第136話 秘密

 そして、あらかたの治癒を終えたアルフォンスは、村長と一緒に彼の家に向かう。

 村長の家には、既に村の主だった面々の他、【ウルペス商会】や【漆黒の奇蹟ミラキュラス ニグリ】の一同が集まっていた。


 そこに村長とともにアルフォンスがやってくると、みんなが集まっている会議室は、拍手喝采に包まれる。


 当初はその圧倒的な実力を危険視されて、村人たちから忌避されていたアルフォンスであったが、治癒や村の復興を行ううちに、その人となりが知れ渡り、今では村の人々も気軽に声をかけてくれるようになっていたのだった。


 集まった人々から、口々に感謝の言葉を伝えられ、やや照れるアルフォンスであった。


「それでは始めようか」


 席についた村長がそう告げると、会議室に緊張感が走る。


「まずは事の顛末について、グルック様たちに説明させていただく」


 そう村長が話し始めたとき、ひとりの少年が手を挙げる。

 それは、先ほどまで歓声の中にいたアルフォンスであった。


「アルフォンス君か。どうしたのかな?」


 そう尋ねる村長に対し、アルフォンスが発言する。


 ―――グルックたちがこれまでに聞いたこともない言葉で。


「《それより、腕輪、外して話しませんか?》」


 その途端、村人たちが大きくどよめく。


「何だよ、おい?」

「急にどうしたんだい?」


 突然のアルフォンスの奇行に驚いたグルックとフランシスが、アルフォンスに尋ねる。



 だが、それ以上に驚いているのは村長を始めとした村の人々であった。


 端正なつくりの男女が、目を見開き口を大きく開けてあたふたと、動揺している姿は、どこか哀れみを誘う。


「そういえば、アル君はボクの名前の意味を知ってたよ」

「それは本当か?」

「うん」

  

 そこにララノアが、以前、アルフォンスに名前を名乗った際のやり取りを説明する。


 それを聞いた村長は、驚きの表情は隠しきれないものの、幾分かは冷静になる。


「《君は私たちの言葉が分かるのかい?》」

「《少し、かじった、くらいです》」

「《いやいや、十分だよ》」


 そう言って苦笑した村長は、自らの手首にある金属製の腕輪に手をかける。


「《村長!》」

「《ちょっ、ちょっと……》」


 その村長の挙動に慌てた村人たちが、鬼のような形相でこれを制止しようとするが、彼は考えを改めるつもりはないようだ。


「《事ここに至ったなら、包み隠さずにお話する他あるまい》」

「《しっ、しかし、もしも秘密が漏れたら……》」

「《やむを得ないさ。それに……》」


 村長は、柔和な笑みを浮かべている少年を一瞥すると言葉を続ける。


「《似ていると思わないか?あの御方に……》」


 そう言って村長が腕輪を外すと、かけられていた擬態の魔術が解ける。


 一瞬、その身体を光が覆い尽くすも、やがて光が引いていく。


「なんだよ、この光は……」

「どうやら魔道具の効果のようだ……が」

「何と……」

「なん……だと……」

「マジッスか……」

「……驚愕」

「……仰天」


 突然の光に視界を奪われたグルックたちであったが、目が慣れてくると目の前の状況に驚いて言葉を失う。


 そこには一見すると何ら変わったようには見えないが、よくよく見れば、笹の葉のように長く尖った耳を持った村長の姿があった。


「まっ……まさか【ダークエルフ】なのか……?」

「そのとおりです」

「いやいやいやいや、王国内にはダークエルフの集落はないはずッス」

「それじゃあ……まさか」


 村長が自分たちの種族がダークエルフだと認めたことで、グルックたちが騒然とする。

 護衛である【漆黒の奇蹟ミラキュラス ニグリ】の面々にあっては、武器に手をかける有様だ。


 だが、村長はそんな冒険者たちの行動を咎めることなく、淡々と自らの出自を明らかにする。




「はい、我々は元【魔王領域軍サタンレギオン・エクセルキトゥス】の残党です」

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