第4話 成長する3人

―イヴァリア歴16年4月8日―


エストがコンクルー草原を去った3日後、クリミナとカリン、リンナの3人は草原に出現した魔物を討伐するため出門していた。


この日、魔物の森から姿を現したのは、いつも通り魔狼ではあったがいつもより数は多く12匹だった。


「グルルル・・・。」


カリン達に気づいた魔狼達は喉を鳴らし威嚇を始めるも、ホロネルの戦いを経てきた3人は談笑しながら魔狼に向かい歩いていた。


「カリン。修練の成果を見せてくれるのよね?」


「はい。」


クリミナがカリンにそう問いかけると、カリンは緊張気味に頷いてリンナに目を向けた。


「・・・・。」


目を向けるも何も言わないリンナに、カリンがジト目にして睨み始めるとグーにした両手を下に振り落としながらリンナが声を上げた。


「その目は何よ!?」


「何か言ってくださいよ!」


「はいはい。がんばれー。」


「もう!!」


「あははは!」


気持ちの入っていないリンナの声援に、頬を膨らませた不満をあらわにしたカリンを見てクリミナが笑っていた。


「行きます!」


渋々カリンが剣を抜くと、体の周囲に水の渦が発生しツインテールが宙を舞うと切っ先を魔狼に向けた。


貫通perforate


「ガ???」


一瞬で眉間を貫かれた魔狼は、目をグるんと白くするとバタリと横に倒れた。


「凄い!」


「まぁまぁね。次はをやってみて。」


「はい!」


「あれ??」


カリンの一撃に感嘆したクリミナだったが、カリンは頷くと剣を斜めに振り下ろした。


「「「ガァアアアアアア!!!!」」」


ザパッ!!!という音と共に舞い上がったツインテールの背後から水が立ち上がると、3匹の魔狼が飛び上がって襲い掛かってくるのを目視したカリンは、魔狼達に向かって再度切っ先を向けた。


連射rapid-fire


立ち上がった水の壁から、いくつもの『貫通perforate』が連射されると飛び上がった魔狼達の体を貫いた。


「ギャ!!」


「ギィイイイイイ!!!」


「キャウウウウウウ!?」


悲鳴を上げドタドタッと地面に落ちた魔狼達は痙攣したまま動かない。


「何??今の!?!?!?凄い魔法ね!!」


「魔力量が多いカリンならではです。」


「ありがとうございます。でも、まだまだ魔法操作はリンナさんには敵いません。」


クリミナが目を丸くして驚きの声を上げると、何故かリンナがドヤ顔を見せ、カリンが頭を下げていた。


「フフフ。まるで先生と生徒のようね。」


「な!?」


口に甲を当てウフフと笑うクリミナに顔を赤くしたリンナをカリンがチラッチラッと横目に見ながらニマニマしていた。


「「「グルルルルルルル!!!!」」」


「よし!!では残りの討伐に行くわよ!」


「「はい!!」」


威嚇している魔狼達に目を向けたクリミナが剣を抜いて声を上げると、3人は魔狼達に向かって駆け出した。



****


「ふっ!!!!」


マリウスが木剣で横薙ぎに来たが、ドゥーエは低くしてそれを躱した。


「おおおおお!!」


しかし、両手持ちに切り替えたマリウスが素早く剣を振り下ろす。


ガン!!!!


木剣の根本でそれを受けたドゥーエは、木剣と体を斜めに動かしマリウスの剣をそのまま受け流すと、体を回転させマリウスの背中を蹴り飛ばした。


「う!!」


「おお!」


「なんと邪道な!」


「やるなぁ!!」


アリエナ軍部の訓練場で模擬戦を行っている2人を見物していた騎士達が好き勝手に盛り上がっていた。


「お前・・どんどん手癖足癖が悪くなるな・・。」


「剣のみではまだ勝てませんので。」


髪を軽く手で整えながら、体勢を整えたマリウスが型眉を上げ少しイラっとした表情でドゥーエに視線を向けるが、『今のタイミングで電撃を浴びせていれば勝負としては勝ってたな。』と思ったドゥーエはそう言ってニッと笑った。


週に数回、バガンとセスの2人を同時に相手するようになっていたドゥーエが成長していたものは、動体視力と防御力(捌く・躱す・いなす等)だった。手練れ2人の息の合った攻撃を凌ぐのも大変な中で反撃するのは至難の業だったが、ようやく最近になって一戦で数回は反撃出来るようになっていた。


「悪い子にはお仕置きだ!!」


「そう簡単にはやられません!!!」


フッと笑って剣を構え突っ込んでくるマリウスにドゥーエは真っ向勝負に打って出た。


・・


1時間後・・・草の上で大の字になって倒れていたのはドゥーエだった。


「だいぶ腕を上げたな。」


爽やかな笑顔で覗き込んできたマリウスが手を差し伸べて来た。


「はぁ・・はぁ・・・いえ、まだまだ未熟だと分かりました。」


息を切らしながらマリウスの手を掴んで立ち上がったドゥーエは、騎士隊長に打ち負かされたものの清々しい顔をしていた。


****


-イヴァリア歴16年4月15日-


「むぅー・・・。」


地図を広げたエストは、眉をひそめて頭を掻いていた。


「おかしいな。この辺りに集落跡地があるはずなんだけど・・・。」


イヴァがこの世界に初めて出現した集落から、北東の方向に逃げたフレドの足取りを追っていたエストだったが、約250年前に起きた大きな土石流によって埋まってしまった山の麓にあったはずの農村集落の形跡を見つける事が出来なかった。



「うーん・・・先にこっちに行ってみるか。」


地図には、かつてあったはずの集落のさらに北東にある魔物の森の中にひとつの赤丸が一つ記されていた。


魔物の森に入ったエストを出迎えてくれたのは真っ黒な塊だった。


ブブブブブブブブブブブブブ!!

ブブブブブブブブブブブブブ!!

ブブブブブブブブブブブブブ!!

ブブブブブブブブブブブブブ!!


「え!?あれ蜂の巣なのか??」


群れの大きな羽音を耳にしたエストの背筋にぞわぞわと寒気が走った。


10歳の頃アリエナの森で遊んでいたエストは、ぷっくりとしたお尻に黄色と黒の模様が交互に入っている足長の蜂に刺されてギャン泣きした経験があった。


「・・あれは・・痛かったな・・・。」


当時を思い出して苦笑いを浮かべたエストは、正面にいる真っ黒なフォルムのアリエナで刺された足長より二回りは大きい蜂の群れから距離をとるべくゆっくり後ずさりをした。


このまま何事もなくやり過ごそうとしたエストだったが、群れの一匹がエストの存在に気づいた。


「ギ?」


「は?喋るの!?気持ちわる!?!?!?」


うぞぞぞぞぞぞ!!とさらに背筋が寒くなったエストと目が合った蜂は、目を真っ赤に染めると真っ黒なお尻から太く鋭い針をヌルッと出した。しかもその針にはご丁寧に返しのように逆立った棘が付いている。


「あんなのに刺されたら一溜りもないや・・・。」


ブブブブブブブブブブブ!!!!!


エストは剣を抜くと、真直ぐ襲い掛かって来たその一匹を叩き潰した。


パァン!!!!!!!!!


「ギ!?」


「ギギャ!!!」


それに気づいた仲間たちが、針を剥き出しにして一斉に襲い掛かる。


ブブブブブブブブブブブブブ!!

ブブブブブブブブブブブブブ!!

ブブブブブブブブブブブブブ!!

ブブブブブブブブブブブブブ!!


「わぁ!?こんなの付き合ってられないよ!スアニャ!!!あれやるよ!!」


「うん!!!」


風斬旋風スラッシュネード


ブワッとエストを中心に足下から竜巻が立ち昇ると、それにぶつかった蜂たちは細切れにされていった。さらにエストが蜂の巣に向かって歩き始めると、周囲の枝葉も斬り裂きながら蜂たちを一網打尽にしていくのだった。



そして、森の中に新しい一本道が出来上がり、羽音が消え去るとそれを見ていた魔狼たちはブルブル震えながら森の奥に逃げ去っていった。


「ふぅーー。ありがと、スアニャ。」


「うん。お疲れ様!」


その様子を見ていたエストは、ホッとした表情で大きく息を吐くとスアニャに礼を言って先に進んだ。


・・・


「エストにも苦手なものがあるんだねー。クスクス。」

「ミプ♬」


エストのこころの中にいるスアニャとミルプは、蜂と相対した時のエストの焦りや緊張感、退治した後の安堵感を直に感じて、またエストの違う一面を見れた事に喜びを感じていたのだった。


____________________


年越す迄にあと2話は更新したい・・・(›´꒫`‹ )





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