第11話 道具屋へ戻る①
結局、磨き布にまつわる真相は何ひとつ分からないまま、俺は道具屋へと引き返した。
分かったことと言えばパメラっていう女の子がこの問題に絡んでいるらしいってことだ。
誰なんだろうな、パメラって。グラディスの友人……なんだろうな、きっと。もしかしたら街の高等科で一緒だったかもしれないけど、俺の記憶にないってことは別のクラスだったんだろう。
「許さないって言ってたっけ……」
俺はさっきまでのグラディスとのやり取りを思い返していた。パメラって子との間に何があったのかは知らないけど、穏やかじゃない感じだ。
考え事をしながら石畳の坂道を歩いていたら、いつのまにか道具屋「レイツェル」の前にたどり着いていた。
「ただいまー」
「あらエドガーくん、お帰りなさい」
モヤモヤした気分で道具屋の扉を開けると、イルミナさんが笑顔で出迎えてくれた。イルミナさんの明るい笑顔を見るだけで癒されるだなんて、我ながら現金だ。
「お茶入れてあげるから、座って待ってて。エミルもすぐ来るから」
「すいません」
俺がこの間のアンティークテーブルに腰掛けた時、ちょうどエミルが奥の居住スペースから顔を出した。
「エドガーさん、お疲れ様でした」
そう言って俺と目を合わすと、成果がなかったことを察したのか、エミルは苦笑を浮かべた。
「どうやら上手くいかなかったようですね」
「まあね」
俺は肩をすくめてみせた。
この子、本当に何者なんだろうな。とても十一歳には思えないくらいに頭が良くて、察しも良くて、時々年上の人と話しているような気分にさせられる。
ふと、エミルの背中にいつもくっついている少女の姿がないことに気がついた。
「あれ、ノエルは?」
「奥で休んでます。雑音が聞こえすぎて疲れてしまうので」
「そっか。心配だね」
「ええ。でも無理をさせなければ大丈夫ですよ」
そう言って、エミルがテーブルに向かい合わせに座ると、ちょうどイルミナさんがお茶とクッキーを持ってきてくれた。これ、リラックス効果のあるハーブティーだ。イルミナさんわかってるなあ。
俺はハーブティーを飲みながら、グラディスに会った時の事をエミルに報告した。
磨き布は、もともと俺ではない別の誰かのためにグラディスが用意したらしい物であること。
詳しく話を聞こうとしたけれど、急に怒り出して取り付く島がなかったこと。
磨き布はもういらないから捨てて欲しいと言われたこと。
そして、パメラという女の子が磨き布を巡るごたごたに関わっているらしい、ということ。
どことなく気持ちがモヤモヤしているのは、進展がなかったからってだけじゃない。グラディスが最後に見せた、辛そうな顔がずっと心の端に引っかかっていた。
確かにあんな顔じゃあ、磨き布に悲しみの感情が染み込むってもんだ。
「なるほど。グラディスさんから話を聞くのは容易ではないようですね」
エミルはテーブルの上に置かれた磨き布を手に取った。小首を傾げて考え込んでいる様子は年相応に子供っぽく見えて、なんだか俺をホッとさせた。
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