第397話 邪魔者は全て、排除する……


「ぐ、ぐすん……」

「もう泣くなよ。タクオ、何があったか知らないけどよ。さっきミハイルと一緒だったから、ケンカでもしたんだろ?」

 と優しく肩に触れるリキ先輩。

 ケンカではないが……ミハイルとの性交渉が不成立になったので。

 痴話げんかというべきか?


 いやいや、違う。

 俺たちはまだ”そういう”関係じゃない。


「泣いてないもん……」

「いや、さっきからボロボロ涙が出ているじゃねーか。ほら、ハンカチ貸してやっから」

「あ、ありがと」

 なんか、リキって見た目と反して、意外と優しいから、モテるのかも。男にだけ。

 彼から借りたハンカチで、涙を拭う。


「まあ、ミハイルとのケンカは俺が間に入ってやるから。元気出せよ」

「いや……それは」

 尻を触る、触らないで揉めたとは、言えないからな。

「良いってことよ。マブダチのケツぐらい、俺が拭いてやっからさ!」


 と満面の笑顔で親指を立てる。

 まあ、リキのことだから、特に意味はないと思うのだが。

 なんか、仲直りと称して。ミハイルが俺の尻を攻めて……。

 濡れたケツを綺麗に拭き上げるという表現に感じる。


  ※


 涙も枯れた頃、リキと一緒に高校の事務所まで向かうことにした。

 ミハイルとの仲直りに協力してくれるそうだ。

 正直、今あいつと合わせる顔がない。

 トイレとは言え、必死に個室で尻を突き出してくれたのに。

 俺はビクついて、なにも出来なかった。


 理由はどうあれ、恥をかかせてしまった……気がする。


 3階から降りて、2階の右奥へ向かう。

 事務所の扉にノックしようとした瞬間。

 何やら下から叫び声が聞こえてくる。


「おまえだろ! タクトに、お、お尻を触らせた……イケない奴は!?」


 階段の下を見下ろすと、1階の玄関でミハイルが誰かに怒鳴っている。

 こちらからでは、相手の顔は確認できないが。

 エナメル素材のレオタードを身に纏った卑猥な……男。

 その証拠に、股間がふっくらしている。


「そ、そんな……僕と新宮さんは、ただの仕事仲間で」

「はぁ!? おまえみたいなエッチな奴とタクトが、ダチになるもんか!」


 ヒートアップする彼を見て、俺とリキは互いの顔を見つめると、黙って頷く。

 急いで、ミハイルを止めに入るためだ。


 階段を駆け下りて、俺がミハイルを後ろから羽交い締めにする。


「やめろ! ミハイル!」

「放せ! た、タクトをエッチな目にさせたこいつが悪いんだ!」

 と目の前のサキュバスくんを指差す。

「ぼ、僕はそんな……気持ちではコスしていません!」

 そう言うと涙を浮かべて、リキの背中に隠れる。

 博多社の受付男子。住吉 一だ。

 なぜ、こいつがうちの高校に?


「嘘だ! タクトはアンナにしか、エッチな目にならない奴だぞ! おまえがそんなエッチな服を着るのが悪いんだ!」

 エッチ、エッチって連呼するのをやめませんか。

 なんだか、俺が色摩みたいじゃん。

「酷い! これは立派なコスです!」

 とか、一も反論しているが、ちゃんとリキの背中にピッタリと身体をくっつけている。


 話の内容が全然理解できていないリキが、キョトンとした顔で俺に言う。


「なぁ、さっきから何の話で、ケンカしているんだ?」

「お、俺にも分からん……」


  ※


 とりあえず、興奮しているミハイルを落ち着かせるため、一旦その場から離れるように説得した。

 渋々、彼もその提案に応じてくれた。


 リキに一を任せて、俺は玄関近くの下駄箱で、説明を始める。


 彼……住吉 一は、俺を男として見ていないこと。

 そして、何よりもマブダチであるリキに惚れていることも……。

 だからと言って、俺が彼の尻を触ったことは説明になっていないのだが。


 しかし、その話を聞いたミハイルは、急に顔色が明るくなる。


「それって、ホントなの!? タクト!」

「え?」

「あのエッチな奴が、リキを好きだってことだよ☆」

 急に瞳の色がキラキラし出したよ。

「一がリキのことを? ああ、かなり好きみたいだぞ」

「おもしろ~い☆」


 小さな胸の前で、両手で拳を作る。

 どうやら、一の恋バナが気に入ったようだ。


「おもしろいって……ミハイル。リキはほのかが好きなんだぞ? 一の恋心はどうなるんだ。永遠に叶うことのない恋愛だ。かわいそうだろ?」

「全然っ☆ むしろ、最高な展開だよ☆ どうせだから、一ってやつもリキにくっつけてやろうよ☆」

「……ミハイル。ちゃんと話を聞いていたのか?」

「うん、聞いていたよ☆ とりあえず、タクトに近づく奴らは全員、他の人間にくっつけた方が楽しいもん☆」


 いや、怖いよ。

 この人、マジでサイコパスじゃん。

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