下りると、前方に2mほどの石垣に囲まれている人族の集落地の入り口が目に入った。
「はぁ・・はぁ・・・はぁ・・・。」
集落に駆けつけたフレドは両膝に手を乗せ息を切らすが、顔を上げると入り口付近にいる2名の若者に声をかけた。
「こんにちは。俺はフレドと言います。」
一生懸命、集落の中心地に目を向けていた若者がフレドの方に振り返ると目を大きく開いてフレドの額に指先を向けた。
「ん??あ!?!?」
「おい!!あれ・・・角だろ??イヴァ様が言っていた魔族じゃないのか?」
「ああ!そうだ!!こいつが魔族だ!!」
「違う!!俺は魔族という種族じゃない!!俺は・・・くそ!?ここもか。」
フレドの角に気づいた若者たちが「魔族だ!魔族だ!」と騒ぎ立てるのに対し、イヴァに先を越されていた事を知ったフレドは悔しそうに歯を食いしばったその時・・・
「「「「おおおおおお!!!」」」」
と、突如、石垣の奥から人々のどよめく声が聞こえてきた。
「おい!!武器を持ってこい。」
「あ!?くそ!!!追うぞ!!」
中にいる人々のどよめく声に居ても立っても居られなくなったフレドは、2人の間をすり抜け集落の中に入っていった。
声が聞こえる方に夢中で走っていくと、集落地の中央に人だかりを見つけた。フレドはそこに割って入り、人だかりを掻き分けながら無理矢理中に入っていった。
「おい!」
「なによ、強引に・・。」
「誰だ!?こいつ!!!」
『あらぁ??あなたもいらしたのぉ??呼んでないわよぉ?』
「くそ!!」
人だかりの中心にいたのは、あの両手を広げたポーズを取ったイヴァだった。
人々を掻き分けて中に入って来たフレドに気づいたイヴァは、ニィッと微笑みながらシッシと手で追い払うような仕草を取った。
「逃げろーーー!!!そいつは魔族だぁあああ!!」
入り口から必死の形相でフレドを追いかけて来た若者が人だかりに向かって大声を上げた。
「え??」
「魔族じゃ!!角じゃ!!」
「きゃーーーーーーー!!!!!」
フレドの角に気づいた人々は、突如自分たちのど真ん中に現れた魔族に恐怖し、叫び声を上げ、混乱し、錯乱した。
散り散りに逃げ惑う人々の中、フレドはイヴァに向かって両手を突き出した。
『獄炎』
フレドがそう唱えると掌から炎が噴き出しイヴァに襲いかかる。
が・・・
ボォオオオオオオオオン!!!!!!
フレドが放った荒ぶる炎は・・・・イヴァの後方に建っていた茅葺の住居を焼き尽くした。
『まぁ・・・なんて酷い事を。』
両手を口に当て驚いた顔を作るイヴァに対し、渾身の一撃もすり抜けてしまったフレドは悲壮な表情を浮かべた。
「ま・・魔法も効かないのか・・・。」
「きゃーーー!!」
「誰か!!水魔法を使える者を集めてくれ!!」
「くそ!!!魔族め!!!!」
燃え盛る建物に人族たちが悲鳴を上げると、石槍を手にした若者がフレドを串刺しにしようと襲いかかった。
「くっ!?」
体を翻し石槍を躱したフレドは、若者から距離を取ろうとするもそれぞれに武器を持った集落の男衆に囲まれてしまう。
「頼む!!話を聞いてくれ!!!」
「家を燃やしておいて何を言う!」
『皆さん・・御覧になりましたでしょう??ワタシを殺そうとしました・・・それに村に火を放ち・・・・・これが魔族の所業ですわぁ。』
「イヴァ様しかと見ました!!」
「これ以上イヴァ様に手を上げさせるな!!!」
「絶対逃がすなよ!」
「ぶっ殺してやる!!」
フレドの前に立ちはだかった人族たちの目は殺気に溢れていた。
「うああああああ!!!」
その中の一人が声を上げ、尖った石を木の棒に括りつけた石斧を掲げてフレドに襲いかかる。
ドカッ!!
「うっ!?」
振り下ろされた石斧を躱したフレドは、咄嗟に男の腹部に膝蹴りをくらわせた。
「すまない!!やめろ!!!俺はあんた達と戦いたくない。」
「大丈夫か???みんな!!一斉にかかるんだ!」
「「「おお!」」」
人族に向かって掌を振り、戦う意志の無い事を示そうとしたフレドだったが、住処を燃やされ仲間を傷つけられた人族たちが聞く耳を持つはずが無かった。
「くそ!!!!」
ボアアアアアア!!
フレド人族に向けていた掌から炎を出すと一回転して自分の周囲に炎の防壁を作り上げる。
「わああああ!」
「な・・・何という激しい炎じゃ・・・。」
薪に火をつける程度の魔法しか使えない人族たちは、目の前で勢いよく立ち上がる炎に・・・フレドの魔法の威力に恐れおののいた。
「くそぉおお!!!熱くて近づけないぞ!!」
「いや、動けないのはあいつも一緒だ。こいつをくらえ!!!」
弓を持った人族の男が炎に向かって石矢を放った。
「!?ぐ!!!」
勢いよく炎を突き抜けた石矢がフレドの左肩に当たってしまい、痛みでガクッと左腕を下ろすと、炎の壁が左側だけ消えてしまった。
「よし!!炎が消えたぞ!」
「行くぞ!」
「おおお!!!」
矢が刺さったフレドを目にした人族たちは、チャンスと見て威勢よくフレドに襲い掛かろうとする。
「フレドォオオオオオオオ!!!!」
「な、何だ!?」
後方から聞こえた大声に驚いた人族たちが振り返ると、大柄な男が跳躍し頭上を飛び越えた。
ダン!!!!!
フレドの前に着地し、背中に担いだ大きな斧を手に持った男はドイルだった。
「おい・・・やられてるじゃねぇか。戦えるんじゃなかったのか??」
「うるさいっ・・。」
膝をついているフレドを片眉を上げて見下ろしたドイルは、呆れたようにそう声をかけた。
『まぁ!!皆さん魔族が増えました。気を付けてください。』
驚きの声を上げたイヴァは、フワリと人族たちの前に出ると両手を広げて守るような姿勢を取る。しかし、安っぽい演技だと思ったフレドはその姿に嫌悪し舌打ちをした。
「あいつがイヴァって女か?」
「ああ。」
「で、なんか試してみたのか?」
「魔法は効かなかった。」
「スキルは?」
「まだ試してない。と言うよりも俺の『
「そうだったな。」
状況をフレドから聞き取り、鼻で笑ったドイルは戦斧の長い柄腹を首の後ろに回して振り返ると、先程のフレドと同じように掌をイヴァに向けて
「あの女を対象に重力負荷を2倍にする。」
と唱えてスキルを発動するがイヴァは何も感じていないようだった。
『あらぁ???何かしたのかしらぁ??」
両手を天に向けたイヴァは楽しそうに笑顔を見せた。
「チッ!!!スキルも通用しないのか。」
その様子を見てドイルは舌打ちした。
「こりゃ作戦変更だな・・・逃げるぞ?フレド。」
「ああ・・・。」
ニヤニヤしているイヴァを目にしたドイルはフレドを肩に抱きかかえてそう話しかけると、同じくイヴァを見ていたフレドはドイルの意志に従うしかなかった。
「あ!!逃げるぞ!!!!」
「逃がすな!!!!!」
『皆様。良いのです。』
外堀に向けて走り出したドイルを追いかけようとした人族を両手を広げて止めたイヴァは、逃げたフレド達に内心ホッとしていた。
そして「この人間たちは何て弱いのかしら。」と1人の魔族も多数で倒せない人族たちの弱さに愕然とするのだった。
この場を去ることに集中していたドイルとその肩に担がれたフレドは、イヴァのその様子に気づくことなく防壁を飛び越え南の砦に向かって敗走するのだった。
ビシ!?!?
ガシャガシャッッッ!!!!!!
フレド達が集落を立ち去ったその瞬間、空間にひびが入り映像が崩れ落ちると、集落跡地に立ち尽くしていたエストは、またしても史実と言われていた物語や史書の嘘に打ちひしがれるのだった。
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