第19話 生まれ変わった僕
気付けば僕は息を切らせて、地面に倒れ込んでいた。少し離れたところにいる白瀬君も同様に。
とっくにSPの二分半は終わっていて、空ではガレオンがジンさんを追い詰めていた。さっきとはまるで逆だ。
(僕の演技が白瀬君の演技を上回ったから、だ)
観客が驚愕の声を上げる。はっと見上げると、ガレオンがジンさんの身体に弾幕を派手にぶち込んでいた。ジンさんが光に包まれて消滅する。
静寂が束の間、場を支配したが、ガレオンが握った拳を力強く夜空に突き上げると、大歓声が津波のように夜を切り裂いた。
しばらくして息を切らせたまま、ガレオンは僕に言った。
「お前の番だ、アル」
「うん、ありがとうガレオン」
主導権が明け渡されて、僕はよろよろと立ち上がった。白瀬君に近づく。
白瀬君は仰向けに倒れていて、僕に見下ろされてもまだ動かない。ぼんやりと僕を見上げ、そして満足そうに笑った。
「いい答えでした。リンクでも僕を倒しに来てください」
僕は頷く。心が凪いでいた。
まっすぐに右手を伸ばすと、彼の心臓に差し向ける。
「さようなら、白瀬君。氷上で僕を待っていて」
右手から白いニードル弾が飛び出し、彼の心臓を打ち抜いた。幻想的な光の粒が彼を取り囲み、白瀬君は消滅した。
押し寄せる大歓声が、僕の心を満たす。それはまるで、あの全日本選手権の傷を癒すような喝采で……。
いつの間にか隣にいたガレオンが、僕を自分の肩に抱え上げる。
「手を振ってやれ。お前はあいつに勝ったんだ。よくやったな」
僕の目からはいつの間にか際限なく涙が流れていた。精いっぱいの感謝を込めて観客に手を振る。
涙に滲む世界は美しくて、僕は無性に氷上を滑りたくなった。この喜びを、みんなに伝えたい。
それは生まれ変わった僕しかできないことだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます