第四十二章 腐ってもサブヒロイン

第366話 認めたくない男


 あれから一週間が経とうとしていた。

 初めてのマリアとのデートは……メインヒロインであるアンナにより、大失敗となってしまう。

 正直、彼女への罪悪感で胸が締め付けられる。

 

 さすがにまずいと思ったから、毎日マリアへ電話をかけたが、不在ばかり。

 全然、電話に出てくれない。

 何度もかけたが、きっと無視されているのだと思う。


 メールにて謝罪の文章を送ったが……これも反応無し。

 完璧に怒っているな、これは。



 毎朝、スマホをチェックしているが、特に通知はない。

 仕方ないから、朝食を軽く済ませて、俺は地元の真島まじま駅へと向かった。

 今日が一ツ橋ひとつばし高校のスクリーング日だからだ。


 小倉行きのホームで列車を待っていると、ジーパンの右ポケットに入れていたスマホが振動し始める。

 急いで、スマホを取り出して着信名を確認する。

 しかし名前を見て、ため息が漏れてしまう。


「チッ……もしもし」

『ちょっと! DOセンセイ、なにイラついてんですか? 出てすぐに舌打ちとか……』


 相手が担当編集の白金だったから、ムカついてしまった。


「すまん。ちょっと相手がお前だったから、ガッカリしただけだ」

『え、フォローになってないんですけど……。まあ、いいや。今日はスクリーングの日でしょ?』

「ああ」

『学校前に悪いんですけど。お仕事の話、いいですか?』

「数分ならいいぞ」

『良かったぁ~ 実は、今度“気にヤン”の2巻と3巻が来月に同時発売が決定しまして……』


 それを聞いた俺はすかさず、ツッコミを入れる。


「はぁ!? 早すぎだろ! 入稿したの、ついこの前だろが!」

『いやぁ、編集長がアホみたいに売れているから、ブームに便乗しろってうるさいんですよぉ』

 クソが……俺の他作品はそんな扱いしなかったくせに。


「わかったよ……。で、俺への要件ってなんだ?」

『DOセンセイに直接のお仕事ってわけじゃないんですけど。ご協力をお願いしたいんです』

「協力?」

『ええ。今回のヒロインとなる現役JKである、ひなたちゃん。それから、腐女子のほのかちゃんの写真を提供して欲しいんです。イラストのモデルとして必要でして……』

「なるほど」


 絵師であるトマトさんが必要としているということか。

 メインヒロインであるアンナは、正体を隠しているから、モデルはギャルのここあに差し替えられてしまったが……。


『やっぱりダメですかね? DOセンセイのカノジョ候補になる大切な女の子たちですから……』

 俺はそれを聞いて、即答した。

「いいぞ。何枚いるんだ?」

『は、早っ! アンナちゃんの時はあんなに嫌がったくせに……。腐女子のほのかちゃんなら、まだしも……。ひなたちゃんの写真をトマトさんに貸すの、ためらいとかないんですか? おかずにされるかもですよ!』

 トマトさんってそんなに信頼できない男なのか?

 しかし、自分でもよく分からないが、何故かアンナ以外の女子なら、情報を差し出すのに抵抗はないんだよなぁ……。

「トマトさんがそんなことするわけないだろ……。あの人、好きな女の子? がいるし」

 相手がここあだから、疑問形になってしまった。

『へぇ。そうだったんですか。でも、本当に写真提供、許していいんですか』

「ああ、許可は本人達が決めることだ。俺じゃない。ま、大丈夫だろ。アンナはダメだけどな」

『な~んか、アンナちゃんだけ特別扱いしてません? DOセンセイ』

「いや。それはない。もう電車に乗るから、切るぞ」


 話はまだ終わっていなかったが、一方的に電話を切ってしまう。

 白金に全てを見透かされているような気がしたからだ……。


「アンナだけ……か」


 列車に入ってもしばらく頬が熱く、近くに座っていた女子高生の視線が気になった。

 別に嫌らしい目つきではなく、同族……。

 片想い同士、共感しているような顔つき。

 その証拠に相手も頬が赤い。


 違う、俺はノン気だ……。

 だから、そんな目をしないでくれ。

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