第74話 解説
「あ〜っ、ガオガオちゃんだぁ〜。たすけてくれてありがとね」
「ガウ」
おじちゃん呼ばわりされて愕然としているデューク。
その隣では、近づいてきた子狼にアリスが抱きしめてお礼をしていた。
優しく撫でる彼女に、子狼もまんざらではないようで、小さく喉を鳴らすと両目をつぶってなすがままにされている。
「子狼殿があんなにくつろいでるとは」
「ガハハハ、すげえガキンチョだな」
「ふたり目の猛獣使いッス……」
「イーサン、びっくり」
すると、デュークを除いた【
次に隷属の首輪を外すのは、猫獣人の【チェシャ】
彼女の場合、長い間食事を摂らせて貰えなかったため極度の栄養失調にもなっていた。
そこでアルフォンスは【活勁】でチェシャの体力を回復させつつ、首輪を取り外すことにする。
今度もアッサリと首輪を取り外したアルフォンスに、キャロルが問いかける。
「とても信じられません。高名な魔術師でも外せないって聞いてたのですが……」
「そんなことはないですよ。僕は少なくともふたりは、これをもっと簡単に取り外せる人を知ってますし」
「そんな人がいるんですか……」
「ええ、すごい人たちです」
アルフォンスが思い浮かべたふたりとは、少年の祖母の【
エリザベートであれば、【
そのように簡単に取り外せる者がいる以上、やや強引に取り外しているアルフォンスとしては、あまり誇れるものでもないと感じていた。
偉大な達人ばかりの中で育ったがゆえに、自己に対する評価が低い。
それがアルフォンスの欠点でもあった。
「それよりも、ちょっと無理をして首輪を外したので、どこか具合が悪いところはありませんか?」
「あっ、大丈夫です。すごく元気になっちゃいました。それよりも、どうして首輪は外せたのですか?」
「実はですね、この首輪には重大な欠陥があるんです」
「欠陥……ですか?」
「ええ、首輪をはめられた者が反抗しようとすると、首輪は命令どおりにさせようとリソースを割かれて、他の部分がおざなりになるんです」
「リソース?」
「つまり、この首輪には、力の大半を命令を守らせることに使うことで、一時的に封印が緩むという欠陥があるんです。あとは緩んだ封印に外部から魔力で干渉してやれば、このとおり」
そう言ってアルフォンスは、ふたつに分かれた首輪を手にとって見せる。
「でも、どうしてそんなことが分かるのですか?」
「実際に、目の前で首輪の発動を見ましたから。僕の魔術の先生から、初見で魔術式は解析するようにと、口うるさく言われていたので、もう癖になってるんですよね」
そう何事もなかったかのように笑うアルフォンス。
(それは理想論であって、実際にそんなことをするのは不可能だから)
アルフォンスが当然のように答えた、初見での魔術式の解析を耳にしたイーサンが、青ざめた顔をして首を振っている。
それがどんなに規格外なことか、本人が全く理解していない。
これもまたアルフォンスの欠点であった。
「ただ、僕はそれほど簡単に解析が出来ないので、あえてキャロルさんに首輪に抵抗してもらったんです。偉そうなことを言ってすみませんでした」
「いえ、アルフォンス様の言葉で心を強く持てたんです。それがなければ、自分の環境を受け入れてしまっていたかも知れません。私の方こそ、お手間をかけさせて申しわけありませんでした」
「手間なんてかかってませんよ。全てはキャロルさんの意志が首輪に打ち勝ったんです」
「そんなこと……」
「いや、あなたが首輪の強制力に抵抗したから今があるんです。自信を持ってください」
「……ありがとうございます。私、このままどうなるんだろうって思ってたんです。違法奴隷の末路は何となく分かります。だから、そんなひどい目に遭う前に、このまま死ねたらって……」
「でも、本音はそうじゃなかった」
「はい、ずっと自由に生きたいと願ってました」
「そうですね、諦めなければ願いは叶うんです」
「はい」
そんな会話を交わすふたり。
「うぬ。あの様子を見ていたなら、救援出来なくなるのも分かるな」
「だろ?我らが小さな英雄様の恥ずかしがる姿なんて、なかなか見れんぞ」
「いやぁ、こんな初々しいやり取りは、純粋だった子供の頃を思い出させるッスね……」
「貴族の三男が純粋だったの?もっと幼い頃からドロドロとした教育を受けてると思ってた」
「貴族を何だと思ってるンスか?一応、人間ッスよ」
「自分でも『一応』って言ってるし……」
ふたりの会話を傍で見ていて、心が洗われるような感覚になる【
「おじちゃん、キャロちゃんはお兄ちゃんのことを好きなのかなぁ?」
「そこは黙っていてあげるのが優しさだ」
「ガウッ」
そんな素直な感想をこぼすアリス。
それを、優しくたしなめるデュークと子狼であった。
そしてそんなアリスの言葉が聞こえたふたりは、変に意識していまい会話が噛み合わなくなっていく。
「ほら、周りが意識させるようなことを言うとダメなんだって分かるだろ?」
「ガァ〜」
「うん!」
人生の先輩である「おじちゃん」がそう諭す。
何故か子狼も偉そうにしているが、こちらは単にアリスに先輩風を吹かせているだけのようだ。
こうして幼いアリスはまたひとつ、世の中のことを知ったのだった。
そして、そんな弛緩した雰囲気の中で、体力を回復したチェシャが起き上がる。
「あっ、チェシャちゃんが目を覚ましたよ」
アリスが、歓喜の声を上げるが、チェシャは決して喜んではいなかった。
彼女はアルフォンスのことを射殺さんばかりに睨みつけると、声を低くして尋ねる。
「……今度はニャたちに何をさせようとする気ニャ」
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