第364話 股間は正直、パート2


「さっきから二人とも、なんで黙っているのよ! 本当にラブホテルへ行く関係だとでも言いたいわけ? 聞いているの、タクト!」

 アンナが黙っているせいで、怒りの矛先が俺に向けられた。

「いや……本当にそういう関係じゃないんだ。俺とアンナは小説のために、取材をするだけの仲であって……。つまり、ラブホテルは取材目的で行ったに過ぎない」

 間違いは言ってない。

 少しでも嘘を付けば、勘の良いマリアにはバレてしまうからな。

「ラブホテルに取材? それ、必要なことなの……。じゃあ、若い男女がそういうホテルへ入ったのに、何にもしなかったとでも言いたいの!?」

 それに対して、俺は即答する。真顔で。

「ああ。そういうことだ」

「なっ!?」

 俺の回答に驚きを隠せないマリア。


「信じてもらえないかもしれないが……。俺たちはホテルへ行ったが、何もしてない。これだけはハッキリ言わせてもらう」

「そ、そんな……健全な男女がラブホテルに入って、何もしない事なんてあるの!? あそこには大人の関係になりたくて、入る以外……使用する意味あるの!?」

「いや、それは一概には言えないんじゃないか、多分……」

 だって、ピンク系のサービスを受ける殿方もいるだろうし。

 経験が無いから知らんけど……。

「タクト! あなたはさっきから、そう言うけどね! この前は『ラブホテルへ行ったことない』って私にウソをついて……。それにあなたはなんで、ずっと股間が……え、エレクトしているのよ!」

「へ……?」


 マリアに指摘されて、俺は恐る恐る視線を股間に下ろす。

 すると、彼女の言うように、ガチンゴチンに硬くなってしまった息子くんが目に入る。

 膨らみ過ぎて、チャックが僅かに開いてしまうほど、元気になっていた……。


 そうか、マリアだと思っていた相手が、アンナだと知ったことにより、無意識のうちに興奮してしまったんだ。

 正面から、両手でパイ揉みをしたし、この前、ミハイルとはいえ、ファーストキスを交わした……。

 つまり、恋愛における『AからB』を一気に経験してしまったのか。

 大人の階段、昇っちゃったの? 男で……ないだろ。

 

 だが、身体はしっかりと反応している。

 全身の血流が全て、一か所に集い、パンパンに膨れ上がる。

 股間が沈静化することは、難しい。



「ま、マリア……これは、違くて……」

「ナニが違うのよ! 最低っ、そんなに私とデートをしたくなかったの? こんな屈辱は初めてよ……どうせ、今からそのアンナとキスでもして、この川を越えるつもりだったんでしょ!?」

 涙目で怒るマリア。

 ていうか、よくそこまで想像できたな……。

 誤解だって言うのに。


「ちょっと待ってくれ! そんな気はなくて……。おい、アンナもなにか言ってやってくれよ」

 隣りにいたアンナへ助けを求めるが、未だに彼女は黙りこくっていた。

 頬を赤くして、チラチラとある所を見つめる……。

 俺の股間だ。

「……」

 黙るなよ、否定してくれ。

 しかも、その反応。更に誤解を生むんじゃうよ。



「もう、いいわ! あなた達、本当に最低で卑猥よ! 不快で仕方ないのだけど!」

 ヤバい、更に火をつけちゃった……。

「マリア……本当に違うんだ、これは……」

 そう言って、彼女の元へ数歩を脚を進めると、「近寄らないで!」と怒鳴られた。

「さっきからエレクトしっぱなしのタクトに触られたくない!」

 あ、忘れていた。

 常時、卍解ばんかいしている俺の股間を。


 顔をぐしゃぐしゃに歪ませ、碧い瞳は涙でいっぱい。

 冷静沈着な彼女が、こんなに感情的になるのは初めてだ。

 よっぽど、屈辱的な出来事だったらしい。



「も、もう……いい。私、今日は帰るっ!」


 そう言うと、マリアは俺たちに背を向けて、カナルシティの方向へと走り去ってしまう。

 

 良かったのだろうか、これで。

 実質、初めてのデートだったろうに。

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