第20話 全日本選手権再び

 僕らはペア部門の表彰台で一番高いところに上った。

 賞金は日本円にして一億円近く。本当ならガレオンと半分こするはずだったけど、彼は「師匠と戦えたからそれで十分だ」と受け取ってくれなかった。

 ガレオンは不満に頬を膨らませる僕に条件を付けた。


「その賞金で再来シーズンもスケートを続けろよ。お前ならできる」

 僕は一番の笑顔で頷いた。


 ガレオンはペア部門の優勝功績がプレイヤーポイントに加算されて、念願の世界ランキング一位になった。

 ……のに、どこか釈然としていないのはまあ当然だろう。ニヤニヤしているジンさんに詰め寄り、一発ぶん殴っていた。溜飲を下げようとしてるみたいだけど、それでも呑みこめないようである。気持ちはわかる。


 ジンさんは、あの試合だけで引退するようだ。元々そのつもりだったらしい。これからは身体障碍者でも参加できるVRABのデバイスづくりに協力すると言っていた。センサーグリーヴの爆発事故についても、本社は近々なんらかの発表をするみたい。


 白瀬君はあれから何の音沙汰もない。本当に僕に発破をかけるためだけに一連の事件を起こしたみたい。言葉を交わすならスケートで。そう言われてるみたいだった。


 わかった、僕らはフィギュアスケーターだ。その望みに応えよう。


――――


 そして再びの全日本フィギュアスケート選手権。


『頑張れよ。ちゃんと見てるからな』


 ガレオンから送られてきたメールを思い出して、クスリと笑う。地方予選のブロック大会は願掛けらしく見に来てはくれなかったけど、この大会は試合会場まで見に来てくれたようだ。


 リンクサイドからどうにか目を凝らして、満員の観客席にガレオンと車椅子姿のジンさんの姿を確認する。僕に気付いて、二人は大きく手を振ってくれた。僕も振り返す。心がぼわっと温かくなった。


 いよいよ最終滑走グループの六分間練習だ。

 ぶるっと武者震いする僕の横に、白瀬君が立つ。

 横目で見るも、彼はまっすぐ前を向いていた。


「再誕、でしたっけ。今シーズンの貴方のSP曲」


 僕もリンクをじっと見つめながら答えた。


「うん。生まれ変わった僕が見た世界を、皆にも見てほしくて」


 貴方らしい、と白瀬君は笑った。そして呟く。


「……今度こそ、僕は倒されるのかな」

「僕はそのために来た」


 それに、と僕は続ける。


「一度倒れるのも乙なものだよ。死んで生き返って、新しい世界を見るんだ」


 そう言ってにっこり笑って彼を見ると、白瀬君はぱちくりと瞬きをした。一気に幼い印象になる。

 彼は破顔した。


「ああ、いいなそれは。とてもいい」

「うん、楽しみにしてて」


 六分間練習のアナウンスが鳴る。僕達は勢いよく銀盤に滑り出した。

 

 ――新たな戦いが始まる。

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プレイヤースキル《フィギュアスケーター》が弾幕ゲーで無敵過ぎる 北斗 @usaban

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