第18話 イリーナの妹
※後半ほのぼのです_(._.)_
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リュナが自分の正体を告白したその日の夕食後、いつも通りの様子のエストにリュナは少し不安を抱いていた。
「ねぇ・・・エスト。」
「んー?」
「もしかしたら・・もうあたしが角有りだって事受け入れてるの?」
「受け入れるも何も、母さんは母さんかなぁって思って・・ま、いっか!って思っちゃった。」
「(この子本当に正人と同じこと言うわね。)でも・・・あなたにもその血が半分流れてるのよ?」
「うん。でも、俺は俺だから別に気にしてないけど?」
「そ、そうね。でも、エストがそう思っても、そう思わない人達もいるのよ?あなたにその血が半分入ってるって知った人たちが・・・。」
「分かってるよ。誰にも話すつもりはないし・・それに自分の望むように相手が思ってくれるかは分からないんでしょ?母さんの教えの一つじゃん。」
「そうだけど・・・実際それは簡単に割り切れるものじゃないのよ?」
「それも分かるよ。」
「どうして?」
「ミークが色々教えてくれた。」
「ああ・・・なるほどねぇ。」
ずっと真顔で話していたリュナだったが、ここでようやく肩の力を抜いた。
ミークとは、エストが住む農産北東地区を取り仕切る長の息子だった。エストより2つ年上だった彼は、エストを何かと目の敵にしていた。理由は単純でカリンの事が好きだったミークが、幼い頃にカリンに告白した際「わたしはエストと結婚するのー!」とあっさり断られてしまったからだった。
エストとしては、ミークとも仲良くなりたかったようだが、何をやっても何も言っても「あっちに行け!!」「馴れ馴れしく近づくな!!」とエストを仲間外れにするのだった。故にエストはカリンと2人で遊ぶ事が多かった。その後ドゥーエやイリーナ、クリードと出会えたのは彼にとって救いだった。
しかしミークは、その後も農業の手伝いを始めたエストを見掛ける度に「騎士になれなかったんだってな!ざまぁ!!」「動きの鈍いウスノロが!!」「足手まといだ!」と馬鹿にしてくる始末だった。とは言え、重力負荷をかけたまま農作業をしていので実際に動きは鈍かった。その事は否めないものの、再度歩み寄ろうとしたエストだったが、彼のエスト嫌いはかなりのもので取り付く島もなかった。
なかなかに嫌な思いをしたエストは、彼と話すことを諦め、最終的にミークを存在しないものとして割り切ったのだった。
余談だが、去年自分を無視するようになったエストの態度に苛立ったミークが、難癖を付けて殴りかかってきた事があった。しかし秒で返り討ちにされたミークは、それ以来エストに近づく事は無かった。
「あの子はバカだからなぁ。」
頭にミークの顔を思い浮かべたのか、リュナは少し顔を上げながら残念そうなものを見る目をしていた。
「まぁ・・こういう人もいるんだなって勉強にはなったよ。」
「そうね。ミーク相手にそう言えるなら大したものよ。安心したわ、あんたも成長したのねぇ。」
苦笑いを浮かべながら、年の割には少し達観した事を言う息子の頭をリュナは目を細めながら久しぶりに撫でた。
「え??ちょっと・・・・わっ!何!?」
撫でられた事にびっくりしたエストがリュナの手から逃れようとすると、突然リュナに頭を抱き寄せられてしまい、さらに動揺した。
「エスト・・・城壁の中は比較的治安を守られてるけど、外に出ると本当に色んな人がいるわ。」
「うん。」
「西方に出たっていう蛮族もそうだけど、この周辺にも盗賊がいたり、他の町や都市の中にだってガラの悪いのがいっぱいいる・・・。」
「うん。メリル先生にも教わって聞いてたよ。それにアリエナ内でも色んな人がいて揉め事が絶えないって・・・特に南の・・「え!?そんな事まで教わったの!?」
エストの発言に驚いたリュナは、自分の胸からエストの顔を離すと顔を覗き込んだ。
エストの言った「南」とはアリエナ南部にある飲み屋街、娼婦街があるエリアの事だった。毎晩、商業区からも人が集まるこの地域には、南にある鉱山から資源を運んでくる鉱夫もたくさん来ていた。そのため毎晩繁盛しているものの、日頃の鬱憤を晴らしに来る者も多くいるため、揉め事が絶えず、アリエナでは一番荒んでいた場所だった。
「先生的には近づくなって意味っぽかったけどね。」
「そう・・・やるわね。」
「何が???」
目をギラつかせたリュナを不思議そうにエストは眺めていた。
その後、リュナからそういう輩の扱い方を一通り教わったエストだったが・・・・その内容にかなり引いていた。
****
次の日、リュナとエストは支度のため商業区に足を運んでいた。今はエストがクリードに旅に出る事を伝えに行っているため、リュナは一人で商店街を歩いていた。
「あれ??おばさん!?」
「お!イリーナちゃん久しぶりね!!とっても綺麗になってーー。」
「いえ、そ、そんな!」
偶然出会ったイリーナに声を掛けられたリュナは、久しぶりに会ったイリーナの成長した姿に目を細めていた。密かに憧れていたリュナに褒められたイリーナは、顔を赤くしながら鼻の前で手を小刻みに横に振っていた。
イリーナは学園時代の髪型は、前髪を眉毛あたりで揃えたポニーテールだった。今も後ろはポニーテールにしているものの、前髪の右半分を少し長めに流し、左半分は後ろにまとめていた。薄らと化粧を施し、少し控えめな装飾をあしらえたブラウスにリボンネクタイをしているイリーナは、同年代の子達より大人の雰囲気を醸し出していた。
「だれ??」
ぴょこっとイリーナの後ろから顔を出したのは、ボブカットのちっちゃいイリーナだった。イリーナと同じような格好をしている。
「あれ?この子ってもしかすると?」
「あ・・はい。妹のアルマです。ほら、アルマ。エストのお母様よ、挨拶して。」
「エストの??うん!」
エストの名前を聞くなり、目をキラキラさせた女の子がイリーナの前に出てペコっと頭を下げた。
「アルマ・ウエステッドです。5歳です。」
「あらら!しっかりしてるわねー。はい。リュナ・オルネーゼです。エストの母親よ。」
リュナがアルマの視線に合わせて屈みこみ、アルマの頭を優しく撫でると「えへへ♪」と頬に両手を当てて恥ずかしそうにはにかんだ。
「お姉ちゃんとお揃いでいいね~♪」
「うん!お姉ちゃん大好き!!」
「いいね~!」
「エストも大好き!!!!!」
「あらあら!!!嬉しいわね!!!ドゥーエくんは???」
「ドゥーエきらーい。」
「ぶふっ」
イリーナが動揺した。
「え??どうして???」
「あ、アルマ・・だめ・・」
「ドゥーエ、お姉ちゃんのことばっかりかまうんだもん!!!ふがっ」
「あはははははははははははははは!!!」
イリーナが慌ててアルマの口を塞いだが、既に遅し、理由を聞いたリュナは大爆笑していた。
「と、ところでエストは?農作業中ですか?」
真っ赤な顔したイリーナは、強引に話題を逸らすしかなかった。
「ふふふ。ううん、今はクリード君の所に挨拶に行ってるわよ。」
「挨拶??」
「うん。あの子をちょっと旅に出すの。」
「え!?!?」
イリーナとリュナの会話に戸惑ったアルマは、イリーナのスカートを掴んで2人の様子を見ていた。
「アリエナだけじゃなく、世界を見た方がいいかと思ってね。まずはグラティアに居る親戚の所に預けるわ。」
「そ・・そうなんですか??」
「うん。この後イリーナちゃんの所にも行く予定だったから会えて丁度良かったわ。黙っていくのも何だからって・・・あの子って律儀よね?・・・誰に似たのかしら???ん???おかしいわね・・・・。」
「あはははは。」
イリーナは本気で考え始めたリュナの姿が可笑しくて笑ってしまったが、今アリエナにはドゥーエがいない事を思い出しリュナにその事を告げた。
「あ!でも今ドゥーエはアリエナにいないですよ?」
「ああ!それも知っているみたいよ。西門に向かうドゥーエ君とアイコンタクトしたらしいから。それに何も言わなくても『ドゥーエは分かってくれるから。』って生意気に言ってたわ。」
「何ですか?それ??」
「男のなんたらかんたら言ってたわ。」
「え?じゃあクリードは??」
「全然タイプが違うじゃないの。ドゥーエ君とクリード君を一緒にしちゃダメよ。」
「ふふっ!!!そうですね。」
ケラケラ悪気なくそう語るリュナに釣られてイリーナも笑てしまった・・・が、笑顔が徐々に曇り顔に変わっていく。
「・・・・寂しくなりますね・・・。」
「そうね。あたしも寂しいわ、、、でも、あの子には絶対必要な事なの。」
「はい。」
真顔で話すリュナを見て、イリーナも真顔で頷き返した。アルマだけが「何の話~??」とキョトンとした顔をしている。
「それにしても遅いわね。もう来ても・・・・って来た来た。」
イリーナの後方からエストが走ってきた。
「ごめん。クリードに卒業式以来の大泣きされちゃって。」
「あははは!あの子らしいわね。だらか黙って行けば良かったのに。」
「それこそ大事だよ。知らないだろうけど、あいつ怒ると恐いんだよ。って!!わっ!!!」
エストがリュナに説明していると、勢いよくアルマに抱き着かれた。
「おお!アルマーーー♪」
「エストォォォォォ♥♥♥」
アルマをキャッチしたエストは、そのままその場でクルクル回りだした。イリーナがきゃっきゃうふふ♪している2人の様子を見ながら額に手を当てた。
「どうしたの?イリーナちゃん。」
「リュナさん・・・あなたの息子は商会で『幼女
「は?」
「え?『きらー』???アルマも知ってるよ。あのね、あのね、ミュイちゃんのお母さんがエストのこと『としうえきらー』って言ってたよ??」
「「「は??」」」
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