第27話 パメラ①
そして次の休日。
俺とエミルはパメラに会いに、サンズベルク城下町のとある貴族のお屋敷にやってきていた。パメラは高等科卒業後、このお屋敷で女中として働いているらしかった。
立派なお屋敷を見上げると、思わずため息がこぼれた。
「結構、デカい屋敷だな……」
まさかパメラも、同じ城下町に住んでいたなんて。
まあ、高等科を卒業したら地元の街や村に戻って働くか、この城下町で働くか、大学に進学するかのどれかになるんだけどね。
パメラが働いている場所は、グラディスに教えてもらった。絶交する前に、どのお屋敷で働くかを聞いていたんだそうだ。
結局グラディスは、俺とエミルがパメラと話をすることを了解してくれた。グラディスは「今はまだパメラに会う心の準備が出来ていないから」とのことで、だから今日は俺とエミルの二人だけだ。
「エドガーさん、大丈夫ですか? なんだか雰囲気に呑まれてますけど」
「いや、全然大丈夫じゃないよ。こんな貴族のお屋敷になんて来たことないしさ。ていうか、エミルはよく緊張しないね」
「嫌だな。こう見えても少しは緊張しているんですよ」
いやいや、全然そんなふうには見えないから。
「でもなにより、パメラさんに会ってお話を聞ける楽しみのほうが大きいですからね」
「楽しめてなによりだよ……」
俺はドキドキしている胸に手を当てた。貴族に会うわけじゃないけど、立派なお屋敷を目にしてしまうとやっぱり緊張するな。
それにパメラって女の子は、グラディスの話によると、男相手に殴り合いの喧嘩をするような気の強い女の子だという話だし。正直、俺の苦手なタイプだ。
しかも、グラディスがレオン先生を好きだと知っていて横取りするような子だろ?
俺みたいな女の子にすぐ騙されるような男じゃ、太刀打ちできないんじゃないだろうか。
「あ、出てきましたよ。あの人じゃないですか?」
エミルがお屋敷の方を指さす。
お屋敷の勝手口から出てきたのは、小柄な女性だった。黒に近い茶色の髪を後ろで結んで、黒いメイド服に白いエプロンをつけている。遠目だけど、顔立ちの整った可愛い子だ。あの子がパメラか……。
「さあ、エドガーさん」
「わ、わかったよ!」
エミルに背中を押された俺は、勇気を出して木の陰から出て、パメラと思われる女の子に近づいていった。
「あ、あの! 俺、高等科で一緒だったエドガー・リンネだけど、君、パメラさんだよね。俺のこと覚えてる? その、実は今日はグラディスのことで話したいことがあって君を訪ねてきたんだけど……」
パメラはジャガイモがたくさん入った桶を両手に抱えた格好のまま、俺を見上げた。そして、少し吊り上がり気味の大きな緑色の瞳で俺をまるで不審者を見るように見つめると、そっけない口調で言った。
「今、仕事中なんだけど。見てわからない?」
うう、言い方がもうキツい……。
「えっと、ごめん! そうだよね。ええっと、じゃあ、仕事が終わる頃にまた来るよ。いつごろ手が空きそう?」
「空かない」
「え?」
「聞こえなかったの? 空かないわよ」
パメラはつんとした口調で言う。俺が戸惑っていると、パメラは俺を上から下までじろじろと見た。
「ふうーん。もしかして、グラディスの今の男?」
それからぷいっと横を向いて、こう言ったのだ。
「趣味わる」
その言葉にさすがにムカっときて何かを言い返そうとしたとき、エミルから腕をぐいっと引っ張られた。落ち着け、ということらしい。
でもさあ、初対面の人間に対してこんな言い方ないじゃないか。
グラディスはなんでこんな意地悪そうな女のことを心配するんだろう?
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