第365話 双子コーデ


 走り去っていくマリアの後ろ姿を見て、俺は胸が締め付けられる思いだった。

 もう追いかけても、間に合わないと思ったが……。


「マリア、待ってくれ! もう少し話を聞いてくれ!」


 声だけが虚しく、カナルシティに響き渡る。

 その時だった。俺の肩を優しく触れられたのは。

 振り返ると、ニッコリと微笑むアンナの姿が。


「タッくん。そっとしてあげた方がいいと思うな☆」

 どの口が言うんだ……。

「いや、しかしだな。マリアのやつ、泣いてたし……」

「ううん。タッくんは男の子だから分からないと思うけど。女の子ってこういう時は、ひとりでいたいって思うの」

 なんて、知ったよう口ぶりで語りやがる。

 お前は男だろがっ!


 結局、アンナに止められた俺は、可哀そうだがマリアは放っておくことにした。

 後日埋め合わせをすれば、どうにかなるだろうと……。



「ところで、タッくん☆」

「え?」

「アンナね。お昼から何も食べてないの……どこかで食べて帰ろうよ☆」

 この人は……他人のデートを奪っておいて、自分はガッツリ楽しむつもりか。

 深いため息をついたあと、俺はこう提案してみた。

 

「じゃあ……いつものラーメン屋、博多亭でどうだ?」

「うん☆ あのラーメン屋さん、大好き☆」


 エメラルドグリーンの瞳をキラキラと輝かせて、嬉しそうに笑うその顔を見ると、なんでか許しちゃうんだよなぁ。


  ※


 ラーメン屋までは、はかた駅前通りを歩くのだが。

 空も暗くなってきたので、かなり冷えてきた。

 タケちゃんのTシャツにジャケットを羽織っているが、さすがに夜は寒い。


「結構、冷えるな……」

「うん。アンナも冷え性だから、困るかなぁ……あ、あれを使おうよ☆」

「へ?」


 彼女が大きな紙袋から取り出したのは、ザンリオショップで購入したイヤーマフだ。

 もちろん、普通のマフとは違い、ピンクのもふもふ生地で、フリルとリボンがふんだんに使われたガーリーなデザイン。

 主に可愛らしい女の子が好んで、着用する代物だ。


「アンナは女の子だから、“マイミロディ”を使うね☆ タッくんは男の子だから、黒の“グロミ”ちゃんを使えばいいよ、はい☆」

 とイヤーマフを渡された。


 これをつけろってか?

 男の俺が……無理無理。


「悪いがやめておくよ。こういうのって、女の子がつけるもんだろ?」

 そう言うと、アンナは頬を膨らませる。

「つけたほうがいいって! 風邪引くよ!」

 これをつけて、博多を歩くぐらいなら、風邪を引いた方がマシ……。

「そう言う意味じゃなくてだな……俺は男だから、つけるのに抵抗があるんだよ」

「あぁ。そういうこと。でも、大丈夫だよ☆ グロミちゃんは色が黒だから、男の子カラーだよ☆」

「え……マジ?」


  ※


 結局、俺は半ば強制的にグロミちゃんのイヤーマフを頭につけられ、仲良く博多を歩くことになってしまった。

 すれ違いざま、その姿を見た人々は「ブフッ」と吹き出す始末。

 なんて、罰ゲームだ。

 しかも成り行きとはいえ、ペアルックだもの。


「ちょ、あれ見てよ。今時ペアルックだなんて」

「いいんじゃない? 若いんだし」

「時代は多様性だから、認めてあげないと」

 最後の人、別に俺は認めなくていいです!


 狙ってペアルックにさせたのかは、分からないがアンナは終始、嬉しそうに隣りを歩いていた。

 ラーメン屋について、店の引き戸を開いた瞬間、顔なじみの大将がお出迎え。


「らっしゃい! あら……琢人くんと隣りの子はアンナちゃんかい?」

「ああ、大将。ラーメンを2つ、バリカタでお願い」


 俺とアンナはカウンター席に座って、麺が茹で上がるのを待つ。

 大将が厨房で麺を湯切りしながら、俺とアンナの顔を交互に見つめる。


「なんか、今日のアンナちゃん。感じが違うなぁと思ったけど、コスプレでもしているのかい? 頭もペアルックしちゃって。二人はもう、そこまで仲良くなったんだねぇ」

 勘違いされてしまった……。

 しかし、指摘された当の本人は、嫌がる素振りなどない。

「嫌だぁ~ 大将ったら☆ これは寒いから、つけているんですよぉ☆」

「へぇ、今時の子たちは寒いと、そんな可愛いものを彼氏につけるんだねぇ。二人とも可愛いから餃子をサービスしてあげるよ」

「やったぁ☆ 良かったね、タッくん☆」


 クソがっ!

 こんな恥を晒せば、俺でも餃子が無料になるのかよ。

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