第124話 問掛
キールの言葉に、何となく違和感を感じたスパーダではあったが、そこには触れないことにする。
彼が熱く語っていたので、わざわざ指摘することもないだろうと空気を読んだのだ。
幼いころから、チェシャやキャロルのような姉貴分に囲まれていると、必然的に空気を読むスキルが磨かれるようだ。
……悲しき弟根性である。
キールの力説が一段落したとき、アルフォンスはララノアが何か思い込んでいることに気づく。
「どうしたの?」
「うん……」
ララノアは、アルフォンスの問いかけにひとつうなずくと、意を決したように子どもたちに向き直る。
「ねぇ、みんなは【魔物】ってどう思う?」
「バッ、バカ。やめろ、おい!」
これからララノアが聞くことが何を意味するのか、それをすぐに気づいたキールが慌てて制止しようとするが、彼女の決心は変わらない。
「ごめん、キール兄ちゃん。でも、どうしても聞きたいんだ……」
「ララ……」
キールは、少女の意思が固いことを知ると、悲しそうな顔でララノアを見つめるのだった。
スパーダたちは、どうしてララノアたちがそんなピリピリしたやり取りをしてるのか理解できなかったが、聞かれた以上は魔物に対してのそれぞれの思いの丈を答えようとする。
最初に答えたのはスパーダだった。
「そもそも、俺たちって【ハイオーク】に殺されそうになったからね」
「えっ?」
あっけらかんと、そんな重い発言をする少年に、ララノアは一瞬だけ呆気にとられる。
「それに、村にいたときは【ゴブリン】だの【グレムリン】だのに畑を荒されたり、怪我をさせられたりしたからなぁ……。魔物なんて絶対に敵だって思ってたよ。でもね……」
そう言葉を濁した少年は、アルフォンスに抱っこされてぐだっとしている子狼の姿を見つめる。
「あれを見ちゃうとなぁ……」
そう言って苦笑いするのであった。
次に続くのはキャロル。
「魔物も怖いけど、一番怖いのは人間かなぁ。私たちって騙されて奴隷にされたからね」
「本当に?」
「本当。病気の特効薬が欲しかったら奴隷になれって言われて。だから、人間の悪意って怖いなぁって思うの。でもね、それってどこにでもあることなんだと思う。いい人もいれば、悪い人もいるのは当然だよね」
「そうだね。いい人ばかりじゃないよね」
「それでね、私は同じように、魔物にもいろいろあると思うようになってきたんだ」
「へえ〜」
「私たちは、危険なところをショコラちゃんに助けてもらったし、普段の様子を見てるから、全ての魔物が悪いっては思えなくなっちゃった」
そう言ってはにかむように笑うキャロル。
ララノアは、その言葉に何となく助けられたような気がしたのだった。
「魔物は敵ニャ。特にそこのバカ犬は不倶戴天の敵ニャ」
普段から訓練でショコラにボコボコにされているチェシャは、忌々しく子狼を睨みながらそう断言する。
その言葉に、ショコラが「ヌァァァン?」と反応するが、チェシャはそっぽを向いて呟く。
「……でも、ケンカ相手がいないのも、少し物足りないニャン」
すると、スパーダが「素直じゃないよね」と不用意な発言をしてチェシャに殴られる。
続くアリスは、質問の意味が良く理解できずに、思うがままに発言する。
「ショコラちゃんはお友だちだよ。かわいいよ」
「ガウッ」
「ね〜」
何となく通じ合っているひとりと一匹であった。
そして最後にアルフォンスが、自分の考えを伝える。
「僕なんてショコラの他にも魔物のペットを飼ってますからね」
「あれだろ?スライムに【スライム】って名前をつけたヤツ」
「あのときは種族名を【ゼリー】だと思ってたんだよ。まさか騙されてるとは思わないよ……」
スパーダの茶々に、軽く凹みながらも反論するアルフォンス。
先日、村にいるペットについて何気なく話したところ、自分の過ちを【
「まあ、とにかく。僕は魔物だからっていきなり敵対するつもりはないよ。ねっ、ショコラ」
「ガウ!」
そう締めくくったアルフォンス。
「みんな……」
子どもたちが魔物を最初から否定するつもりはないと知って、ショコラは思わず涙ぐむ。
そして彼女は、村の秘密をひとつ告げようとする。
「実は……」
―――だが。
その秘密を告げることは能わなかった。
「マズイ、緊急事態だ!」
誰よりも早く、見張りの任務についていたキールがそれを見つける。
キールが慌てて、危機を告げる。
その声は緊迫感に溢れ、余裕がないことがうかがえた。
「何があったんだよ……なぁっ!」
「何、あれ?」
「こんなことってあるのかニャン……」
「こわい…」
元奴隷の少年少女がそう口にすると、アルフォンスは冷静にそれを観察する。
「緑の肌は鬼……じゃなくて【ゴブリン】かな?それがおよそ百。その他にも、別な種類の魔物がチラホラと見えますね……」
「そんなぁ……」
見れば、麦畑の向こうに、数え切れないほどの魔物の群れの姿があったのだ。
「ちくしょう、アイツらこのタイミングを狙ってやがった」
今、村中に敵の襲来を告げる角笛が鳴り響く。
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