第99話 討伐★

 魑魅魍魎が跋扈するゼルトザーム大森林は、長い間、【災厄の竜】【災禍の狼】【災殃の鳥】の【三災】と呼ばれる魔物たちを生態系の頂点としてきた。

 三災は強大な魔力と絶大な影響力を持ち、それぞれに互いを牽制し合って、微妙なバランスで大森林の秩序が維持されていたのだった。

 ゆえに、討伐した際の混乱を恐れて、かの英雄たちとておいそれと手出しができなかった。


 ところが近年、【災厄の竜】ニーズヘッグが、

名もなき村のある外縁部で目撃されるようになっていた。


 深淵部に縄張りを持つ三すくみの一角が、わざわざ外縁部までやってくることは、何らかの異常が発生していると思われた。


 そこで調査を行ってみれば、原因は不明なるもニーズヘッグが性急な勢力拡大を図っていることが判明した。


 これは、村が近いうちに襲撃を受ける可能性が高まったことを意味していた。


 本来であれば、不干渉を貫くところではあったが、こと村が危険に晒されるとあっては、英雄たちも襲撃されるのを座して待つことを良しとしなかった。


 こうして、ニーズヘッグの討伐が決定したのであった。


 酒を飲みながら打ち合わせをするため、村の酒場に集まる英雄たち。


 すると今度は、大森林の主を誰が討伐するかで揉めに揉めることになった。


 もともと、血の気の多い英雄たちたちである。

 歯ごたえのある相手とやり合うのは、望むところであった。


 そんな、誰もが譲らない殺伐とした会話に割り込んだのがアルフォンスであった。

 最初は祖父母の隣の席に座って、とれたての果物ジュースを飲んでいたのだが、話を聞いているうちに挑んでみたい気持ちが芽生えて来たのだった。


「僕がやってみたい!」


 大森林のたいていの魔物を、既に労せず倒せるようになっていたアルフォンスが名乗り出た。

 この提案に、アルフォンスを大好きな英雄たちは我を通すことを諦めた。


 そして、アルフォンスが討伐するための検討を始める。

 その結果、【隠聖】ツクヨミの【憑依の術】で使役された鳥と、【弓聖きゅうせい】フィオーレの【天空の瞳】による監視の下で、それ以上無理だと判断したらすぐに戻ることを条件として、討伐が認められたのだった。


 戦士として、もう一段階上に昇るためには必要なことと判断されたのであった。


 喜び勇んで準備に出かけるアルフォンスを見送った英雄たちは、果たして彼がニーズヘッグを倒せるかについて予想する。


「のう、アルはニーズヘッグを倒せると思うか?」

「倒せますな」

「キシシシシ、楽勝じゃ」

「簡単なんじゃない?」

「倒せる、確定」


 オイゲンが、不安そうにそう尋ねると、【剣聖】レオンハルト、【狩聖】トマス、【聖魔】アビゲイル、【弓聖】フィオーレが即答する。


「ガハハハ、当たり前だろうが!アイツは、全盛期の俺たちよりも強いんだからな」


 そう断言する【拳聖】バルザック。

 彼は負けず嫌いで、普段はそんなことを決して言わないのだが、この場では別だ。

 素直に本音を語る。


「もちろん、拳だけなら負ける気はしないが、何でもありになったら勝つ道すじが見えんわ」

「確かにな。私も剣だけなら、まだまだアルフォンス君に負けない。だが、アビゲイルクラスの魔術やバルザッククラスの体術、ヘタすれば雷鳴魔術までが飛んでくるとなれば、もう笑うしかないな」


 バルザックに同意するのは、レオンハルトであった。


「ホントよね。いくら無詠唱で魔術を放っても、近距離で襲われれば負けるわね」


 アビゲイルもしみじみとそう応える。


 一人多国籍軍のアルフォンスと、何でもありで戦うというのは、それほど絶望的なことなのだと、酒場の主の【ドミニク・フォン・グリューンベルク】は驚くのであった。


 こうして、アルフォンスの【災厄の竜】ニーズヘッグ討伐が行われることになったのだ。


 なお、その結果は、この場でわざわざ語るまでもない。



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