第25話 ひと休み①

 

 サンズベルクの城下町に着いた俺たちは馬車を降りると、大学の寮に戻るグラディスを見送った。そして、俺はエミルと一緒にいったん道具屋レイツェルへ戻ることになった。

 石畳の坂道を歩きながら、俺はエミルに話しかけた。

 

「これからどうするんだよ。エミルのことだから何か考えているんだろ?」

「そうですねえ……」


 そう言ってエミルは背中の後ろで手を組むと、考えるような表情で首を傾けた。


「え、まさか考えてないの?」

「とりあえず今日これまでの出来事を整理しないといけません」


 まあ、色々とあったもんなあ。

 グラディスがパメラと仲直りできるのが一番いい決着方法かと考えていたけど、そんなに簡単にはいかないようだ。


「グラディスが心配だな。俺たちがかえって傷つけちゃったんじゃないか?」

「そうですね。でもエドガーさんがそうやってグラディスさんの事を心配してくれるので、僕は安心してます」

「あのさあエミル。俺が心配したところで、たいしてグラディスの助けになんかならないよ」

「そんなことはありません」


 そう言われると嬉しいけど……。


 サンズベルクは石造りの街だ。城下町のほとんどの道は、石畳で舗装されている。大通りはお城からまっすぐな道なんだけど、ひとつ奥の道に入れば、裏通りはどこも狭くてしかも曲がりくねっている。


 道具屋レイツェルもそんな狭い裏通りにあって、俺とエミルは緩やかにカーブを描いた細い坂道を下って行った。

 しばらくすると、道具屋レイツェルの看板が見えてきて、俺をホッとさせた。道具屋の扉を開けるとチリンチリンと鈴が鳴って、古道具や薬草が並んだ薄暗い部屋が迎えてくれた。なんだかすっかりホームって感じだ。


「ただいまー」

「おかえりなさい、二人とも」


 カウンターの奥のイルミナさんが笑顔で迎えてくれた。この笑顔、癒されるなあ。


「あら、浮かない顔ね、エドガー君。今、ハーブティーを煎れてあげるからテーブルに座ってて。大丈夫、きっと上手く行くわ、元気出して」

「そうだといいんですけどね」

「あら、気休めで言ってるんじゃないのよ」

「え、どういうことですか?」


 俺が不思議な顔でイルミナさんを見ると、イルミナさんは首を少し傾けていたずらっぽい顔で笑った。


「実は私、占いを少しばかりかじっているの」

「ええっ!」


 俺は驚いてイルミナさんを見た。イルミナさんが占いを嗜んでいるだなんて、そんなの初めて聞いた。確かに、イルミナさんのミステリアスな雰囲気は占い師ってイメージにぴったりだけど。


「初めて聞きましたよそんなの」

「初めて言ったもの」


 イルミナさんが楽しそうにふふっと笑う。


「私にはなんとなく分かるの。きっと上手くいくわ。だからもう少し頑張って!」


 そう言い残して、イルミナさんはお茶を入れに奥へと入ってしまった。俺はエミルと一緒に、いつものアンティークのテーブルに座ると、すました顔をしているエミルを見た。


「なんでイルミナさんのこと、黙ってたんだよ」

「聞かれませんでしたし」

「そうは言うけど、今回の事だって、占ってもらえば少しはスムーズに事を運べたんじゃないの?」

「占いで真実が見えるわけではありませんからね」

「そうだけどさあ」

 

 ま、いいか。

 本格的な占い師ならこんな道具屋で働いているわけないし、きっと趣味でたしなむ程度なんだろう。

 俺は椅子に座ると、背もたれにどさっと寄りかかった。ずーっと馬車に揺られたせいか、おしりが痛いや。


「でも、レオン先生に話が聞けなかったのは痛かったなあ」


 ハンナ先生に頼み込んで校長先生に話を聞いてもらったところ、レオン先生は学校を辞めたあと、とある村の農場で働いているらしかった。でもその村はパストーレの街からはずっと離れていて、一日やそこらで行けるような距離じゃなかったのだ。


 生徒に手を出していたなんて事実が知れたら、もう近隣の街には居られないだろうし、教職の仕事にももう就けないんだろうな。


「こうなったらパメラさんに会って話を聞きたいですね」

「それって、エミルは円満解決だって思ってないってことだろ? 馬車での会話って、やっぱりグラディスの本音を引き出すための揺さぶり?」

「わかります?」

「だんだんね、わかってきたよ。エミルの性格」


 人の気持ちなんて理路整然としてるわけじゃない。ましてや自分の感情なんて、客観的に冷静になんて見られない。

 エミルは客観的な事実を相手に突きつけて、混沌としている状態の気持ちを整理させつつ、そこから本音を聞き出そうとするやり方だ。ちょっと強引だとは思うけどね。

 

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