アケビの花言葉は「才能」8

「秋芽さん」


甘夏さんが安心したような表情で秋芽さんに近づいたかと思うと


──────パチン──────


フルスイングだった。

甘夏さんはこのとき様々ことを考えていた。そしてその答えが導き出さられる前に手が出た。

まるで秋芽さんの頬に手が吸い寄せられるようにフルスイングをかました。


「なんで逃げなかったんですか!

 なんで助けを呼ばなかったんですか!

 なんで自分ができるって思ったんですか!

 なんで私の親しい人を傷つけようとしたんですか!

 なんで私の最愛の人を危険な目に合わせてしまったんですか!」


言葉はどんどん出てきた。


「私の親しい人であるアナタがなんで!!

 危険かどうかも判断できなかったんですか!!

 野生動物が危険なのはわかっていたことでしょう!!

 それだけ危険なんですよ!!

 人と違って言葉は通じないんです!!!

 クマが喋れますか!意思疎通ができますか!

 人間を襲わないと言い切れますか!!

 忍先生があれほど注意しますか!!

 アナタはそれほどまでに命あるものの必死さを軽んじているんですか!!」


どれほど危険なのか、自分がどんな失敗をしたのか、それを徐々に自覚していき顔をどんどん青くしていく秋芽さん。


「人は蹴って殴れば死にます!!!

 崖から突き落とせば死にます!!!

 噛みつかれれば死にます!!!

 倒れただけでも死にます!!!

 死にたくないと思うならもっと慎重になるはずです!!!

 アナタの、四季 秋芽という命はそんなにも軽いのですか!!!」


言葉ひとつひとつが重くのしかかる。

さすれば自然と涙も溢れ落ちる。

鼻のすする音が聞こえる。

ひゃっくり《しゃっくり》の音もだ。


「ご、ごめんなさい」

「全く、どれほど迷惑かけたと思ってるんですか。あとアナタたちもですよ。クマがいることに対して鈴を持っているからと安心しきってはいけません。キチンと対策を講じた上でさらに警戒をして置かなければ危険の可能性を回避することはできません。対策はあくまでも対策なのです。対処では無いのでもしもを考えて対処することを考えるのが重要ですよ。………これを伝えたかったのでしょう?忍先生……」

「ああ、満点回答ありがとう甘夏。甘夏の言う通り対策はあくまでも対策でしか無い。100パーセント起こらないとは限らない。だから対処する方法を考えるんだ。もちろん思い浮かばなければ来るかも知れないということは頭のうちに入れておかなくてはならない。今回クマに襲われた場合、静かに後ずさることが最善だった。それをお前らが叫び秋芽が飛び出してきてしまったせいで蒼汰が対処せざるを得ない状況に追い込んでしまったんだ。自分たちの起こしてしまった事案に第三者を巻き込むことは社会に出たら1発アウトな案件になる。お前らがやったのはそういうことだ。介入してしまった秋芽もだぞ」


「「「はい」」」


「今回は一応分散的にだが対処できるようにばらけさせつつも野外での活動に慣れている山岳部や写真部の連中を近くに居るようにしつつ猟師も配置していた。学園からの依頼もあって一度生徒たちに失敗を覚えさせるためにな。ウチの学園が成功者を生み出すための教育の一環として行なっている3年に一度の行事だが今回のことでわかったらこれからは対処すべき可能性があることを念頭に入れて行動しておけよ。もちろん慎重に行動しろとは言わない。むしろ大胆で良いだろう。失敗するなって言ってるんじゃ無いんだ。むしろ失敗をしてからの成功はただの成功以上に良いものだ。失敗をせずに成功したものは何が良いのか説明しづらいからな。でも失敗するなら価値のある失敗しろよ。ブラック企業に勤める失敗があったとしてその失敗を価値のある失敗にできるかどうかはお前ら自身にかかってる。秋芽、今日の失敗は価値のある失敗にできたか?」


もう涙を溢すことも鼻水をすする音を立てることが無くなった秋芽さんに問いかける。


「はい。とても価値のある失敗でした。私が無知でありすぎることを知った気がします」

「ほう、何が無知だったんだ?」

「一つは頼るということを知らなかった、もしくは思い出そうとしなかったこと。そしてもう一つは……」


秋芽さんはこちらを振り向き


「園芸部君、いいえ華道 蒼汰君に出会ったときから最初から最後まで惚れていたこと…ですかね。〇〇中学校97期卒業生四季 秋芽は同じく〇〇中学校98期卒業生華道 蒼汰の生き様に恋をしていました。正直言って甘夏さんや来夢さんが羨ましいです。だって心が通じ合っているのだから」

「え?同中?」


告白された?

ではなく先ず同中だったことに驚きだった。

夏目さんの言った感じだと蒼汰の地元の方には来ていなかったと聞いた形だったので故に驚きだった。


だがそれ以上に顔色を青くする甘夏さんの姿があった。

なにかを恐れているような、そんな予感がした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る