第19話 誤解

 アトモスが倒れたのを皮切りに、冒険者たちは次々と力尽きていく。


 バレットはこれまで運命を共にしてきた大盾が、ハイオークの棍棒の一撃を受け流しているうちに砕け散った。

 もはや彼を守るものは無く、その身ひとつだけとなったところで、ハイオークがその右腕に噛みついた。

 

 クリフは矢が尽きて弓が折れ、携帯していた短刀で戦いを挑むも、ハイオークの肉の盾を貫くことも出来ずにいたずらに体力を消耗していた。


 すでに、デュークは気力が尽き、イーサンは魔力が尽きており、ふたりにはもう反撃の力は残されていなかった。



 そんな冒険者たちの姿をずっと見つめる少年がいた。


「どうして結界を張らないんだ?何で斬れないんだよ?魔術にも威力がない……どうして?どうして?」


 アルフォンスは、冒険者たちの戦いを見てそんな感想を漏らす。


「違う、そうじゃない!そこは……」

「うるせえ!」


 そんなアルフォンスの言葉に、グルックがついにキレる。


「さっきからガタガタとうるせえ!トカゲしか倒せねえヤツが、ずいぶんと偉そうじゃねえか!いいか、小僧!こんな絶望的な状況でもなアイツらは必死に戦ってくれてるんだ!何も出来ずにこんなところでコソコソ隠れてる、こんな俺達を守ろうとな!」


 先ほどまでは自分が置かれた状況に右往左往していたグルックであったが、こんな状況でも必死に契約を守ろうとする冒険者たちの姿に思うところがあったのか、その瞳には涙が浮かんでいる。

 だからこそ、冒険者たちをなじるアルフォンスのことを許せなかったのだ。


「だって皆さんだってトカゲを倒せるんですよね?だったら、こんな豚なんて……」

「テメエは何をぬかしてるんだ!トカゲが倒せたから何だって言うんだ!アイツらを倒すとか倒さないとか、全く関係ねえだろうが!」

「何でトカゲを倒せて、豚が倒せないんてすか!」

「はああ?いいかよく聞け!アイツらは単なる豚じゃねえ!ハイオークだ!トカゲなんかとは全然レベルが違うんだ」

「そうですよ。トカゲの方が断然レベルが高いじゃないですか!」

「……何を言ってるんだ?オマエ……」


 そんなふたりの噛み合わない会話を聞いていたフランシスがとあることに気づく。


「ちょっといいか?アルフォンスくん。僕らが言っているトカゲとはこんなものだ」


 フランシスが右手を広げてトカゲの大きさを表す。


「エッ……?」

「君は何を指してトカゲと呼んでいる?」


 そう問いかけられたアルフォンスが、自分がこれまで大きな思い違いをしていたのだと気づく。


「それじゃ……みなさんは……」

「ああ、全力で戦ってくれているんだ」


 そうフランシスが告げたとき、幌を突き破ってバレットが荷台まで吹き飛ばされてくる。 

 すでにその右腕は、ハイオークに食いちぎられて肩から先がない。

 出血がひどいばかりか呼吸も荒く、もう長くないことが見て取れた。


「ギル!」


 アルフォンスは荷台でうずくまって恐怖に耐えていた友達の名を呼ぶと、どこからともなく多量の薬瓶を取り出す。


「これは【ハイポーション】だ。みんなにかけてやってくれ」

「わっ、分かった!」


 その言葉にギルは反射的にうなずく。


「おい、こんなに大量な薬瓶、どこから取り出した!」


 突然のことに喚き散らすグルックを無視して、アルフォンスはフランシスに告げる。


「フランシスさん。僕は行きます!」

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