第44話 なんでやねんっ!!
まさやんの本屋さんにて。お客がいなかったので俺と祐介、そして加奈と由紀で一旦店内で二手にわかれていた。加奈が先に由紀のことを軽く紹介して、今度は俺の番という感じだった。
突然やって来た友達の
対面にいる由紀に軽く紹介すると、
「あっそう」
と素っ気なく返された。
なんとも不機嫌なことで。めんどくさい。
「お、おいっ………!」
なんだよ祐介、めんどくさい。
「あいつすげぇムカつくんだけどっ………! ほんと加奈ちゃんの友達なの………!?」
「まあ………、仲は良いぞ、ほら」
俺は対面にいる加奈と由紀を指さす。
ぎゅっ。
何を警戒したのか分からないが、由紀は隣にいる加奈の腕にしがみついた。肩まである、淡くキレイな金色の髪が逆立つように揺れて、目を鋭く細める。
ガルルルルッ………。
こわっ………。威嚇する肉食獣かよ。それと祐介、俺の後ろに逃げるなっ。盾にすんなっ。
「ふっふっん〜」
由紀が勝ち誇ったように得意げな笑みを浮かべる。まったく困ったやつだ………。
「こらっ、由紀ちゃん」
加奈も由紀の威嚇行動に気づいたらしい。小声でたしなめると、由紀がひるんだ。悲しげに潤んだ瞳で加奈を見つめる。「くぅん………」と今にも泣きそうな子犬みたいだ。えらい変わりようで。
そんな由紀を、加奈がよしよし、と軽く頭を撫でる。由紀の顔が自然と緩む。扱い方が上手だな。
ちょんちょん。
ん?
背中を突かれてイラッとした。なんだよ、祐介。
「あ、あいつ………、ちょっと可愛いとこもあるじゃん………、でも、ちょっとだけだぞ。そこんとこ勘違いすんなよっ、太一、マジで。ムカつく女子に変わりはない………! でも、今はちょっとだけ可愛い、かもしれん」
「そうか………」
俺は祐介の単純な頭にげんなりしつつ、対面の女子達を眺める。さて、このまま加奈が由紀の頭を撫で続ける様子を見守るのもどうかと思う。だから、
「なぁ、祐介」
「どした?」
「お前に言いたいことがある」
「おうっ、なんでもござれ」
「店に来なくてもいいぞ」
「ひどっ!? なんでそんなこというのっ!?」
「いやだって、来る用事ないだろ………」
「あるっての!! 忘れたのか太一! 俺との約束を!」
熱い眼差しで何かを訴えってくるなっ、なにか約束したか?
「まさか覚えていない?」
「おっ、その通りだ。だから大丈夫」
「なにが大丈夫だよっ!? っておい!? 背中押すなッ! 店の出入り口に連れて行こうとするな!」
意地でも動かないかと。どうしたものか。
「なあちょっと」
ん?
由紀が俺たちに声をかけてきた。鋭い目つきで、祐介を指差す。
「あんたも、ここでバイトしてんの?」
「えっ? 俺?」
「あんたしかおらんやろ。で、どうなん?」
「あっ、いや………、あの」
祐介は口ごもりながら俺の顔を伺う。なんで助けてほしそうなんだよ、正直に違うと言えばいいだけだろ?
「そっかそっかぁ。あんた、別にバイトじゃないんやなぁ」
由紀が声を弾ませながら喋る。祐介が答えずとも分かったらしい。あと、なんか嬉しそうだ。なぜ?
すると、由紀が小さな胸を張って告げた。
「うちらのバイトの邪魔やから、はよ帰り。しっしっ」
っと、祐介に向けて手をひらひら払う。あぁ、そういうことか。まあ祐介、第一印象が悪かったからなぁ。
当の祐介は頬を引きつらせていた。なんか怒ってるが、まあいっか。俺も祐介を帰らそうとしてたから、便乗しますか。
「という訳だ、祐介。すまんな」
「なっ!? 太一まで!? そ、そんなぁ………、せっかく来たんだぜぇ………?」
祐介が寂しげに声を吐く。そんな風に言われると罪悪感が。いやでも、祐介には用はないんだ、だから、早めに帰ってーーー、
「わ、私はいてほしいなぁ!」
突然、加奈が声を張った。俺と祐介、由紀の視線が同じところへ。加奈はあたふたしながらも続ける。
「私、う、嬉しいのっ。友達が集まってくれて。こんなに賑やかなの………、久しぶり」
そう言って加奈は微笑む。とげとげした場の空気が一気に和んだ気がした。
「まだお客さん来てないから、それまで、楽しく時間過ごせたらなぁ〜って思うの。ねっ、太一くん」
「えっ!?」
突然呼ばれて焦った。加奈は俺に期待の眼差しを向けていて。………、ずるいな、それは。
でも俺は、その期待に応えることにした。
「まっ、お客さんが来るまでは、ここにいても良いか」
俺のその言葉に、加奈は嬉しそうに笑む。ははっ、その笑みもずるい。
「よっしゃ! ありがと、加奈ちゃん! それに太一もなっ」
祐介の喜ぶ声。
「はぁ〜………、まあ、少しの間だけ仲ようか」
由紀は諦めの気持ちが口から漏れていた。はしゃいでいる祐介には聞こえていない。
「あ〜でも、言っても少しの間かぁ。加奈ちゃんと楽しい時間過ごせんの」
「おい、俺もいるからなっ………」
「ちょっと、うちもいるから………」
「わ、分かってる! 2人とも顔がこわいから!」
「ふふっ、3人とも仲良しだねっ」
「「「ぜーんぜん」」」
思わず被って声に、少しの間の後、4人で笑ってしまった。こういうのも、いいもんだな。
笑いが収まった後、加奈がふと、楽しそうに呟いた。
「4人で、バイトしたら………、こんな感じなのかな」
えっ?
思いもしなかった。そんなこと………、あるか。由紀だって、最初はバイトの予定なんてなかったもんな。
つい祐介を見てしまった。
祐介はポカンとした表情で、何を思っているのかわからない。いや、なんとなく………。
祐介は、加奈を見る。そして由紀を見る。最後は、俺に顔を向けた。
………、おい、どんだけ俺を見るんだよ。瞳をキラキラさせるな、いや、おい、ちょっと待て、嫌な予感しか、
「私、風間祐介! 今日からここでバイトしますっ!!」
しない!!
祐介の高らかな宣言が、まさやんの本屋さん内で響いたかと思うと、
「はああああ!?!? なんでやねんっ!!」
「ぐはっ!!」
由紀の大きなツッコミ(裏拳)が、祐介の胸部を大きく叩いたのだった。
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