第13話 挨拶

「アルフォンスです。10歳です。よろしくお願いします」

 

 慌ただしく村を出発した隊商キャラバンの面々は、太陽が中天に差しかかった頃に小休止を取ることにする。


 道すらない荒野に馬を止めて、地面に座り込む程度の小休止だが、長い間荷馬車内にいたり、馬に乗っていた身にとっては、揺れない地面に立ち、身体を伸ばせるだけでも十分な休憩だ。


 そして、その場でアルフォンスが改めて挨拶をする。

 出発時にも簡単な挨拶はしているのだが、皆が落ち着いた頃合いを見計らって、もう一度という訳だ。 


「ああ、これからよろしくな。始王様……」 

「『しおう』さま?」

「グルック!」

「おっ、おお。何でもない。ともかく、俺がこの隊商キャラバンの主のグルックだ」

「よろしくお願いします」

「私がフランシスだ。ウルペス商会の副会頭をしている。分からないことがあれば何でも聞いてくれ。そして、そっちにいるのがギル。ウチの商会の見習いだ」

「ギルです。僕の方がひとつだけ年上だね。よろしく」

「よろしくお願いします」


 アルフォンスは、歳の近い少年がいることに心が躍る。

 年寄りばかり村で、これまでに同年代の者と接したことが殆どないため、これからの生活に期待を抱く。


 続いて冒険者たちが自己紹介をする。


 彼らは事前にグルックから、アルフォンスを王都に連れて行くことと、特別扱いせずに普通の平民として扱うことを伝えられていたので、それに従うことにする。


「某が、冒険者たちのまとめ役をしているアトモスだ」

 

 背丈ほどの大剣を背負った偉丈夫が挨拶すると、剃髪の大盾使いが続く。


「バレットだ。ところで、村でお前は拳聖や剣聖の攻撃をいなしていたがあれは本当のことか?」

「……本当?」


 何をもって本当と言われているか分からないアルフォンスは一瞬戸惑うが、あのときのやり取りについて聞かれているのだと思い至る。


「ああ、あれはいつもなんです」

「いつもあんな激しいやり取りを?」

「いつも同じことの繰り返しなんです」

「何度も同じことをしてるのか?」

「そうですね」 

「そうか……良かった」

「……え?」


 アルフォンスは、いつも同じように師匠たちが攻撃を仕掛けてくるから、それを避ける対応には慣れたと説明したつもりであったが、バレットはいつも同じ流れを繰り返していると勘違いした。

 つまり、あの攻防はあらかじめ相手がどう攻撃してくるか決まっている型のようなものなのだと思い込んだのだ。


(そうでなければ、こんな子どもが剣聖様たちの攻撃を避けられるはずもない……)


「オレたちに、お前のいいところをみせてやろうとしたのだな」

「……え〜と、はい?」


 アルフォンスは、よく分からないままに返事をする。


「クリフッス。18歳ッスね。この冒険者の中じゃ一番若いんで、頼りにしてくれていいッスよ」

「はい。ありがとうございます」

「そんで、アルフォンスくんは、村で戦い方なんてのは習ったんスか?」

「はい、村の人たちからはいろいろと教わりました。ひとりで狩りも出来ます」

「へえ〜、そいつは凄い。ちなみに獲物はどんなものを?」

「え〜と、『鳥』とか『トカゲ』です」


 そうアルフォンスが答えると、それを聞いた一同が爆笑する。


「ハッハッハ。鳥やトカゲ……いやぁ、すごい、すごいぞ」

「うん。頑張ってるね。それでいいよ」

「鳥とかトカゲなら、戦い方を知らない僕でも狩れるよ」


 そんな反応をする商会の面々。

 そして、やはり出発時に見た剣聖たちとのやりとりは事前に打ち合わせでもあったのだと安堵する冒険者たち。


「いや、笑って済まない。その歳で狩りをするだけでも十分にすごいことだぞ」

「おうよ、オレたちが守ってやるから安心しとけ」

「アルフォンスくん……アルくんでいいッスね。ウチらがきっと守ってやるッスから」

「よろしくお願いします」


 そして、屈託なく答えたアルフォンスの姿に好感を抱いた冒険者たちが、庇護欲を刺激されたのは言うまでもない。

 そしてアルフォンスは、自分が苦労した獲物を一笑する冒険者たちに、心強さを感じるのであった。


「アル、アル。デュークはデューク」

「アル、アル。イーサンはイーサン」


 そして最後に双子の冒険者が声をかける。


「髪が青いのがイーサン」

「髪が赤いのがデューク」


 双子がそれぞれ相手の特徴を説明する。


「わぁ〜、双子さんなんですね。本当にそっくりだ。僕は初めて双子さんに会いました。すごいなあ」 


 その素直な感想に、デュークとイーサンも満更でもない気持ちになる。


「なかなか可愛いヤツ」

「なかなか素直なヤツ」


 思わずふたりは、アルフォンスの頭に手を伸ばしてその黒髪を撫でるのであった。


「あはははっ、ありがとうございます」


 そんな様子を見るアトモスは、どうやらこの少年は人に好かれる素質があるようだと判断する。


「素直な子どもだな」

「ハハハ、アルくん。可愛いッス」


 出会ってまだ間もないのに、もうこの隊商キャラバンに溶け込んでしまった。


(この長い旅路。良き人物が加入してくれたものよ……)


 ギスギスとした依頼主と冒険者たちの間を取り持ってくれるのではないかと、そんな淡い期待を抱くアトモス。


 こうしてアルフォンスは、隊商キャラバンの一員になったと認められたのであった。

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る