第15話 予感
名もなき村から、王都まではおよそ1年ほどの日数を要する。
隊商は、大きな規模なら数十台の荷馬車とそれを護衛する者たちで数百名が移動することもあるが、たいていは数台の荷馬車に数名の護衛程度の小規模なものである。
しかし、名もなき村から出発した隊商はそれよりも少なく、一台の荷馬車に商会関係者が3名、護衛を含めても10名足らずの極小規模なものであった。
それは、名もなき村の秘密を守るために必要な措置ではあったが、危険性が増すことは否めなかった。
そして今、名もなき村を出発した隊商に危機が迫っていた。
そのことに最初に気づいたのはアルフォンスであった。
「アルフォンスくん、何だって?」
「はい、このまま進むと魔物の群れに囲まれることになります」
「何故、そんなことが分かるんだ?」
「えっ?魔力を広く展開して周囲の状況を探知したりしませんか?」
「そんな方法は聞いたことがない。イーサン、お前はどうだ?」
「イーサンは聞いたことがない」
「だそうだが……」
「ちょっと待って下さいッス。これまでアルくんは、嘘をついたりいい加減なことを言ったりする子ではないと知ってるッスよね」
「うむ……」
「アトモス、真偽はともかくどこかおかしいのは確かだ」
「確かに、急に動物の姿を見かけなくなった」
「確かに、急に飛禽の姿を見かけなくなった」
素直にアルフォンスの言葉を信じることが出来ないアトモスであったが、クリフたちの言葉にも一理あると思い直す。
「分かった。念のために、依頼主殿に迂回の提案をして来よう」
グルックの名前を出さないところに、未だ両者がギクシャクしているところが窺える。
「はぁ?迂回だと?何を言ってるんだ?」
「だから、何となく周囲の雰囲気が怪しいんだ。この先に魔物たちが待ち受けてる可能性がある」
「魔物が待ち伏せだと?バカなのか?奴らにそんな知能はない」
「そんなことはない。【キング】だの【ロード】だのの名を冠する個体がいれば……」
「もう、大森林からだいぶ離れたのだぞ。そんな奴らが来るならさっさと来るはずでは?」
「だが、我々はまだこのあたりの魔物に詳しい訳ではない。もしかすると……」
「もしかしたらってだけで、いちいち迂回していたら、いくら時間があっても王都にはたどり着けなくなる」
「だが……」
「いいか、俺はさっさとこの魔竜をオークションにかけたいんだ。時間をかければこれ以上のものが出てきてしまうかも知れないだろ?『時間と金は等価値』だと言うだろう」
「どうしても迂回はしないのか?」
「無論だ。それで万が一何かあれば対処するのがお前らの役目だろうが。最近、魔物との戦いが無いから弛んでるんじゃないか?」
「我々が弛んでると?ふざけるな!」
「ひっ!」
「
「ひいいいいいっ」
激怒したアトモスが、グルックの胸ぐらを掴んで引き上げる。
その迫力に、先ほどまで威勢の良かった狐獣人は、血の気が引いてしまい怯えきっていた。
「アトモス殿、グルックの言葉は謝罪する。その手を離して貰えないか」
その二人を仲裁するのは、やはりフランシスであった。
「経験豊富な冒険者たちの言葉にもうなずけるところはある。だが、アイツの言葉にも理はあるんだよ。頼む、このまま進んで欲しい」
アトモスとフランシスは一瞬、視線を交錯させる。
やがてアトモスはため息をつきつつ振り上げた拳を下ろすと、指示に従うことを決意する。
「フランシスさん、貴方の指示に従う」
「感謝する」
こうして万が一の危険性よりも時間を選択した一行であったが、間もなくそれが誤りだったことを知ることになる。
方針は決まったものの、嫌な予感は拭えない一行は知らず識らずのうちに馬の速度を早めていた。
一刻も早くこの場から逃れようとしたものであったが、それは叶うことがなかった。
突如、荒野を進む一行の前方に、一見すると大きな壁のようなものが立ち塞がる。
「おい、あっ……あれは」
「ああ……間違いない」
アトモスとバレットは眉間にシワを寄せながら話し込む。
「あああああ…………」
グルックが情けない悲鳴を上げた。
そこには、大地を埋め尽くさんばかりに広がった【ハイオーク】の群れであった。
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