第114話 会遇
救助の先陣を駆けるのは【
彼の役目は、魔物の群れに飛び込んで、襲われている人物の前に防衛ラインを作ること。
見れば、頭まですっぽりと覆ったローブを身に纏っている子どもがひとり。
その周囲を取り囲むようにして、新雪のような真っ白な毛並みをした狼の群れがいた。
「【ガルム】かよ……。それにしても、なんでこんなところに子どもが?」
一瞬、そんなことを考えたバレットであったが、まずはやるべきことをやろうと思考を切り替える。
手綱を握る手とは反対の、もう一方の手で背負った大盾を構えると、視界の隅に、空からガルムの群れに降り注ぐ魔力矢が見える。
「ナイスなフォローだ」
バレットはそうつぶやくと、このまま混乱したガルムたちの中を突っ切れるものと予想する。
―――だが。
まるで、来るのを
「バカな!」
思わずそう声を上げてしまったバレット。
同じような動揺は、後ろに続く仲間たちからも伝わってきた。
完全に間合いの外から放たれた矢を悠々と避ける魔物たち。
当初にあった戦略プランが明らかに狂い始めていた。
だが、想定外の事態はそればかりではなかった。
ガルムの群れが、一糸乱れずに踵を返して逃走を始めたのだ。
「…………逃げた?」
あまりにも突然な出来事に、理解が追いつかないバレット。
手綱を引いて、襲われていた子どもの前に馬を進める。
「何だこれは?」
「分からん」
アトモスが馬を寄せてきて、眼前で繰り広げられたガルムたちの行動について尋ねるものの、誰も答えを持たずにいた。
ガルムの群れが、まるで一匹の生き物のように秩序正しく動いていたのだ。
【キング】という圧倒的な強者がいた、あの【ハイオーク】の群れですら、一部は自分勝手に動いていた。
だが、眼前の光景は、それよりもより洗練かつ組織的であった。
「まるで軍隊のようだな……」
アトモスがそうつぶやく。
そんな彼らの耳に、何かに慌てたような早口でまくしたてる若々しい声が届く。
「おっ、おっちゃん、ありがとう。もう大丈夫だから、魔術はやめてくれよ。ま、また。そう、また戻ってきちまうからさ」
「イーサンは、追撃は必要だと思う」
「ホント、ホントに大丈夫だから。おっちゃんたちが強そうなのは分かるけど、無理しなくてもいいよ」
「無理じゃない」
そう言って再び詠唱を始めるイーサン。
すると、その眼の前に回り込んだローブ姿の子どもが、両手を広げてこれを制止する。
「もう、いいんだってばぁぁぁぁ!」
子どもが大声を出しながら頭を左右に振った勢いで、頭から被っていたローブがズレてその容姿が顕になる。
そこには、透き通るような白銀の髪をミニボブに切り揃えた、褐色の肌の少女の姿があったのだった。
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